VAMOS

投稿のサムネイル
インタビュー

青果の仕事って、こんなに奥深い。――産地・売り場・暮らしをつなぐ、小林青果のリアル

スーパーに並ぶ野菜や果物。その一つひとつが、どんな流れを経て店頭に届いているのか――。

その舞台裏には、市場を中心に“食の流れ”を支える企業の存在があります。

小林青果は、仲卸・店舗の青果コーナー運営・ECという3つの事業を組み合わせ、

産地と売り場、そして全国の家庭をつなぐ役割を担ってきた会社です。

朝型の働き方や、経験を積み重ねて身につく“目利き”の世界、

生産者・バイヤー・消費者をつなぐやりがいなど――

日常の裏側には、知られざる仕事のストーリーが広がっていました。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

仲卸 × 店舗 × EC——3つの事業で支える食の流通

「今日はよろしくお願いします!まず、小林青果さんがどんな仕事をしている会社なのか、全体像を教えていただけますか?」

「よろしくお願いします。うちは簡単に言えば“野菜と果物の流れをつくる会社”です。そのために、仲卸・店舗運営・EC(ネット販売)という3つの事業を組み合わせて動かしています。この3つがつながって、会社が成り立っているんです。」

「3つもあるんですね。普段あまり想像できない世界なので、その流れを知りたいです。」

「ではまず大きいところから。うちの中心は仲卸です。九州全域だけでなく、西日本、それから北海道にも商品を送っています。たとえば熊本のみかんは、産地から北海道まで4日かけて運ばれ、現地で袋詰めして各店舗へ届けられます。」

「4日…!野菜や果物って、そんな距離を動くんですね。」

「そうなんです。“夢の恵”という熊本のみかんは、北海道向けの出荷だけで約1億円が動きます。サツマイモは西日本へ何百ケース単位で出していて、逆にタマネギは北海道から仕入れて九州へ送る。季節や天候で値段も入荷量も変わるので、全国の産地とバイヤーの状況を見ながら調整していくのが、仲卸の面白さであり難しさですね。」

「全国規模なんですね…。知らないところでそんな動きがあったとは。」

「しかも商品だけじゃなく、人の動きも多いですよ。安納芋の生産者に会いに種子島へ行ったり、北海道の商談に行ったり、逆にバイヤーさんにこちらへ来てもらったり。産地の人たちと信頼をつくりながら、お店で売れる形を整えていくんです。」

「卸というより、間をつないでいく仕事なんですね。」

「まさにその通りです。そこから“売り場を見ること”の重要性に気づいて、店舗運営も始めました。今はスーパーやドラッグストアの青果コーナーを17店舗ほど任せてもらっています。」

「市場の会社が売り場まで作るのは珍しいんですか?」

「珍しいですね。でも、売り場に出ると“お客様がどんなものを買うのか”がよくわかるんです。同じみかんでも、粒の大きさや袋の見え方、並べ方で売れ行きが変わる。『この産地のこのサイズは家庭で人気だな』という気づきを、また仲卸の現場に活かすことができます。卸だけだと分からない部分を、店舗が補ってくれるんですよ。」

「なるほど…卸と店舗がつながっているんですね。」

「そうなんです。そして最近ぐっと伸びているのがEC(ネット販売)です。立ち上げて2年ですが、この前の楽天スーパーセールでは、うちが販売したシャインマスカットが全国フルーツ部門で1位になりました。」

「全国1位!?」

「はい。1時間で320ケース。ネットなら、北海道でも沖縄でも“食べたい人”に2日で届けられます。今は産地や店頭に関係なく、全国がお客様。仲卸で産地や量を押さえ、店舗で売れ方を学び、EC(ネット販売)で全国に届ける。全部がつながって、3段階で広がっていくんです。」

「“青果の会社”ってもっとシンプルなイメージでしたが、想像以上に大きな流れを動かしているんですね。」

「そう言ってもらえると嬉しいですね。野菜や果物って、その日の天気や気温でも値段が変わる。毎日状況が動いていくので、仲卸・店舗・ECがそれぞれ違う角度から支え合って、ひとつの流れを安定させているんです。」

「3つの事業が別々じゃなくて、ひと続きのストーリーみたいになっているんですね。」

「まさにそうです。産地から店頭、さらに全国の家庭まで、途切れずに“良い状態で届ける”という一本の線。その線を太くするために、3つの事業が全部必要なんです。」

流通の裏側を動かす仕事 ― 見えないところで食を支える毎日

「産地から店頭までの流れが大きいことがわかったんですが、実際その“裏側”ってどんな働き方なんですか?」

「裏側は本当に“時間との勝負”です。スーパーの開店が9時や10時なので、うちは朝8時までに全店舗へ納品を終わらせないといけません。」

「ということは、もっと前から動いてるんですよね?」

「そうです。だいたい朝2時か3時に会社へ来て、その日の注文データを確認し、店ごとに振り分けてトラックに積みます。青果は鮮度が命なので、遅れると売り場に並ばないんです。」

