VAMOS

投稿のサムネイル
インタビュー

『鉄』が未来を創る──北九州の老舗企業で見た“職人技×最先端”の魅力

1935年に創業した老舗の鉄鋼厚板加工会社で、戦時中に一時中断を挟みながらも3代にわたり受け継がれ、現在では90年の歴史を刻んでいます。「鉄の町」と呼ばれる北九州市に根差し、厚板を多彩な形に切り出してビルや橋、さらには洋上風力発電などの大型構造物を支えているのが大きな特徴です。

「重そう」「暑そう」というイメージを持たれがちな鉄鋼業界ですが、実は最先端技術を積極的に活用するとともに、人情味あふれる社風が息づいています。本記事では、創業当初から続く鉄との関わりや、オーダーメイド加工ならではの職人技、さらにはSNSを活用した採用活動に至るまで、学生と社長の対談を通じて紹介します。

長い歴史を紡ぐ中で培われた温かい人間関係と、熟練の技が活きる現場のリアルにもぜひご注目ください。日本の基幹産業として歩みを続けてきた鉄の世界。本稿を通じて、その奥深さと新たな可能性を感じていただければ幸いです。


1)創業90年の老舗が歩んだ道

【創業90年の老舗:祖父の代から続く会社】

本日はありがとうございます。まず、御社がどのような経緯で創業し、どのような形で続いてきたのか、あらためてお伺いしてもよろしいでしょうか?

ようこそいらっしゃいました。うちの会社は1935年(昭和10年)に祖父が個人商店として立ち上げたのが始まりなんです。戦時中には祖父が出征し、どうしても商売を続けられない時期がありましたが、その後再開して、通算すると約90年になります。途中で事業の形態を変えながら、父が2代目を継ぎ、私が3代目として今までやってきました。もし私自身が元気に仕事を続けられれば、創業100年を迎える瞬間を自分の目で見届けられるんじゃないか、なんて少し楽しみにしているところです(笑)。

90年というと、本当に長い歴史ですね。しかも戦時中の中断を経てなお存続しているというのは、企業として非常に強い基盤があったともいえますね。

そうですね。もちろん祖父や父の時代は、今とは比べものにならない性質の異なる大変な苦労があったでしょうが、それでもこの地で商売を続けられたのは、北九州が鉄鋼やものづくりの街として栄えてきた背景と、人と人との絆が深い文化に支えられた部分が大きいと思います。

やはり北九州という土地柄は「鉄の町」というイメージが強いです。官営八幡製鉄所が1901年に始まり、そこを軸に企業が集積していった歴史がありますよね。

そうですね。創業100年超えの老舗が珍しくない土地です。うちも、最初はボルトやナットなどの比較的小さな商材を扱う個人商店でしたが、やがて厚板(あついた)と呼ばれる分厚い鉄板を仕入れて加工し、大きな橋やビルの骨組み部分を製造するような形態に発展していきました。まさに“鉄の町”ならではの進化といえますね。


2)多彩な鉄の需要とその背景

【実は多彩? 鉄の需要と用途】

鉄というと、歴史ある素材という認識がありますが、現代社会でもそんなに需要があるんでしょうか? 正直「もう建物も橋もだいぶ整備されたのでは」という印象もありまして……。

それが、依然として需要は高いんですよ。鉄は強度・リサイクル性・コスト面など、いろいろと利点があるので、いまだに“鉄器時代”が続いているとも言われています。私たちの事業分野では、ビルの鉄骨や橋脚、自動車・船舶の構造体、最近では洋上風力発電の基礎にも厚板が使われていますし、海外の大きな製鉄所で作った鋼板を日本へ持ってきてさらに加工するという流れが世界的に確立しています。

なるほど。洋上風力発電など、比較的新しいエネルギー分野でも鉄が活躍しているんですね。私たちが想像する以上に、いろんな領域で必要とされているようで驚きました。

そうなんです。建築やインフラはもちろん、エネルギー関連でも堅調な需要があるので、鉄自体が時代遅れになるということはないんですよ。むしろリサイクル性の高さゆえに、環境負荷を抑えながら利用できる面も注目されています。


3)オーダーメイド加工と職人技

【厚板を切る! ギロチンからガス、レーザーへ】

御社では主に「厚板」と呼ばれる分厚い鉄板を扱っているとのことですが、どのような製品に仕上げているのでしょうか? 橋やビルの骨組みと聞くと、とても大きな部材になりそうですね。

はい、まさにビルの鉄骨部分や橋梁の部材を作るケースが多いです。あるいは風力発電の基礎となるパーツ、船舶の一部となる鋼板など、お客様の要望に合わせて切断・加工を行います。昔は「ギロチンカットシャー」という刃物でバチンと剪断する切るやり方が当たり前でしたが、今はガス切断やプラズマ、レーザーなど、用途や板厚に応じていくつかの手法を使い分けます。

ギロチンというとかなりインパクトのある言葉ですが、いまは機械化が進んでオートメーションも取り入れられているんですよね?

