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インタビュー

“水を治める”という使命──北九州から世界へ、命を支える仕事

「水道の水って、ひねれば出るのが当たり前ですよね?」

そう問いかけた学生に、北九州ウォーターサービスの社長は笑って、
「私たちは“水を届ける会社”ではなく、“水の未来をつくる会社”なんですよ。」

北九州を拠点に、浄水場や浄化センター(下水処理場)の運転管理、さらには海外への技術支援まで手がける同社。
一見、静かなインフラの裏にあるのは、社会を支える情熱と、未来を見据えた挑戦でした。

第1章|水をつくり、きれいにし、世界へ伝える仕事

まず、北九州ウォーターサービスってどんな会社なんですか?

うちは「豊かな水環境の創造と持続を、北九州から国内、そして世界へ」という理念を掲げています。
ひとことで言えば、“水を通じて社会を支える会社”です。

主な仕事は三つあります。
一つ目は浄水場で“水をつくる”こと。
川の水を取り込み、砂や土などの汚れを取り除き、塩素で消毒して安全な水をつくります。
二つ目は“水をきれいにする”こと。
家庭や工場などから出る水を下水処理場で浄化し、海や川に戻しています。
そして三つ目は“技術を伝える”仕事。
北九州で培った上下水道のノウハウを、海外へと広げています。

海外でも同じような仕事をされているんですか?

はい。カンボジアやタジキスタンなど、水インフラがまだ整っていない国では、
現地の人たちに浄水技術や施設管理の方法を教えています。
日本のように蛇口からそのまま水を飲める国は、世界でもほんの一握り。
だからこそ、北九州の経験を活かした国際支援はとても重要なんです。

たしかに、“水”って普段意識しないけど、失えば生活が止まりますよね。

まさにその通りです。皆さんの日常生活も、工場の生産も、病院の医療も、農業も、全部“水”の上に成り立っている。
つまり私たちの仕事は“社会のすべてを支える土台”なんです。

なるほど…。見えないけどなくてはならない仕事ですね。

そうなんです。北九州はかつて公害のまちと言われた時代がありましたが、
いまでは「環境モデル都市」として全国から注目されています。
その変化の中心にあったのが、水の再生なんですよ。
だから、私たちは“水を守る技術”を次の世代や世界に伝える責任があると思っています。
北九州から国内、そして世界へ。水を通じて、人の暮らしと未来をつなぐこと。
それが私たちの仕事の原点です。

第2章|市役所から民間へ——“水”を守り続けるキャリア

社長はもともと市役所で働かれていたと聞きました。

私は昭和62年に北九州市役所に入りました。
最初は区役所勤務、その後は東京事務所、産業振興、地方創生、そしてコロナ対策の現場まで。
約40年、市民の暮らしを守る仕事に携わってきました。

かなり幅広いお仕事を経験されてきたんですね。

どの部署にいても、最後に行き着くのは“生活の根っこ”なんですよ。
産業、医療、防災──全部が水に関わっている。
人の暮らしは、水がなければ成り立たない。
だからこそ、北九州の水を守る仕組みを民間の立場で支えたいと思いました。
行政時代は制度を作る側でしたが、いまは現場の汗を感じながら経営をしています。

なるほど。市民の安心を“制度で守る”ところから、“現場で守る”立場に変わったんですね。

ええ。役所にいた頃は、「市民の生活を安定させる」ことが使命でした。
今は「その生活を動かし続ける」ことが使命になった。
立場は変わっても、根っこは同じなんです。

“守る”という考え方や使命が一貫してますね。

そうですね。私の中では「水を守る=命を守る」なんです。
例えば、大雨や地震の時、水道や下水処理が止まるとどうなるか。
飲み水が出ない、トイレが使えない、病院が機能しない。
社会のすべてが止まってしまう。
だから、水の供給を絶やさないということは、
人の命を“つなぐ”ということなんです。

市役所時代の経験が、今の経営にも生きているんですね。

行政の仕事で学んだのは、「現場を知らずして政策は作れない」ということ。
そして今は逆に、「制度を知らずして現場は変えられない」と感じています。
その両方の視点を持てたのは、私の財産です。

社長の話を聞いていると、民間と行政の境界がすごく柔らかく感じます。

そうありたいですね。
社会の仕組みを支える人たちが、立場を越えてつながっている。
それが、北九州というまちの強さなんです。
私たちの仕事は、誰かの暮らしの“当たり前”を静かに支えること。
その姿勢は、市役所でも会社でも変わりません。

第3章|“当たり前”を守るという誇り

さっき大雨などで下水処理が止まると、というお話がありましたが、「大雨でマンホールが浮いた」とか、「川があふれた」といった冠水時も何か関わるんですか?