「普段当たり前に見ている野菜って、そんな裏側があるんですね。」

「そうなんです。産地からの輸送、仕分け、温度管理…いろんな工程があります。北海道の玉ねぎを九州向けに出すときは、現地の農協さんと毎週ZOOMで天気や収穫量、相場を確認しています。」

「物流というより“情報戦”なんですね。」

「まさにそうなんです。青果は天候の影響を受けやすく、今日100円が明日200円になることもある。台風で相場が跳ね上がることもあります。だから“今日どう動くか”の判断がすごく重要なんです。」

「レタスやキャベツなども変わりやすいって聞きました。」

「曇天が続いただけで一気に品薄になりますよ。仕入れ価格より納品価格のほうが低くて赤字になることもあります。でも決めた値段で届けるのがこの仕事なんです。」

「シビアだけど、判断の積み重ねなんですね。」

「ええ。だからこそ、産地に行って畑を見て、生産者と話して、バイヤーと交渉する。“現場で感じたこと”が判断の軸になります。」

「裏側にこんなに“人の力”があるとは知りませんでした。」

「表に出ることは少ないですが、確実に生活を支えているんですよ。毎日“次の日の食卓”を作っているようなものです。」

「本当に動きが多い世界なんですね。」

「そうでしょう? こうした地道な積み重ねが、次の日の売り場をつくっているんです。」

AIでは代替できない“目利きと経験”

「さっきのお話で、天候や産地の状況によって品質が変わると聞いて…どうやって判断しているのか気になりました。データだけでは難しそうですよね?」

「そうなんです。データも使いますが、最終的には“現物を見て判断する力”が必要で、ここはAIでは代われません。」

「どんなところが“人にしかできない判断”なんですか?」

「たとえば果物。見た目はきれいでも水っぽいこともあれば、逆に見た目が悪くてもおいしいこともある。こういう“味”の部分は、実際に見て触って食べないと分からないんです。」

「たしかに、見た目と味は違いますよね。」

「そうでしょう。雨が多い年は水分が増えたり、日照りが続けば日焼けしたり。産地で生産者に話を聞き、その年の気候を踏まえて自分の目と舌で確かめる。その“感じ取る力”はAIには難しいですよ。」

「生産者の方と話すときも知識が必要なんですね。」

「もちろん。『今年は玉が大きいですか?』『収穫時期は?』と、品目の特性を理解したうえで話さないとプロ同士の会話になりません。誇りを持って作っている方々なので、知識が浅いと信頼されません。」

「現場のプロと話すには、自分もプロでないといけないんですね。」

「その通り。うちの果物担当なんて、山ほど積まれたみかんを見ただけで“味の良し悪し”が分かる。職人ですよ。だからバイヤーに自信を持って勧められるんです。」

「それはどれくらいで身につくんでしょう?」

「年数はかかりますが、毎日見て触って食べて、生産者と話して…その積み重ねです。僕も最初は素人でした。」

「AIでは再現できない“経験の蓄積”ですね。」

「まさに。青果の世界で大切なのは、人との信頼と、自分の目で確かめる姿勢。“売れる”“やめたほうがいい”という判断は、現場の経験からしか生まれません。」

「青果の仕事って“感性の仕事”なんですね。」

「その通り。天候・土地・人・季節…全部が影響するので、変化を敏感に捉えられる人は強いですよ。」

「AI時代でも、人の役割が残るんですね。」

「ええ。人の感覚と、生産者やバイヤーとの信頼関係。この2つがある限り、青果流通は“人の仕事”なんです。」

社長のキャリア:続けたいと思える仕事に出会うまで

「社長ご自身のキャリアについてもお聞きしたいです。最初からこの業界に進もうと思っていたんですか?」

「いやいや、まったくですよ。実は僕、公務員志望でした。国家公務員の試験を受けて一次は通ったんですが二次で落ちましてね。悩んでいたところを、ゼミの先生に“野菜の問屋をやっている先輩がいるぞ”と紹介されたのが入口です。」

「そこから青果の世界に入られたんですね。」

「ええ。当時は昭和55年。初任給が10万5千円くらいの頃に“うちは20万出す”と言われて、お金につられて入りました(笑)。まさか70歳まで続けるとは思いませんでした。」