そうですね。たとえばCADでレイアウトを組み、機械にデータを入力すれば自動的に切断してくれる装置もありますが主流です。ただ、板の厚さが分厚い場合やはガスでじっくり溶断したほうがいいとか、一度に大量に同じパーツを抜き切り取る場合ならプラズマガス、大きな部材を一筆で切るならプラズマ、無人の精密切断ならレーザー、などが得意など、ベストな方法は状況によって変わります。機械の性能が上がっても、一つの技術ですべてを済ませられるわけではないんですよ。

【オーダーメイドゆえの難しさ:職人技は健在】

機械化が進むと、人間の手や経験はあまり必要なくなると思いがちですが、実際は違うんですね。

オートメーションは便利ですが、どの方法で切るか、どうレイアウトするかなどの最終判断は職人の経験が不可欠です。オーダーメイドなので、同じ形を大量生産するわけではないですからね。設計図に合わせて「この場所に穴を開けるならからレイアウトすると、歩留りが良く、生産性が良い次工程がやりやすい」など、細かいノウハウが蓄積されているんです。

なるほど。単純労働が機械に置き換わった分、職人が持つ“勘”や“知恵”がより重要になっているともいえそうですね。

まさにそうです。人間の力仕事は減ったかもしれませんが、思考力や判断力が求められる場面はむしろ増えています。クレーンやフォークリフトなどの設備重機も充実しているので、“力ばかり”ではなく“頭を使うモノづくり”が今の現場のイメージに近いと思います。


4)省人化と社内体制の変化

【かつては200人超、いまは70人で同じ生産量】

オートメーション化や設備投資によって省人化が進んだと伺いましたが、どのくらい効率が上がったのでしょう?

昔と同じ生産量でも、かつては200人くらいの人手が必要でした。でも今はおよそ70人で回せるようになりました。そのぶん、事務所サイドでCAD設計や生産管理を行うスタッフを増やしており、現場作業は少人数でも高い生産性が出せるようになったんです。

実際に工場見取り図を拝見しましたが、事務所のスペースが大きい印象でした。デスクワークと工場の連携がスムーズに行われる体制になっているんですね。

そうですね。ライン生産のように同じ製品を大量生産するわけではなく、オーダーメイドなので毎回設計が変わります。だから事務所が「この部材はこの切断機でいつ加工するか」といったスケジュールをこまめに組み、機械に指示を出す。現場スタッフは指示を確認しながら最適な加工を行い、次の工程へバトンタッチする。そんな流れになっています。


5)3代目社長のキャリアと“鉄の町”の人情

【TOTO勤務からのUターン】

社長は大学卒業後、最初はTOTOで働いていらしたそうですね。そこから家業に戻ったきっかけは何だったのでしょうか?

TOTOで4年間働く中で、「北九州の家業も面白いかもしれない」という思いが芽生えました。もともと親からは「無理に継がなくていい」と言われていて、外の世界を見て決めろと言われていたので、大学卒業後は県外独力で就職していました。結局、社会を一度経験してから見る目を養ってから、戻ってくるのが自分に合っていたんでしょうね。

戻ってから、すぐに経営を担われたのですか?

最初は現場で半年ほど加工を学び、続いて半年間は経理・総務にも携わりました。それから営業部門で長く経験を積み、お客様との折衝や図面の打ち合わせなどをしているうちに会社の全体像が見えてきたんです。そんな時、父と二人三脚だった専務が亡くなり、少し早めではありますが、経営を本格的に任されることになりました。

【「鉄の町」特有の人情と長い付き合い】

北九州といえば、少し“荒くれ”のイメージがある一方で、人情が厚いとも言われます。実際、企業文化としてはどう感じていますか?

