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インタビュー

“土日しっかり休める農業”!西日本最大級・響灘菜園で見た新しい農業のカタチ

「農業=きつい、休めない」。多くの人がそう思い込んでいるのではないでしょうか。真夏の炎天下で汗を流し、天候に振り回され、休日も少ない――。就活生にとっても「安定感に欠ける仕事」と見られがちな業界です。

しかし北九州市にある「響灘菜園」は、その固定観念を鮮やかに覆します。広大な敷地に建つ温室は8.5ヘクタール。PayPayドームがすっぽり入るほどのスケールで、西日本最大級を誇ります。そこでは温湿度センサーや天窓の自動開閉、ミスト冷却など最新の環境制御が稼働し、年間10か月の収穫を可能にしています。しかも“土日は休める農業”を実現しているのです。

さらに、規格外トマトを「恩返しカレー」として商品化するなど、地域や大学との連携にも積極的。ここは単なる農業の現場ではなく、テクノロジーと社会課題解決の最前線です。そんな響灘菜園を訪れた二人の学生が、圧倒的スケールと新しい農業の姿を体感します。

1. 圧倒されるスケール感〜温室に入った瞬間、目の前に広がる“ドーム級の世界”〜

本日はよろしくお願いします!

ようこそ響灘菜園へ。まずは温室をご案内しますね。入った瞬間に“うわっ”と声が出ると思いますよ。

(学生たち、白衣に着替え、エアシャワーを通過して温室へ)

……すごい!端がまったく見えません。

ほんとだ。まるでドーム。空気も外とは全然違いますね。

驚かれるのも当然です。ここは全部で8.5ヘクタール。イメージしやすいように言うと、PayPayドームがすっぽり入ってしまう広さなんです。西日本では最大級規模の温室ですよ。

えぇー!そんなに大きいんですか。地元にこんな施設があるなんて知りませんでした。

そもそも、どうして北九州にこの温室を建てることになったんですか?

いい質問ですね。実はこの土地はJ-POWERさん、つまり電源開発さんが埋め立てて作った土地なんです。全国の火力発電所で出る灰をここに集め、埋め立てて造成したんですよ。でも埋め立てただけでは“この後どう利用するか”という課題が残ります。

確かに、ただの空き地のままじゃもったいないですよね。

そこで、農業に活用しようという話が持ち上がったんです。北九州市としても“環境未来都市”を掲げていましたし、地域の新しい雇用をつくる場にもなる。J-POWERさんにとっても、埋め立て地を有効活用して社会的価値を示せる。そうした思惑が重なり、この響灘菜園が誕生したんです。

なるほど。単にトマトを育てるだけじゃなくて、地域開発の一環として始まったんですね。

そうなんです。農業だけでここまで大きな温室を建てるのは現実的には難しい。でも“地域の課題解決と農業”を組み合わせることで、初めて実現できた規模なんですよ。

農業って“個人で畑を耕す”イメージでしたが、ここまでスケールが大きくなると産業そのものなんですね。

まさに“産業としての農業”です。雇用を生み、地域と協働し、持続可能性を重視する。だからこそ北九州という土地に建てる意義があったんです。

ただ、北九州って冬は日照時間が短いですよね。太陽の光が足りないと農業には不利なんじゃないですか?

そこもよく聞かれるポイントです。確かに日本海側は日射量が少なくて、トマト栽培にはハンデがあります。正直、太平洋側の方が条件は良い。でも、ここにはJ-POWERさんと一緒にやる意味があった。埋め立て地を有効活用し、地域に新しい雇用を生み出す――それが農業の価値を超えた社会的な価値を持つんです。

条件よりも、地域や企業との連携を優先したんですね。

そうです。今でこそ“サステナブル”という言葉が一般的になりましたが、当時から持続可能性を考えていた。だからこそ、北九州で挑戦する意義があると思ったんです。

この広さを維持するだけでも大変そうです。どれくらいの人数で運営しているんですか?

社員とパートを合わせて200名以上ですね。農業法人としてはかなり大規模です。

それだけの人が関わっているんですね。農業というより、もはや一つの産業拠点って感じがします。

まさにそう。農業を通じて地域に雇用を生み出し、産業の一つとして成り立たせる――それが響灘菜園の役割なんです。

2. ハイテク農業の舞台裏─センサーと人の勘が融合する、農業エンジニア“グロワー”

先ほど見渡しても端が見えなかった温室ですが、これだけ広いと環境管理が大変なんじゃないですか?