「そんなに長く…!最初はどうだったんですか?」

「とにかくハード。休みは月2~3回、全部手作業。受注→発注→送り状→パソコン入力…と、二度手間三度手間の嵐ですよ。」

「今とは全然違うんですね。」

「そうですね。分業制を取り入れたり、自社システムを作ったりして働き方を変えました。実は早朝から夕方までのハードな労働によって、私が40代で心筋梗塞になってしまって。“このままでは社員ももたない”と本気で思ったんです。」

「そこから改革が進んだんですね。」

「ええ。今の“朝2時に来て11時に帰る”市場ならではの働き方も、その改革の一つなんですよ。」

「社長がこの仕事に“手応え”のようなものを感じ始めたのは、どんなタイミングだったんですか?」

「そうですね…はっきり“この瞬間に”というより、気づいたらそうなっていた感じなんですよ。最初は青果に特別興味があったわけでもなかったんですが、毎日見て、触って、食べて、生産者と話して、お客さんの反応を聞いて…そういう時間が積み重なるうちに、自然とこの仕事に惹かれていきました。」

「気づいたら好きになっていた、みたいな感じなんですね。」

「そうですね。青果は毎日状況が変わるし、売り場でお客さんが手に取ってくれると嬉しい。産地の努力がちゃんと届く瞬間を見ると、続けたいと思えるんです。」

「社長がこの仕事をどれだけ大切にしているか伝わってきました!」

「ありがとうございます。運命のめぐり合わせで入った会社ですが、気づけばずっと野菜と果物に支えられてきましたし、今となっては天職だと思っていますよ」

小林青果の働き方 ― 朝型だからこそ叶う自分の時間

「働き方についてもぜひ聞きたいです。市場って朝が早いイメージがありますが、実際はどんな働き方なんですか?」

「朝は早いですよ。だいたい2時か3時には会社に来ています。仕分けして配達して、11時ぐらいには仕事が終わります。」

「11時に終わるって…そこからは自由なんですか?」

「そうです。昼からは本当に自由。家に帰る人もいれば、昼寝したり、趣味に使ったり。野球のコーチをしている人や、ボディビルで大会に出る社員もいます。」

「ボディビル!?」

「昼間のジムは空いていますからね。渋滞もないし、待ち時間もないし、好きなことがしやすい。これは朝型の働き方ならではです。」

「特殊だけど、生活に合う人にはすごく良さそうですね。」

「そうなんです。暑い時期でも涼しい時間に働けますし、昼の一番暑い時間は家で休める。社員からも“働きやすい”という声が多いですよ。」

「休みはどんな感じなんですか?」

「市場は水曜が休みなので、“日曜・祝日・水曜”が基本。月火働いて休み、木金土働いて休み…最大でも3連勤です。“5連勤はもうできない”と言う社員もいます。」

「生活リズムを整えやすそうですね。」

「ええ。仕事は早いけれど、そのぶん“1日が長い”。市役所にも行けるし、子どもの帰宅時間に家にいられる人も多いです。」

「家族との時間も取りやすいんですね。」

「その通り。定着率が高いのも、この働き方が合う人が多いからだと思います。一度慣れると、普通の時間帯の仕事には戻れないという社員もいます。」

「“朝早いけど、生活が豊かになる働き方”って素敵です。」

「最初は大変そうに感じるかもしれませんが、メリットも多いですよ。自分に合うかどうかは、実際に入ってみるとよく分かると思います。」

「働き方にも、小林青果ならではの魅力があるんですね。」

「ええ。青果の世界ならではの働き方ですからね。」

 人の喜びが巡っていく仕事──その中心に立つということ

「社長はこの仕事をずっと続けてきて、“いい仕事だな”と思う瞬間ってどんなときなんですか?」

「そうですね…。やっぱり、“関わった人たちがみんな喜んでくれたとき”かな。青果は、生産者さんがいて、うちが仕入れて、お店が売って、お客様が買ってくれる。一つの流れの中にいろんな人がいるわけですよ。」

「確かに、たくさんの人が関わっていますね。」

「その全員が『よかった』と言える形になったときが、一番嬉しいんです。例えば、ある果物がすごくおいしくて、生産者さんも誇らしげにして、バイヤーさんも『売れました!』と言ってくれて、実際に売り場でもよく動いた――。そんなときは、やっぱり達成感がありますね。」

「一つの成功の裏に、たくさんの人がつながっているんですね。」

「そうなんです。うちは生産者の産地に直接行って、畑を見て、味を確かめて、それをバイヤーさんに紹介します。で、バイヤーさんが『これはいい』と言えば、今度は店頭でお客様が選んでくれる。そのつながりのど真ん中にいるのが、僕らの仕事なんですよ。」