昔から“産業の米”と呼ばれた鉄を日本で供給していくために、企業同士が助け合う風土が育ってきたのが北九州の特徴だと思います。うちも祖父の時代から続く取引先さんが数多くいらっしゃいますし、親子3代で運送を担ってくれる会社もあります。「昔助けてもらったから、今度はうちが返す」という人間関係ような人情が厚いんです。

なるほど。そういった人情味が社員さん同士にも広がっているんでしょうか?

ええ。社員同士も家族のように助け合う雰囲気があると思います。大企業には大企業の良さがありますが、うちのような中小規模だと、現場から事務所まで顔の見える距離感ですから、「大変なときはみんなでカバーしよう」という意識が強いですね。それが職人技やノウハウの継承にもプラスに働いていると思います。


6)国内需要の行方と人材育成

【需要は右肩下がり? しかし建て替えや補修はある】

日本は高度成長期にビルや道路、橋などを大量に作りましたから、今後は新規工事が減るイメージがありましたが、まだまだ需要はあるとのことですね。

はい。確かに新規大型インフラはピークを超えたかもしれませんが、老朽化による補修・建て替えは定期的に発生しますし、ECの拡大で大規模物流倉庫の建築が急増しています。さらに、経済安全保障の観点から“海外生産を国内へ戻す”という動きも見られます。国内全体で見ると人口減は続きますが、「お先真っ暗」ではなく、まだまだやるべき仕事はあると実感しています。

海外でも大手製鉄所がアメリカやインドで合弁を立ち上げたりしているようですが、そこはどう影響してくるんですか?

日本国内だけでなく海外を含めて大きく伸ばしたい大手企業もある一方、うちのような中堅加工業は国内ニーズを軸にしながら着実に事業を続けるイメージですね。ただ、海外の新興国のほうがインフラ整備が旺盛なので、製鉄会社としては海外を注力市場にするケースが多いです。一方で日本国内は、建築分野では、老朽ビルの建替え、都市再開発、物流センターや新工場建設、土木分野ではエネルギーや国土強靱化関連橋やビルの補修を中心に、安定した需要があるという認識です。

【外国人技能実習生と“仲間”として働く】

採用面のお話ですが、20年以上も外国人技能実習生を受け入れていると知って驚きました。そんなに長期的な取り組みなんですね。

主にインドネシアとベトナムから受け入れていて、累計すると40~50名になります。最初の頃は言葉や文化の壁もあって苦労しましたが、現場が“仲間”として迎え入れる風土を作ってくれたので、意外と定着率も悪くありません。実習生の方々も働きやすいと感じてくれているようですよ。

3年から最長5年の滞在を活かして、技術を身につけたら帰国する人もいるというイメージですか?

そうですね。スキルを習得して母国で活かしたいという方も多いです。単に安い労働力を求めるのではなく、お互いウィンウィンになれるよう気を遣っています。やみくもに増やすと安全や教育の問題が出ますから、そこは慎重にやっているところです。

【日本人の若手確保:技術の継承が課題】

逆に、日本人の若い世代を採用するのは厳しいのでしょうか? 高校を卒業してすぐに就職する人が少なくなっていると伺いました。

ええ、昔は工業高校を出た若者が大勢現場に来てくれていましたが、今は進学する人が多いですし、情報も都会に集まりがちですからね。結果として、中途採用や外国人実習生で補っている面があります。
ただ、私としては「若手のうちからきちんと育てた日本人に、各世代で2~3人は活躍してもらいたい」という想いが強いです。切断技術や加工のノウハウって、どうしても先輩が後輩に直接指導する場面が多いので、世代ごとのバランスがないと持続しにくいんですよ。営業も同じ事が言えます。

なるほど。技術の継承という面でも、新卒や若手の採用が欠かせないわけですね。

そうです。マニュアル化しきれない“勘”や“コツ”があるので、ベテランがいるうちに若手へ伝えないと、空白ができてしまいます。そこが一番の課題かもしれません。


7)SNS活用から見える採用の未来

【“硬派”な企業こそSNSを!】

最近ではSNSで採用情報を発信し、地域や年齢層を絞り込んで学生にアプローチするのが注目されています。北九州近郊の18〜22歳をターゲットにすれば、御社の認知度も一気に高まるかもしれません。

求人サイトや地方紙への掲載という方法しか想像していなかったので、SNS広告は新鮮です。しかも学内説明会などに来られない学生さんにも届くのが魅力ですよね。うちは地元に根づいた企業ですが、意外と地元の学生さんに知られていない面もあると思うので、もったいない部分があります。

