リクルートWebマガジンVamosでは、今回、食品の卸売業を専門とするコゲツ産業の大塚副社長にインタビューを行いました。卸売業というと、学生の皆さんにはあまり馴染みのない業態かもしれませんが、私たちの生活に欠かせない重要な役割を果たしています。特にコゲツ産業は、九州を中心に地域密着型のビジネスを展開し、多様な食文化を支える一方で、全国規模のメーカーとも連携し、安定した商品供給を実現しています。
今回のインタビューでは、コロナ禍における流通の課題や、地域の特色ある食文化を守るための取り組み、そして卸売業が持つ社会的な意義について、副社長から貴重なお話を伺いました。この記事では、コゲツ産業がどのようにして市場を支え、地域に貢献しているのかをご紹介します。
コゲツ産業株式会社
代表取締役副社長 大塚健弘
コゲツ産業は、食品の卸売業を専門とする商社として、社会において非常に重要な役割を果たしています。卸売業という業態は、一般の消費者にはあまり馴染みがないかもしれませんが、実際には私たちの生活に欠かせない存在です。私たちは、多くのメーカーから商品を仕入れ、スーパーやドラッグストア、百貨店といった小売店に納入することで、日々の食卓に必要な商品を提供しています。
卸売業が果たす役割について、コロナ禍でその重要性が再認識されました。特に、トイレットペーパーやティッシュペーパーが一時的に市場から消え、パニックが起きたことを覚えていますか?
覚えています。店頭からトイレットペーパーがなくなった映像などをテレビでみて驚きましたし「買いに行ったほうがいいのかな?」と不安になりました。
そうですよね。トイレットペーパーなどは通常、週に一度のペースで配送されるものですが、あの時は突然の需要増加に対応しきれず、店頭から姿を消す事態となったんです。もともと週に一度なので「急に明日からどんどん流通させて!」というわけにはいかないんですね。日常生活がどれほど流通システムに依存しているかがよくわかります。
日本中から消えたわけではなく、通常の流通量を超えたからということだったんですね。
もちろん食品業界においても、同様の事態が発生する可能性があるんです。特に、生鮮食品など、毎日供給されるべき商品が途切れることは、社会的な混乱を引き起こす可能性が高い。そのため、コゲツ産業では、どのような状況においても物流が止まらないよう、様々な工夫や対策を講じてきました。
確かに食品で同様のパニックが起きたらもっと不安になりますね。どのような対策などがあるのですか?
例えば、ある物流センターがコロナの影響で一時的に閉鎖される場合には、別のセンターからカバーする体制を整えるなど、柔軟な対応を図りました。これにより、消費者に安定した商品供給を続けることができたのです。こうした取り組みは、メーカーと小売店の間をつなぐ卸売業者の役割が、いかに社会的に重要であるかが理解できる良い例だと思います。
卸売業は表立って注目されることは少ないですが、私たちの生活を支える縁の下の力持ちとして機能しているんです。消費者に直接商品を販売するのではなく、小売店に商品を供給することで、全体の流通システムを円滑に運営する。そのため、卸売業者がなければ、私たちが普段何気なく手に取る食品や生活必需品が安定的に供給されるのが難しくなるんですよ。
商品が店頭に並んでいることを当たり前と考えていましたが、欲しいものをいつでも買えるってすごいことなんですね。
物流というと、一般的にはトラックの運転や輸送作業を思い浮かべるかもしれませんが、その背後には非常に緻密な計画と管理が存在しています。商品の在庫管理や配送計画、さらに物流センター内での効率的な配置など、あらゆる工程が精密に計算され、無駄なく運営されています。このような業務の積み重ねが、日々の物流を支えているのです。
このように、コゲツ産業の卸売業は、私たちの生活を支える重要なインフラとしての役割を果たしています。日々の食卓に欠かせない商品が滞りなく供給されるのは、こうした卸売業者の存在があってこそであり、その意義は非常に大きいと考えています。
卸売業という言葉は知っていましたが、社会的な役割を担っているということまで考えていませんでした。
確かに卸売業は、メーカーから買って小売店にマージンを上乗せして販売する(=卸す)仕事です。でもみなさん「スーパーがメーカーから直に商品を購入する方が中間コストを省けて物は安くなる」と思いませんか?
確かにそうですね!
単純に考えたらそう思うでしょう?でもそれは一面的な見方に過ぎません。特に日本の流通システムにおいては、卸売業が果たす機能は極めて重要で、単に中間マージンを上乗せしているわけではないんですよ。
卸売業が存在しないとどうなってしまうのでしょうか?