実は、そういうときに動いているのが、うちの社員たちなんですよ。
下水のポンプ場では、雨が降ると同時に雨水が流れ込んできます。
その量をリアルタイムで調整しないと、道路が冠水したり、建物の中に水が入ったりしてしまう。
だから、職員が24時間体制で監視して、ポンプを稼働させて水位を保っているんです。

24時間…ということは、夜中もずっと?

そうです。お盆も正月も三交代で見守りますよ。
誰かが必ず現場にいて、モニターを見ながら水の流れを確認しています。
24時間、365日なので大変そうに思えるかもしれませんが、
彼らは“自分たちが地域を守っている”という誇りを持って働いている。
それがこの仕事の一番の魅力なんです。

誰かの生活を支える“影のヒーロー”みたいですね。

いい表現ですね(笑)。
蛇口をひねれば水が出る、トイレの水を流せばちゃんと流れる。
それは当たり前のようで、当たり前じゃない。
その裏で何百人もの人が見えない努力をしている。
私たちは“安心をデザインする仕事”をしているんです。

「安心をデザインする」って素敵な言葉です。

ありがとうございます。
水道や下水道の世界では、何も起こらないことが“成功”なんです。
だから、トラブルがない日ほど、実はたくさんの人が頑張っている。
社会が止まらないように、静かに支える。
それが、私たちの仕事の誇りなんですよ。

トラブルが起きたときに目立つ仕事は多いけど、
“何も起こらない”状態を守ることって、実は一番すごいことかもしれませんね。

まさにその通りです。
私たちは目立たなくていいんです。
でも、誰かの生活が滞らないようにすること。
それが“水を治める”ということなんです。
社員たちはそれを誇りに思って働いてくれています。

なんだか、社会の“心臓”みたいな仕事ですね。

そうですね。
水は、まちの血液みたいなものです。
それを絶やさないために動く。
そう考えると、どんなに地味な作業でも、すごく価値のある仕事に思えてくるでしょう?

はい。 “水の仕事”ってすごくかっこいいと思いました。

第4章|人の声が会社を変える——働きやすさの仕組みづくり

このタオル、いただいたときから気になってたんですけど、「プラスチック・スマート」って書いてあってかわいいですね。

ありがとうございます。実はそれ、ペットボトルをリサイクルして作ったタオルなんですよ。
再生素材を使っていて、自然の中でも分解されるので環境を汚さない。
こういう小さなことでも、「豊かな水環境を守る」という理念を形にしたいと思っているんです。

配る物にまで理念が込められてるんですね。なんだか、会社の姿勢が伝わってきます。

そう言ってもらえるとうれしいですね。
うちは“環境”だけじゃなく、“人の環境”も大事にしています。
たとえば、今年に作業服を一新したのも社員の声からなんですよ。
スマホを入れるポケットがほしい、汚れが目立たない色にしてほしい、動きやすい素材にしてほしい――。
そういった意見をアンケートで集めて、みんなで議論して決めました。

へえ、そういうところまで社員の意見を聞いてるんですね。

はい。年に一度「自己申告制度」というものがあって、社員一人ひとりが仕事の希望や悩みを書いて提出します。
「現場で困っていること」「こうしてほしい」「異動したい部署」――どんな内容でも構いません。
それを全員分、私が自分の目で読みます。
人の気持ちを知ることが、経営の基本だと思っているからです。

社長が全部読まれるんですか?すごい…。

大変ですが、それが一番のやりがいなんです。
書いてある内容の中には、すぐには解決できないものもある。
でも、“誰かが自分の意見を見てくれている”と感じるだけでも、職場の空気は変わります。
私たちの仕事はチームプレーですからね。働く人が元気でないと、水も元気に流れません(笑)。

なるほど。“人が元気だと水も元気”っていい言葉ですね。

ありがとう(笑)。
最近では、若い社員たちが自分たちで改善案を出すようになりました。
「この工程はDX化できそうです」とか、「地域イベントで会社を知ってもらおう」など、
現場から提案がどんどん上がってくる。そういった経営に新しい風が吹くたびに、会社が少しずつ良くなっていくんですよ。

社員の声が会社を動かしてるんですね。

そう。トップダウンではなく、ボトムアップで変わっていくのが理想です。
だから私は「人の声を聞く仕組み」を意識的に残してきました。
制度を整えることよりも、声を拾い上げる文化を育てること。
それが、うちの“働きやすさ”の一番の特徴かもしれませんね。

働きやすさって、設備や制度だけじゃなくて、“人の思いやり”から生まれるんですね。

その通り。
ウェルビーイングって、結局は「お互いを気にかけること」なんです。
数字では測れないけど、そういう空気がある会社は、強い。
うちは、そういう優しさの循環を大事にしています。

第5章|“水を治める者は国を治める”——北九州の哲学

社長が大切にしている言葉に「水を治める者は国を治める」というものがありますよね。
すごく印象的だったんですが、それはどういう意味なんですか?