その通りです。放っておけば温度や湿度に大きな差が出ます。屋根の気象観測機や室内のセンサーでデータを集め、コンピューターに送り、自動で最適な環境を維持しているんです。

すごい…。まるで工場の生産ラインを制御しているみたいですね。

よく言われます。夏は天窓を開けたり遮光カーテンを閉めたり、ミストで冷却。冬はボイラーで温水を流して温めます。さらに光合成を促すため、ボイラー排気を回収してCO₂を温室に送り込んでいます。

温室って“ビニールハウスを大きくしたもの”くらいに思っていましたが、全く別物ですね。

農業のイメージが変わるでしょう?こうした設備を駆使するからこそ、長期栽培が可能になるんです。

でも、コンピューターが全部やってくれるなら、人の仕事は少なくなるんですか?

そこが重要です。システムが自動で環境を整えますが、最終的に“どの値にするか”を決めるのは人。植物の状態を観察して判断する役割を担うのが“グロワー”です。

グロワー…。初めて聞きました。農業の専門職なんですね。

そうです。簡単に言えば“農業エンジニア”。同じ30度でも晴れの日と曇りの日ではトマトの反応が違う。葉の色や花の状態を見ながら『今日はCO₂を多めに』『ミストは控えめに』と判断します。経験と知識、そして勘が求められる仕事です。

なるほど。データを扱いながらも、最終的には人間が植物と向き合うんですね。

はい。コンピューター任せでは良い作物はできません。数値の裏にある“植物の声”を読み取るのがグロワーの腕の見せどころです。

新卒で入った人でも目指せますか?

最初は収穫や誘引など基本作業からですが、経験を積めば挑戦できます。資格は不要ですが、パソコン操作に慣れていて、植物に興味を持てることが条件ですね。

文系出身でも大丈夫ですか?

もちろん。専門的な農業知識が必要となるポジションですが、未経験でも熱意でカバーは可能です。

農業というより、本当にエンジニアや研究職に近いですね。

そうなんです。農業は収穫や植え付けといった力仕事ばかりではなく、データや技術と結びつく知的な仕事なんですよ。

3. トマト栽培のサイクルと工夫─“ずらし”で10ヶ月収穫。1本から200個のトマトを生む仕組み〜“ずらし”で10か月収穫。1本から200個のトマトを生む仕組み〜

さっき“年間10か月も収穫が続く”と聞いて驚きました。普通の畑だと夏から秋の数か月だけですよね?

そうです。家庭菜園や露地栽培なら6~8月が一般的。でも私たちの温室では“1年1作”といって、8月に苗を植え翌年7月まで収穫を続けます。

そんなに長く続けられる仕組みは?

ポイントは“ずらし”です。トマトは1日で3〜4センチ伸びることも。30センチを超えると自立できないので、紐で吊り、少しずつ緩めて横にずらしていきます。

なるほど。支えを調整するわけですね。

そう。茎が伸びるごとにフックを横にずらすことで果実が常に目線の高さにあり、作業が楽になります。繰り返すうちに木は15〜20メートルに育つんです。

20メートル!?まるで長いロープですね。

でも誘引とずらしを続ければ、収穫は常に楽にできます。

収穫作業はどうするんですか?

専用の台車に座り、レールの上を移動しながら収穫します。無理な姿勢にならず効率的。1本から年間200個ほど取れますよ。

200個!?家庭菜園の数倍ですね。

安定した環境制御があるからです。露地栽培は天候に左右されますが、温室では温度、水分、栄養をコントロールできる。だから10か月間の長期収穫が可能になるんです。

工場の生産管理みたいですね。

そう。農業は365日止まりません。トマトは盆も正月も成長します。ただ、うちは“土日は休める農業”を実現するため、金曜までに収穫を終わらせます。

取り切れなかったら?

月曜には過熟して売り物になりません。だから5日で計画的に収穫するのが重要。難しいですが達成したときの達成感は大きいですよ。

初心者でもできますか?

もちろん。チームで進めますしリーダーが指示を出します。誰でも最初は初心者。時間をかければ大丈夫です。

農業の印象が“体力勝負”から“仕組み化された現場”に変わってきました。

その通り。大規模温室はテクノロジーと仕組みで効率化しています。だからこそ若い皆さんにも“新しい農業”として関心を持ってほしいですね。

4. 働く人と環境─40代女性からリタイア後の男性まで。誰もが働きやすい温室

ここで働いている方って、やっぱり農業経験がある人が多いんですか?

意外に思うかもしれませんが、ほとんどが未経験からです。現在は社員とパートを合わせて200名以上。その中心は40〜50代の女性ですね。

どんな人が活躍しているんですか?