もし卸売業者がなくなれば、各メーカーは全国の小売店と直接取引を行わなければなりません。ということは、小売店ごとに配送を行う必要が生じ、物流の効率が著しく低下します。結果として、メーカーもしくは小売店のいずれかが、現在卸売業が担っている『商品をまとめて運ぶ』という機能を引き継ぐ必要が出てきます。
確かにどちらが担うにしても大変ですね。
スーパーがメーカーへ仕入れに行って大量に運んでくるなんて想像できないです。
常温・冷蔵・冷凍とさまざまな温度管理も必要な中で、スーパーが買い付けに行くのは非効率ですよね。でもアメリカなどの国では、小売業が非常に強い影響力を持ち、メーカーと直接取引を行っている例も多く見られます。ウォールマートなどの巨大小売業者は、自社で流通センターを全国に展開し、メーカーからの納品を一元管理しています。このように、小売業者が卸売業の機能を兼ねることで、効率的な物流が実現されています。
大きい会社は自社での流通も可能かもしれないですが小さい会社は難しいですね。
その通りです。特にヨーロッパの一部では、卸売業の機能があまり強くなく、流通システムが小売業者に依存している国もあります。こうした国々では、結果として小売業者が非常に強大な影響力を持ち、数社による寡占状態が生まれています。日本でも同様の傾向が見られ、特にコンビニ業界では、大手チェーンが市場を支配する形となり、中小のコンビニチェーンは次々と吸収されていきました。例えば、広島のポプラやサンクスといったかつて独自性を持っていたコンビニチェーンも、現在では大手の傘下に入っています。
確かに大手のコンビニは自社の流通でトラックもよく見かけます。他のコンビニはどんどん見なくなってしまいました。
このような状況を考えると、日本における卸売業の機能は、単に中間コストを上げる要因ではなく、物流の効率化と市場の多様性を維持するために不可欠な役割を果たしていることがわかります。卸売業者が存在することで、メーカーと小売店の間に効率的な商品流通の仕組みが生まれ、結果として消費者に対しても安定した商品供給が実現されていくのです。
大学の講義でメーカーから直に商品を購入するというビジネスモデルは学んだことがあります。画期的だなと思っていましたが、すべてが良いというわけではないのですね。
単にコストを削減するために卸売業を省くのではなく、その機能と価値を理解し、より効果的に活用することが求められています。特に、現在の複雑化する市場環境において、卸売業者の役割はますます重要で、その専門知識やネットワークを活かすことで、流通の最適化が図られるのです。
特に食品業界においては、新規参入が他業種に比べて比較的容易であることが特徴です。これは、卸売業者が存在し、そのノウハウと流通機能が新規参入をサポートしているからです。他業種からの参入企業は、資本力を持っていても、食品の流通や販売に関する専門知識やノウハウを持っていない場合が多いです。こうした企業が、新たに食品業に参入する際、卸売業者と提携することで、商品調達や流通の課題をクリアし、市場での成功を目指すことが可能になります。
卸売業がしっかりと機能することで、さまざまな企業が新規参入できるんですね!
市場全体に新陳代謝が生まれますよね。卸売業者の存在が、常に市場の変化に対応するための緊張感を与えているとも言えます。このような市場環境は、消費者にとっても多様な選択肢が提供されることにつながり、みなさんにとってより豊かな生活が実現されるということです。
良い商品が生まれる仕組みは卸売業のおかげでもあるのですね。
もちろん新規参入が可能だからといって、それが常に正しい選択であるとは限りません。しかし、日本の小売市場においては、卸売業者が適切に機能していることで、多様な企業が参入し、競争が促進されていることは事実です。この競争が、市場の健全な成長と消費者の利益となっているわけです。
正しい競争によって、より良い商品が開発される。その結果が私たち消費者の利益となるわけですね。大手メーカーだけでなくたくさんのメーカーの商品を取り扱うことが重要になってきますか?