昔の中国の思想家の言葉なんです。
“水を治める”とは、水をうまくコントロールし、民の生活を安定させること。
つまり、水を治めることができる者は、国を治めることができるという意味なんです。
これは国家だけでなく、企業経営にも通じる考えだと私は思っています。

なるほど…水を制することが、社会を動かす基盤になるんですね。

そう。水は命の源であり、すべての循環の起点なんです。
たとえば飲み水を確保すること、下水を処理すること、洪水を防ぐこと。
これらを怠れば、国も地域も成り立ちません。
そしてそれは、どの時代でも“人の知恵と努力”によって守られてきたんですよ。

たしかに、どれも当たり前にあるけど、裏側では壮大な仕組みが動いてるんですね。

北九州はまさに、その象徴です。
昔は“公害のまち”と言われていた時代がありました。
工場排水で海も川も汚れ、紫川には魚もいない。
でも、そこから30年かけて「紫川マイタウン・マイリバー整備事業」で川を再生した。
それは、ただ環境をきれいにしただけじゃないんです。
“まちの心”を取り戻す取り組みでもありました。

心を取り戻す…どういう意味ですか?

川が汚れるということは、人の意識が汚れているということでもある。
それをきれいにしようとしたのは、行政だけじゃなく、市民や企業も一緒だったんです。
みんなで川を掃除して、木を植えて、魚を放流して。
その結果、いまでは紫川でカヌーの大会が開かれるほどきれいになった。
人が変わり、まちが変わり、自然が戻った。
水を治めるというのは、つまり“人と自然の関係を整えること”なんです。

すごい…。まさに「治める」って、“支配する”じゃなくて“調和させる”ことなんですね。

その通りです。
水は、力で押さえつけるものではなく、共に生きるもの。
流れを読み、共存する知恵が必要なんです。
それは社会も同じで、人も会社も“うまく流す力”を持たないと詰まってしまう。
だから私は、経営にもこの考え方を取り入れています。
人と人、部門と部門、世代と世代――。
水のようにしなやかに流れをつくることが、良い組織を生むんです。

すごく深いですね。水の話なのに、まるで人生論みたいです。

(笑)そうかもしれません。
でも、水の仕事をしていると、自然とそう考えるようになるんです。
水は姿を変えても、常に命を支えている。
私たちの仕事も同じ。見えないところで人の暮らしを支え、未来へ流していく。
それが“水を治める”ということなんです。

第6章|北九州から世界へ——技術を未来につなぐ

社長、先ほど海外の話が出ていましたが、
北九州ウォーターサービスが海外事業を行っているって、ちょっと意外でした。

そう言われますね。
でも、実は私たちは創業以来ずっと、海外の水問題に関わってきたんです。
きっかけは1999年。カンボジア政府から「北九州の技術を教えてほしい」と要請がありました。
当時、首都プノンペンの水道普及率はわずか2割。
水道管が古く、漏水や汚染が深刻でした。
それを日本の技術で支援し、25年以上かけて改善してきたんです。

25年も…!そんなに長い取り組みなんですね。

はい。しかも、それを支えているのは特別な専門家ではなく、
北九州の現場で働いてきた“普通の技術者”たちなんです。
現地に行ってポンプの扱い方を教えたり、水質を検査したり。
言葉も文化も違う中で、コツコツと信頼を積み重ねてきました。
技術を“輸出する”というより、“共有する”という感覚に近いですね。

なんだか、北九州の人たちの温かさがそのまま世界に届いている感じがします。

うれしい言葉ですね。
そして今年、初めて女性社員をカンボジアに派遣することになりました。
彼女は下水処理の水質検査を担当していて、
「自分の手で現地の人に技術を伝えたい」と名乗り出たんです。
若い人が国境を越えて挑戦してくれることが、何より頼もしいですよ。

海外で働くって、すごく勇気がいりますよね。

そうですね。でも、うちの社員は“水”という共通言語を持っています。
水は国や文化を越えるんですよ。
日本でもカンボジアでも、
きれいな水を求める気持ちは同じ。
だからこそ技術だけでなく、誠意や想いを伝えることが大事なんです。