トマトは非常にデリケートで、収穫時に少し強く握るだけで傷んでしまう。だから繊細で丁寧な作業が必要です。特に40〜50代の女性が多く活躍していますが、性別や年齢にかかわらず、そうした作業が得意な人はだれでも力を発揮できます。

なるほど。

最近はリタイア後の男性も増えています。“土に触れてみたい”という動機が多く、自分で農業を始めるのは難しくても、ここなら挑戦できます。60代以上の男性も元気に働いていますよ。

幅広い世代がいるんですね。

でも温室の中はs1夏は暑くて大変そうです。

確かに高温になります。だから“働きやすさ”の工夫が欠かせません。その一つが“成果給”です。効率よく収穫できた人は時給に反映されます。

成果が見えるとやる気が出ますね。

全員一律だと不満も出ますが、成果給なら“頑張れば報われる”と感じてもらえる。逆にマイペース派もその評価で納得きます。

人によって働き方が違っても、制度でカバーできるんですね。

そうです。さらに子育て世代のために企業主導型の保育園も運営しています。今では十数名の子どもが利用し、その多くは従業員のお子さんです。

農業を事業として営んでいる会社が保育園まで運営しているのは驚きです。

女性が安心して働ける環境が大事です。“子どもを預けられるからここで働ける”と思ってもらえることで、人材も集まります。

安全面ではどんな取り組みをしていますか?

受粉用のクロマルハナバチは役立ちますが刺されるリスクもある。だから応急処置キットを常備し研修も行っています。熱中症対策も水分補給の徹底などで防いでいます。

危険に備える体制があるのは安心です。

農業は安全でなければ続きません。従業員の健康と安全を守るのも経営の重要な責任です。

ここまで聞くと“体力勝負で厳しい”というより、仕組みで安心して働ける職場なんだと分かります。

そう思ってもらえるのは嬉しいですね。若い世代にも“働きやすい農業”を知ってもらいたいです。

5. トマトの行き先と食卓のつながり─あのハンバーガーにも?身近な食卓に届く“デリカトマト”

ここで収穫されたトマトって、具体的にはどこに出荷されているんですか?

実は出荷先は大きく二つに分かれています。温室の半分はカゴメ向け。契約で指定された品種を栽培して、すべてを出荷します。残り半分は“響灘菜園ブランド”として自社で販売していて、主に業務用の飲食チェーンに卸しているんです。

業務用というと、どういうところですか?

たとえばハンバーガーチェーンやファミリーレストラン、コンビニのサンドイッチに使われることもあります。特にうちの“デリカトマト”は飲食業界で高く評価されているんですよ。

デリカトマト?普通のトマトと何が違うんですか?

一番の特徴はゼリー部が少なくて果肉がしっかりしていることです。普通のトマトは切ったときに中のゼリー部分が多くて水分が出やすいですが、デリカトマトはそれが少ない。だからサンドイッチやハンバーガーに使っても水っぽくならず、形が崩れにくいんです。

確かに、家でトマトを切るとパンがびちゃびちゃになってしまうことがあります。あれが起きないんですね。

そう。調理現場では“歩留まりがいい”ことが何より重要です。せっかく仕入れても水分で崩れてしまえばロスになる。うちのトマトは保存性も高く、納品してから1〜2週間は十分に持ちます。だから大手チェーンでも安心して使ってもらえるんです。

自分が普段食べているハンバーガーに、このトマトが使われているかもしれないと思うと、一気に身近に感じます。

そう言ってもらえると嬉しいですね。農業って消費者からは見えにくい存在ですが、実は皆さんの生活にしっかり関わっている。特に業務用の食材は表に名前が出にくいですが、食卓やコンビニの惣菜にちゃんとつながっているんです。

なるほど。生産者の顔が見えにくい業務用だからこそ、品質や安定供給が信頼につながるんですね。

まさにそうです。農業を事業として営んでいる会社としての使命は“安定しておいしいものを届けること”。消費者の皆さんが安心して口にできるように、私たちは毎日トマトと向き合っています。

6. 規格外トマトと挑戦─“もったいない”から“恩返し”へ。地域と生む新しい商品

ここまでのお話で、出荷されるトマトの多くはスーパーや飲食店で使われることが分かりました。でも、形が悪かったり傷がついたりしたトマトはどうしているんですか?

以前は正直、廃棄せざるを得ませんでした。味は変わらなくても、見た目が基準を満たさないと商品として流通できないんです。でも“食べられるのに捨てるのはもったいない”という思いがずっとあった。そこでまず始めたのが、子ども食堂への寄付です。

子ども食堂!それはいい取り組みですね。

ありがとうございます。地元の子どもたちに喜んでもらえるのはもちろんですが、社員にとっても“自分の仕事が地域に役立っている”と実感できるんです。ただ、それだけでは解決になりません。規格外トマトは毎日一定量出てしまうので、寄付だけではさばききれないんですよ。

そこで新しい取り組みを考えたんですね。

はい。九州栄養福祉大学さんと連携して生まれたのが“トマトの恩返しカレー”です。大学の先生や学生さんがレシピを考え、実際に調理して試作品をつくってくれました。

恩返しカレー!名前も素敵ですね。どうしてその名前に?