その通りです。大手メーカーはもちろんですが、私たちは九州地域の地元企業との取引も大切にし、地元産品を積極的に取り扱っています。この姿勢により、九州の多様な食文化が保たれ、地域の個性が生き続けることが可能になります。例えば、九州では多くの醤油メーカーが存在し、居酒屋ごとに異なる醤油を使うなど、独自の文化が根付いています。これらの地域特有の商品が生き残り、消費者に選ばれるためには、地元に密着した卸売業者の存在が欠かせません。
確かに福岡のスーパーは醤油のラインナップが豊富なイメージです。地元の製造会社の応援にもつながるんですね。
しかし、単に地元産品を扱うだけではありません。戦前から、全国規模の大手メーカーとも深い取引関係を築いており、味の素などの大手企業の商品を九州地域に安定して供給しています。このように、地元密着と全国規模のビジネスを両立させることで、九州地域の消費者に多様な選択肢を提供しています。
実は、私は関西出身なのですが、関西地域でも特定の食品カテゴリーで地域密着型のメーカーがあります。例えば、関西ではポン酢やウスターソース、お好み焼き用のソースなどが地元の中小メーカーによって供給されており、これは関西人の味へのこだわりが反映されたものです。同様に、九州では醤油に対するこだわりが強く、地域ごとに異なる味わいが守られてきました。このような地域特有の食文化を守り、消費者に届けるためには、卸売業者が重要な役割を果たしているのです。
なるほど!地元の中小メーカーも安定して供給していけるんですね。
イオンのような全国チェーンの企業でも、九州地域においては地域ごとの特性を尊重するために、事業をブロックごとに分け、地元産品を取り扱う工夫をしています。コゲツ産業も同様に、地域の多様なメーカーの商品を取り扱い、地元の魅力を引き立てることで、消費者にとって魅力的な店舗づくりを支えています。
このように、コゲツ産業の「地元密着」という理念は、単なる地域サービスではなく、全国規模のビジネスと地域特性を両立させるための戦略的な取り組みとなります。私たちが九州地域で強固な地位を築いているのは、地元企業と大手企業の両方と緊密に連携し、それぞれの利点を最大限に活かすバランスを取っているからこそです。このアプローチにより、地域の食文化を守りつつ、消費者に対して多様な商品を提供することが可能となり、地元経済にも大きな貢献を果たしています。
一つひとつの商品を理解することも大事になってきますね。
メーカーから託された商品の価値を正確に小売店に伝えるという重要な役割も担っています。これにより、消費者にとって最適な商品が店頭に並び、結果として売れ行きにも大きな影響を与えることになります。
特に、コゲツ産業の社員たちは、メーカーが持ち込む商品の試食を通じて、その商品の魅力を深く理解し、小売店に的確に伝える努力をしています。メーカーにとっては、コゲツ産業が自分たちの思いを正確に小売店に伝えることが、商品が消費者に受け入れられるための重要なステップでもあります。もし、コゲツ産業がその役割を果たせないと、メーカーからの信頼を失い、ビジネスの存続が危うくなる可能性すらあります。
試食もしてそれぞれの商品の魅力を理解して伝えているんですね!
単に商品を卸すだけでなく、売れ行きのデータを分析し、メーカーと共有することで、販売戦略の改善にも貢献しています。大手メーカーであれば、独自のマーケティング機能を持っていますが、コゲツ産業はその機能と競合せず、むしろ九州地域に特化した戦略をメーカーに提案するなど、効率を高める取り組みを行っています。
卸売業・物流業ってそんなに奥深いんですね。商品を選ぶ基準などはあるのですか?
商品選定においてはこだわりを持っているわけではなく、むしろ多様な消費者ニーズに応えることを重視しています。私たちの役割は、消費者が求める商品を幅広く提供するプラットフォームを提供することであり、特定の商品や地場産品に固執することではありません。定番品からマニアックな商品まで、バラエティに富んだ商品が揃う売り場を作ることが、小売店にとって望ましい形と考えています。
都市部だけでなく、人口が少ない地域であっても、消費者のニーズに応えるためには、広範な商品ラインナップが必要です。しかし、特定の商品に特化しすぎると、市場が限られてしまい、ビジネスとしての成長が難しくなります。したがって、コゲツ産業は、多様な商品を提供することを基本としつつ、地域ごとの特性に応じた柔軟な対応を行っています。
私たちがよく食べるカップラーメンだけでもたくさんの知らない商品があります。選べるって消費者にとってはすごくいいことですね。それだけの商品を取り扱うとなると管理は大変そうですね。
商品がスーパーに届くまでの管理体制について、非常に厳格なルールを設けています。受注から翌日または翌翌日までに配送を完了することを約束しています。この管理体制には、入荷した商品のロットごとに製造年月日を厳密に管理し、最適な状態で商品を提供することが徹底されています。
具体的には、同じ商品であっても製造日や賞味期限に基づいて別々に管理されており、どのロットがいつ納品されたかをトレースできるシステムが整っています。これにより、品質の維持とトレーサビリティが確保され、スーパーの店頭に常に新鮮な商品を並べるようになっています。
受注からそんなに早く届くんですね!賞味期限などの管理も難しそうです。
その中でもさらに力を入れているのが、冷凍食品やアイスクリームの取り扱いです。冷凍食品は温度管理が非常に重要であり、配送時に単に商品を届けるだけではなく、店頭に陳列するまでの全工程を同社の社員が担当しています。
スーパーの方が陳列しているイメージがありますが、コゲツ産業で配送してそのまま陳列まで行うのですか?
これにより、商品の品質が保たれるだけでなく、スーパー側のバックヤードに余分な冷凍庫を置く必要がなくなるため、コスト削減や省スペース化につながっています。
このサービスは、他社ではなかなか真似できない部分であり、コゲツ産業の大きな強みとなっています。単に配送を委託するのではなく、自社の社員が直接陳列までを行うことで、サービスの品質を確保し、スーパーとの信頼関係を築いています。このようなサービスは、店側にとっても大きなメリットがあり、多少コストが上乗せされても納得いただいています。
確かにバックヤードの冷凍庫に一度入って、また店頭に移動するのは手間もコストもかかるので画期的ですね!
