「なりすまし」に振り回される時代
最近、ある人気アイドルグループの誕生日記事が“なりすまし”をソースにして誤報だったと騒がれました。SNSの投稿をそのまま記事にしてしまい、あとから「偽物でした」とわかって削除する。ネットを見回せば、こうした“こたつ記事”が山ほどあります。なんだか悲しくなるけれど、理由ははっきりしていて、「取材に時間とコストをかけられない」「PVが稼げればいい」という状況がそうさせるのだと思います。
みんなが「取材なんて手間だ」と思っているこのタイミングこそ、逆に“じっくり取材するメディア”の価値が光るんじゃないか、と。めんどうだし、効率も悪いかもしれない。でも、誰もやっていないからこそ魅力的な“情報”が眠っている。そういうものこそ、AIにまかせきりの世の中で「希少な宝」になるのではないでしょうか。
AIが育つほど、人間の足取りが大事になる
AIはすごい勢いで賢くなっていて、ネット中の情報を集めて、すばやく文章を整えてくれます。たいていの質問なら、AIに聞くだけでパパッと答えが出てくる。でも実は、その元ネタが信頼できるものかどうかは、AI自身も簡単には見極められません。AIはデータを再構成するのが得意だけれど、そのデータの“根っこ”が間違っていたら、きれいに整った“誤情報”が量産されてしまう。
だからこそ、実際に現場に行って人に会い、肉声を聞き、何が起きているのかを調べる「取材」が必要になるのです。裏取りを怠らず、泥くさくても確かめに行く。その“最後のひと手間”をするかしないかで、記事や番組の価値は大きく変わる。AIが情報を高速にまとめられる時代だからこそ、“ラストワンマイル”を人間がきちんと歩くことが、どんどん重要になっていくわけです。
めんどうな取材が「ビジネスチャンス」に変わる理由
広告モデルに寄りかかっているメディアは、どうしてもPVが欲しくなりがち。なるべく早く多くの記事を出さないと、広告費が回収できない。そんな構造が“取材ナシの粗製濫造”を加速させているのも確かでしょう。
でも、その逆張りとして、「取材に徹底的に手間ひまをかける」ことで成長しているメディアもあります。独自の調査報道を強みに有料課金サービスを伸ばしているメディアだってあります。「ここでしか読めない」「ここまで詳しく調べてくれるなんて」と、読者は“希少な取材”に対してお金を払う。
ぼくたちも、広告だけじゃなく、自分たちで得た一次情報をもとに新しいビジネスモデルをつくっていきたいと思っています。会員制のコミュニティやイベント、企業のコラボなどで、“質の高い情報”にアクセスしたい人たちが気軽に集まれる場を育てる。そうすれば、めんどうな取材をがんばるほど「ちゃんと稼げる」仕組みが生まれるかもしれない。これはある意味、メディアが取材に戻るチャンスでもあると思うのです。
テレビや大手メディアが仕掛ける新時代の実験
最近はテレビ局がメタバース企画を仕掛けたり、人気キャラクターを世界規模で育てようとしたりしています。たとえばイベント会場を仮想空間で再現し、視聴者が番組と連動しながら同時にメタバース体験ができるようにしたり、キャラクターを中心に新しいライセンスビジネスを立ち上げたり。こういう動きは「テレビというマスメディア+現場で得た情報や価値」を合わせていく試みとも言えます。
もちろん課題は山積みですが、アイデア次第でまだまだ面白いことはできる。AI時代だからこそ、番組制作や裏側での取材力が大きな武器になるのではないでしょうか。ちゃんとしたコンテンツがあるからこそ、メタバースをただのゲーム空間で終わらせずに済む。取材で得た“本当の話”があればこそ、見る人の心をしっかりつかむコンテンツを届けられるのだと思います。
めんどうでもやりたい。それが応援されるメディアになる
取材はめんどう。裏取りも骨が折れる。でも、それを「楽しい挑戦」に変えられるのが、メディアの強みじゃないでしょうか。だって、自分たちが「この事実は大事だ」「ここに行ったらすごい発見があるかも」と感じるからこそ、動いて確かめに行く。そのプロセスの中で、思わぬ出会いや新しい情報が飛び出してくる。その苦労が記事ににじみ出ると、読者や視聴者も「これは面白そうだ」「よし、応援しよう」という気持ちになってくれる。
今後は、そこをきちんと仕組みにしていく必要があります。なぜなら、PV至上主義のままではいずれメディアそのものが飽きられてしまうから。めんどうな取材に付き合う人材をどう確保するか、それをどんなふうに商品やサービスに結びつけるか。いろんな課題はあるけれど、AIが作った“なんとなくそれっぽい情報”があふれる時代だからこそ、「人間くさいリアル」にお金を払いたい人が確実にいます。
情報がどんどん高速化していく世の中で、「遅くたっていい、でも本当を知りたい」という需要は必ずある。ぼくたちは、その需要に応えられるような取材型メディアを育てていきたいんです。そして、それがしっかりしたビジネスになり、さらに輪を広げていけたら最高だなと思います。
取材には、想像以上にドラマチックな瞬間が隠れています。ちょっとした会話の合間に、思いがけない秘密や未来のヒントが見つかることだってある。「めんどうだけど、やらずにいられない」――そう思えるからこそ、ぼくたちはこの仕事を続けている。AIやメタバースに世界がうずまくいまだからこそ、ぼくら人間の足と耳と目で見つけてくる情報が、いっそう輝くんじゃないでしょうか。
そんなふうに信じて、次の取材先へ今日も出かけようと思います。
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