実際、SNSで企業動画や写真を見て「面白そう!」と思う友人は多いですよ。大手じゃなくても、技術力や社風が自分に合いそうなら興味を持ちます。特に製造業や鉄鋼業は“汚い・怖い”と誤解されがちなので、「実は女性も働きやすい」「実は海外人材ともフレンドリーに仕事をしている」など、意外性を発信できると学生の見る目が変わりますよ。

【無理なエンタメ路線より“生の声”を】

なるほど。私の勝手なイメージで「派手な動画を作らないとSNS映えしないのかな?」と思ってましたが、そうじゃないんですね。地道に現場の姿や社員の声を出すことが大事なんでしょうか。

そうです。私たちが本当に知りたいのは「どんな人が、どんな雰囲気で働いているか」という部分なので、自然な写真やインタビューが最も参考になります。エンタメ要素を無理やり盛り込むより、ありのままを見せてくれるほうが安心感が高いんですよ。

実は、“ギャップ萌え”を感じる学生が多いのも鉄鋼業界です。「思ったよりアットホームだ」とか「女性も普通に溶接をしている社員が活躍してるんだ」など、先入観と違う部分が魅力になる。こうした情報をSNSでコツコツ発信するだけでも、応募が増えるケースが出てくるはずです。うちは世界に2台セットしかないというユニークな切断システムもありますし、外国人技能実習生が活躍する現場もあるので、ネタには困らないかもしれませんね。あとは、私を含め社員が素朴にしゃべる姿でも面白がってもらえたらいいなと思います。


今日の取材を通して、私が抱いていた「鉄鋼業界=硬派で力仕事ばかり」といったイメージがかなり変わりました。オートメーションやCADを駆使するシーンが多いし、SNSでの採用も視野に入れていると知って驚きました。
そして、外国人実習生を温かく迎える社風や、先輩後輩の間で職人技が受け継がれる文化も素敵だなと感じました。若手でも「新しいことを試してみたい」と思えば、活躍できそうですね。

ありがとうございます。実際には暑さ・寒さが厳しい現場ですし、重量物を扱う怖さもありますが、そこを安全対策でカバーしながら、社員がやりがいを感じられるよう工夫しています。自分が加工した鉄板がビルや橋になって残るのは本当に誇らしいものですよ。

そうですね。自分が携わった仕事が、実際に目に見える形で街の一部になるのは、大きな醍醐味だと思います。私も工場見学やインターンシップで、もっと詳しく現場を見てみたいです。

SNSへの発信がまだ少ないとのことですが、そこが逆にチャンスかもしれません。いまはネットで情報を調べる学生がほとんどなので、御社のように“実は面白いのに知られていない企業”にこそ期待しています!

そういう風に言っていただけると、ますますやる気が出ますね。今後はSNSやホームページなどの広報を強化して、もっと学生さんに知ってもらいたいです。いつか現場見学に来られたら、ぜひ職人や外国人実習生とも直接話してみてください。まだまだ発見があると思います。

はい、楽しみにしています。今日は本当にありがとうございました。私たちも就活中の友人や後輩に、今回の取材内容をシェアしたいと思います。鉄鋼業界への印象が変わる学生が増えるかもしれません。

こちらこそありがとうございました。若い方からいただくリアルな意見はとても貴重です。もしまた機会があれば、ぜひお越しくださいね。今度は工場の最新設備や、切断システムの実演もゆっくり見ていただければ嬉しいです。


今回の取材では、就活生が抱きがちな「鉄鋼=きつい・汚い」というイメージが大きく覆りました。老舗企業ならではの人情深い文化や、オートメーション化と職人技が融合した現場が生み出す魅力はとても大きいです。

就活生が持つ先入観とは対照的に、鉄鋼業界には人情や先進技術が詰まっています。老舗企業の人間関係や熟練の職人技、さらに海外展開やSNSを活用した採用への取り組みなど、多面的な魅力が明らかになりました。

北九州の鉄鋼業界は、リサイクル性が高く、幅広い分野で求められる“鉄”を通じて、社会を支える重要な役割を担っています。次回は工場見学や若手スタッフの声をさらに深掘りし、“鉄”の未来と可能性を探る予定です。就活中の学生の皆さんも、ぜひ足を運んで体感していただきたい世界がここにあります。