このように、コゲツ産業は、物流とサービスの質を徹底的に追求することで、スーパーや小売店との強固な関係を築き、信頼を勝ち取っています。
私たち消費者には見えない部分で様々な努力があるんですね。
自分たちが納得できるサービスの価格を提示し、顧客である小売店と話し合いの上でその価格が受け入れられるよう努力しています。この価格設定は、単に安価であることを追求するのではなく、提供するサービスの価値を反映したものであり、品質とコストのバランスを取ることが重要です。
社員の給与や待遇を向上させることは、企業としての責任であり、それを実現するためには適切な価格を設定する必要があります。提供するサービスの質に見合った対価を頂くことは、社員を守るための責任であり、それを犠牲にしてまで価格を下げることはしないという考えは大切です。
学生の私たちでも価格を下げないということは大変だと感じます。社員を守るためにも、価格設定は重要なのですね。
実際は、その責任と現実のバランスを取ることは難しいです。今回のコロナ禍や天候不順など、避けようがないイレギュラーな事態が発生することも避けられません。こうした状況に対して、どれだけ正確に情報をキャッチし、迅速かつ適切に対応するかが、企業の信頼性と持続可能性に直結します。例えば、すべての拠点に1週間分のバッテリーを備えることができれば、停電などのリスクに対して完全な対策が取れるかもしれませんが、それが経営に与えるコスト負担も無視できません。どこまでの準備が合理的であり、持続可能であるかを見極めることが経営者の大きな責任となってきます。
また、社員の給与や待遇についても、将来的にその水準を維持できるかを見極める必要があります。企業が一時的に給与を引き上げても、それを長期的に維持できなければ、結果として社員に対して無責任な対応となってしまいます。企業の成長を持続させながら、社員に対して安定した待遇を提供し続けるためには、バランスの取れた判断が求められるわけです。
そういった判断が求められる中で、副社長が普段から心がけていることは何かありますか?
自分自身に過大な期待をかけすぎず、また甘やかしすぎないことが大切ではないでしょうか。私たちは自分の能力が急激に変わることはないと思っていますが、それは決してネガティブなことではありません。むしろ、その現実を理解した上で、気持ちの持ち方やアプローチを変化させることによって、私たちの目指す結果やアウトプットに変化をもたらす可能性があるのです。これは、自分の限界を理解しつつも、環境や状況に応じて適応し、柔軟に対応することで、望ましい結果を得ることができると信じています。自己成長を続けるためには、このような柔軟性と適応力が必要なのではないでしょうか。
今後コゲツ産業をどのような組織にしていきたいかという想いなどをお聞かせください。
できるだけ社員の幅を広げ、多様なバックグラウンドやスタンスを持つ人々が集まり、互いに補完し合えるような組織を目指したいと考えています。仕事に対するスタンスは人それぞれです。全員が「バリバリ成果を出したい」と考えているわけではなく、中には、家庭や趣味とのバランスを大切にしたいと考える社員もいれば、キャリアの中で新しいスキルを磨きたいと考える社員もいます。大事なことは、「一生懸命働く」という共通の想いを持ち、その想いの中で一人ひとりの力を最大限に発揮できるような環境を提供することです。
これは、単に経営の効率性を追求するだけでなく、社員一人ひとりの個性やニーズを尊重することで、長期的に持続可能な組織を築くことができると考えています。多様な視点を取り入れることで、イノベーションを促進し、新しいビジネスチャンスを生み出すこともできるはずです。
貴重なお話をありがとうございました!卸売業の重要性や、やりがいを感じることのできるお話も業界のイメージがガラッと変わりました!それでは最後に、読者へ一言お願いします。
私が皆さんにお伝えしたかったのは、卸売業が単に商品を流通させるだけの存在ではないということです。卸売業が果たす役割は、地域の特色ある食文化を守り、新しい小売業の成長を促進する、非常に重要なものです。これにより、日本の食品流通全体が豊かになり、社会全体にも大きな価値をもたらしています。
競争が生まれ、新たな企業が成長していくのは、卸売業が市場の健全な発展を支えているからこそ可能です。その意味では、卸売業は市場の活力を維持するエンジンであると言えます。
学生の皆さんにも、ぜひ卸売業のこの重要な役割を理解し、興味を持っていただければと思います。単に「安く仕入れて高く売る」だけではなく、流通の仕組み全体に深く関わり、社会に大きな影響を与える非常にやりがいのある仕事です。皆さんの挑戦をお待ちしています。