“水は共通言語”って、すごく素敵な言葉です。

ありがとうございます。
北九州は公害克服の経験を持つまちだからこそ、環境と共生する知恵がある。
その知恵を世界に還元するのは、私たちの責任でもあると思っています。
海外事業は単なる支援ではなく、
「北九州の歩みを未来へつなぐ」仕事なんです。

地域の歴史が、世界の未来を支えるって、すごく希望がありますね。

ええ。私たちは“地方の会社”ではなく、“世界に開かれた地域企業”なんです。
北九州という場所から、世界の課題に挑む。
その意識を持つだけで、社員の視野も仕事の誇りも変わっていくんですよ。

地元の技術が世界を変える――そう考えると、すごくワクワクします。

その感覚を忘れないでほしいですね。
仕事って、どんな職種でも誰かの未来につながっています。
水のように、静かにでも確かに流れていく。
それが“北九州から世界へ”という、私たちの想いなんです。

第7章|働くとは、生きること。挑戦を続ける人たちへ

最後に、これから就活を迎える私たちにアドバイスをいただけますか?

そうですね。まず、焦らないことです。
就職って“ゴール”じゃなくて、“スタート地点”なんですよ。
どんな会社に入るかよりも、どんな気持ちで働くか。
自分の“得意”よりも、“誰の役に立ちたいか”を考えてみてください。
それが見つかれば、きっと仕事は楽しくなります。

“誰の役に立ちたいか”…確かに、意外と考えたことないかもしれません。

多くの人が「安定しているから」「有名だから」と会社を選びます。
でも、安定している会社でも、自分の心が動かなければ長くは続かない。
逆に小さな会社でも、“誰かを支える実感”があれば、仕事は何倍も楽しいんです。
私もそうでした。役所の時も、今も、“人の生活を守る”という目的はずっと同じなんです。

社長にとって、“働くこと”ってどういうことですか?

うーん、そうですね。“生きること”と同じだと思います。
働くって、誰かと関わりながら、自分を使って社会に貢献すること。
そして、その中で自分自身も育っていくこと。
人は誰かに必要とされることで、強くなれるんですよ。

なるほど…。でも時々、“失敗が怖い”って思っちゃうこともあります。

失敗なんて、何度してもいいんです。
むしろ、若いうちにたくさん転んだ方がいい。
その分だけ、人の痛みがわかるようになります。
私もこれまでに何度も失敗してきました。
でも、失敗したときに支えてくれた人の存在が、今も仕事の糧になっています。
人は“完璧”じゃなくて、“不完全なまま支え合う”から成長できるんです。

そう考えると、働くことって“自分のため”だけじゃないんですね。

ええ。働くことは“誰かのために動くこと”。
それが結果的に、自分の生きがいにつながります。
たとえば私は、趣味でまち歩きをするのが好きなんです。
ブラタモリみたいに(笑)。昔の水路や橋の構造を見て、「ここにも人の知恵があるな」と感じる。
そうやって“人の営み”を感じることが、仕事にもつながっている気がします。

まさに“流れをつくる人”ですね。

そんな立派なものじゃないですよ(笑)。
でも、水って不思議でね。流れが止まると濁るでしょう?
人も会社も同じなんです。
立ち止まるより、少しでも前へ。小さくても動き続けることが大事なんです。

“動き続ける”か…。それが挑戦なんですね。

そう。挑戦って、特別なことじゃないんですよ。
昨日よりちょっと成長する。昨日より少し優しくなる。
それも立派な挑戦です。
水のように柔らかく、でも確かに流れ続ける。
そんな生き方を、皆さんにもしてほしいですね。

今日のお話を聞いて、“水の仕事”がこんなに奥深いものだとは思いませんでした。

ありがとうございます。水は、命をつなぐものです。
そして、人をつなぐものでもあります。
私たちの仕事は、水を通して人の暮らしを支え、次の世代へと流していくこと。
それは、時代が変わってもなくならない使命です。

北九州から国内、そして世界へ。
見えないところで流れ続ける“水”のように、
人の想いも静かに受け継がれていく。
私たちはこれからも、
その“当たり前”を支え続けていきます。


北九州ウォーターサービスは、浄水や下水処理、災害時の対応、そして海外への技術支援まで、幅広い仕事で社会を支えています。
水を守ることは、人の暮らしを守ること。
その責任と誇りが、世代を越えて静かに受け継がれているのです。
見えない場所で“当たり前”を支え続ける人たちがいる。
その積み重ねこそが、北九州から世界へ流れ出す大きな力になっています。

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