「“売れた”だけじゃなく、“喜んでもらえた”が大事なんですね。」

「本当にそこですね。青果は相場も天気も変わるから、いつもうまくいくわけじゃないんですよ。中には“読みが外れた”なんてこともある。でも、だからこそ生産者さんに感謝されたり、バイヤーさんに『今年のは良かった!来年もお願いします』と言ってもらえた時の重みは大きいんです。」

「人の反応が直接返ってくる仕事って素敵です!」

「そう。しかも“いい反応ほど、静かに深く残る”んですよ。派手じゃなくていい。でも、自分が判断した商品が売り場に並び、お客様が手に取り、生産者の力にもなる。その積み重ねが、毎日のやりがいにつながります。」

「“いい仕事”って、人の役に立てる実感があるってことなのかもしれないですね。」

「そう思います。自分がやってる仕事が、どこかで誰かの役に立っていると感じられれば、続けられるんですよ。青果は確実に大勢の人の生活を支えている。そういう意味でも“誇りが持てる仕事”だと思っています。」

「今日のお話を聞いて、働くうえで大事なことをすごく考えさせられました。」

「まだまだ伝えたいことはありますよ。仕事って、本当に奥が深いんですから。」

新卒採用への想い――少数だからこそ、すぐに成長できる環境がある

「小林青果さんは、新卒採用にも力を入れていると聞きました。どういう理由からなんでしょうか?」

「うちは今、平均年齢が上がってきていてね。だからこそ“若い感覚”が必要なんですよ。売り場のデザインでも、商品づくりの視点でも、今の若い世代の感性って本当に大事なんです。」

「たしかに、消費者の感覚って常に変わりますもんね。」

「そうなんです。それに、うちは新卒で入る人数が多くないから、一人ひとりがしっかり成長できる環境なんですよ。大企業みたいに何十人も同期がいるわけではない分、目が届くし、早い段階からいろいろな仕事を任せてもらえる。」

「入ったばかりでも、成長しやすい環境なんですね。」

「ええ。僕はよく学生さんに、“うちは競争相手が少ないからすぐ偉くなれるよ”って冗談っぽく言うんですけど(笑)。でも半分本気なんですよ。頑張っている人はちゃんと見てもらえるし、役職もどんどん上がります。」

「実力主義という感じですか?」

「実力も大事ですが、“人間性”のほうがもっと大事かもしれませんね。生産者さんともバイヤーさんとも、最終的に支えてくれるのは人間力だから。明るくて、素直で、ちゃんと話ができる人なら、経験がなくても伸びていきます。」

「経験よりも、姿勢や考え方なんですね。」

「そうです。知識は入ってからでいいんです。うちはみんなで支え合う会社だから、教育は丁寧にします。ただし、よく言うんですが、入口は広く、成長しやすい会社なんですよ。やる気のある人はどんどん伸びていくし、自分の力で役割を広げられます。」

「新人でも挑戦の機会があるって、すごく魅力的です。」

「そうでしょう?それにうちは同族経営ではないので、役職もポストも全部“オープン”。実力や人柄があれば誰でも上に行けます。社員持株会でみんなが株主でもあるから、会社の成長は“みんなのもの”なんですよ。」

「自分の頑張りがそのまま会社にも返ってくるって、すごくいい環境ですね。」

「そう思います。青果の仕事って決して派手ではないけれど、人を大事にする会社で働きたい、成長したいという人には、本当に向いていると思いますね。」

「今日お話を聞いて、小林青果がどういう会社なのか、すごくよく分かりました。」

「こちらこそ、真剣に聞いてくれて嬉しかったですよ。」

「本日は、貴重なお話をたくさん聞かせていただきありがとうございました。」

「ありがとうございました。何かの参考になれば嬉しいです。青果の世界は奥が深いので、またいつでも聞きに来てください。」

「ありがとうございました!」

取材を通して感じたのは、青果の仕事が、

産地で育つ力と、店頭で生まれる反応、そして生活者の毎日を

丁寧につないでいく役割を担っているということでした。

早朝の市場での動き、積み重ねて身につく感覚、

生産者・バイヤー・お客様に真っすぐ向き合う姿勢――

そのどれもが、人の暮らしを支える流れの中に確かに存在しています。

私たちが何気なく手に取る一つひとつの背景には、

目には見えないところで重ねられてきた、人の判断や関係性がある。

その事実に触れられたことが、この取材で一番心に残ったことでした。

協力企業様のパンフレット紹介 PAMPHLET