本来は捨てられるはずだったトマトが、カレーになって地域に“戻ってくる”。そんな意味を込めて学生さんたちが名付けてくれました。パッケージのデザインも学生さんが担当し、イベントや地域の給食にも取り入れていただきました。

学生のアイデアがそのまま商品になったんですね。それってすごくやりがいのある経験だったんじゃないですか?

そうだと思います。自分の考えた商品が店頭に並ぶというのは特別な体験ですし、社会に出てからの自信にもつながるでしょう。私たちとしても若い世代と一緒に仕事をすることで、新しい発想をもらえるのは大きなメリットです。

それからサブレやパスタソースも作っていると聞きました。

そうなんです。恩返しカレーに続いて、“トマトサブレ”や“トマトパスタソース”の開発にも挑戦しています。どれも規格外トマトを活用している商品です。カレーで実績ができたからこそ、地域の企業や学生も積極的に関わってくれるようになりました。

規格外トマトが“廃棄物”から“資源”に変わっていく流れ、すごく面白いです。

ありがとうございます。食品ロスは社会全体の大きな課題です。私たちの取り組みはまだ小さな一歩ですが、“もったいない”を“新しい価値”に変えるチャレンジだと思っています。

就活生としても共感します。社会課題の解決に直接つながる仕事って魅力的ですよね。

そう言ってもらえると嬉しいです。農業は単に作物を育てるだけでなく、地域や社会にどう貢献できるかを考える仕事でもある。だからこそ、若い人たちに興味を持ってもらいたいんです。

7. 未来と理念─拡大より持続可能性。“感謝”を根っこにした経営

ここまでお話を聞いて、規模も仕組みも本当に大きな農業なんだと実感しました。これだけ成功しているなら、さらに温室を拡大していく計画もあるんですか?

実は、拡大は考えていません。よく“もっと広げればいいのに”と言われますが、今の8.5ヘクタールを維持するだけでも人手不足との戦いなんです。トマトは毎日成長するので、誰かが必ず手をかけ続ける必要がある。人がいなければどんなに立派な温室でも意味がないんです。

人手不足…。やっぱり農業全体の共通課題なんですね

そうですね。ただ“後継者がいない”というより、“現場で働く人をどう確保するか”が課題です。温室内は夏はとても暑く、冬は寒暖差もある。そんな環境でも働いてくれる人をどう集めるか。最低賃金の上昇で人件費もかさみますから、拡大より今ある規模を持続させることを優先しています。

持続可能性を意識した経営ということですね。

その通りです。例えばCO₂の効率的な利用や排液の再利用、省エネルギー設備の導入。環境負荷を抑えながら安定的に生産することがこれからの農業には欠かせません。

環境への配慮はこれからますます重要になりますよね。

はい。そしてもう一つ大事にしているのが“理念”です。響灘菜園の属するカゴメグループの理念は“感謝”。実はトマトの花言葉でもあるんですよ。自然に感謝、人に感謝。この気持ちを忘れずに日々の仕事に取り組んでいます。

感謝…すごくシンプルだけど、だからこそ強い言葉ですね。

そうでしょう。自然の恵みがなければトマトは育ちませんし、人の手がなければ収穫も出荷もできない。消費者が食べてくださるから私たちの事業は成り立つ。そのすべてに感謝する。これが経営の根っこにある考え方です。

農業って技術だけじゃなくて、そうした想いがあるから続けられるんだなと感じました。

その通りです。だからこそ、若い世代の皆さんにも“農業は面白い仕事だ”と感じてほしい。これからの農業を支えるのは皆さんのような次の世代ですから。

広大な温室で最先端の技術を駆使しながら、土日はしっかり休める。

規格外のトマトさえ「恩返しカレー」として新しい価値に変えてしまう。

響灘菜園で見えたのは、“農業=大変”というイメージを覆す、挑戦と工夫に満ちた現場でした。

働きやすさを支える制度、地域とつながる取り組み、そして根底にある「感謝」という理念。そこには、自分の力を活かしながら社会に貢献できるフィールドが広がっています。

「安定」だけではなく、「成長」や「やりがい」を求めるあなたにとって、農業という選択肢は想像以上に面白いかもしれません。

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