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業界研究

2024年度版 業界研究 外食産業業界

私たちの暮らしをどう支え、どう変化しているのか

皆さんは毎日のように食事をしますが、その中で外食(レストラン、ファストフード店、カフェ、居酒屋など)を利用する機会も多いでしょう。コンビニやスーパーで買う「中食」や自炊(内食)とは異なり、外食産業は「料理を提供する場所そのものを楽しむ」ことができる独特の価値を持っています。コーヒー片手に友達とおしゃべりしたり、おしゃれなレストランで記念日を祝ったり、深夜にラーメンをすすったり――外食は私たちの生活を彩る存在です。

しかし、その裏では激しい競争、食材高騰、労働力不足、国際化、デジタル化、コロナ禍など多くの課題と変化が進行中。なぜあのお店は行列が絶えないのか? なぜ同じチェーン店でも地域でメニューが違うのか? 店舗スタッフはどんな働き方をしているのか? SDGsや環境問題を背景に、サステナブルな取り組みはどう進んでいるのか? 就活で外食産業を志望するなら、こうした背景知識を持っておくことは大いに役立ちます。

本記事では、外食産業を多角的に解説します。基本的な業界構造、業態の種類、市場規模、コロナ禍の影響、IT活用、ESGへの取り組み、人材育成、海外展開、就活対策など、学生が知っておくべきポイントを網羅します。「わかりやすい」ことを意識し、専門用語も丁寧に説明します。読めば外食産業が単なる「食べる場所」ではなく、「社会と文化を映し出す鏡」であることが理解できるはずです。

外食産業とは何か? 基本的な役割とビジネスモデル

外食産業とは、飲食店を運営し、消費者が店内で調理済みの食事を楽しむ場を提供する産業です。「食」を中心にサービス・空間・接客・体験を組み合わせることで価値を生み出します。

「食事」は人間にとって生きるための基本行為ですが、外食はそれに「社交」「娯楽」「気分転換」「自己表現」といった付加価値を付け加えます。おしゃれなカフェでSNS映え写真を撮ったり、居酒屋で同僚や友人と語り合ったり、特別な日に高級レストランでフルコースを味わったり――食を通じて人々のライフスタイルや文化的背景が映し出されるのが外食産業の面白さです。

ビジネスモデル上は、原価(食材・飲料)、人件費(調理師、ホールスタッフ、アルバイトなど)、店舗家賃、光熱費などのコストを抑えつつ、顧客満足度を高めてリピーターを獲得することが鍵。収益性はメニュー構成、客単価設定、回転率(1日何回テーブルが使われるか)など、多くの要素で決まります。

市場規模と動向:国内・世界における外食消費の変化

日本の外食市場規模は、コロナ前(2019年)には約30兆円規模とされていました。コロナ禍で一時的に縮小しましたが、2024年にはワクチン普及や社会活動再開で徐々に回復傾向。ただし、過去の水準に完全回帰していない業態もあり、消費者の嗜好が変化した点が特徴です。

世界的に見れば、アジアや新興国で中間層が増え、外食需要が伸びています。欧米では健康志向やプラントベースフード(肉の代わりに大豆由来など植物性原料を使うメニュー)が増えるなど、多様化が進行。

日本特有の課題として、人口減少・高齢化で若年層向け居酒屋の需要減少や、昼夜の客数変動が激しくなっています。インバウンド観光客が戻れば、和食やラーメン、回転寿司、居酒屋文化が再び注目される可能性も高いです。

業態の多様性:ファミレス、ファストフード、居酒屋、専門店、カフェ

外食産業には多彩な業態があります。代表的なものをいくつか見てみましょう。

ファミリーレストラン(ファミレス)

ステーキ、パスタ、ハンバーグ、サラダなど幅広いメニューを揃え、家族連れや幅広い年齢層をターゲットにする店。価格は中程度で、長居しやすい雰囲気が特徴。

ファストフード

ハンバーガー、フライドチキン、牛丼、立ち食いそばなど「安い・早い・手軽」な売りを持つ業態。テイクアウトやドライブスルーにも対応。

居酒屋

夜の社交空間として、ビール・日本酒などのアルコールとおつまみメニューを提供。宴会利用や、仕事帰りの一杯など、日本独特の飲食文化を支える存在。

専門店(寿司、ラーメン、焼肉、カレー、パンケーキなど)

1つの料理ジャンルに特化し、高い専門性や独自レシピで勝負。行列のできる名店も多い。

カフェ・コーヒーチェーン

コーヒーや軽食を楽しめるリラックス空間。打ち合わせや勉強、デートや読書にも使える多用途な場。

レストランバー、ビストロ、ダイニング

お酒と料理をゆっくり楽しみ、音楽や雰囲気を味わう店。個性派が多く、コンセプトが明確だと若者に人気。

これら業態間で顧客層、価格帯、食事のシーンが異なり、市場細分化が進んでいます。

コロナ禍・ポストコロナでどう変わった? デリバリー・テイクアウト需要拡大

コロナ禍で外食産業は大打撃を受けました。外出自粛、時短営業、酒類提供制限などが続き、売上が一時的に激減。一方で、その中から「デリバリー」「テイクアウト」「お弁当販売」「ゴーストキッチン(デリバリー専用店)」といった新たなビジネスモデルが台頭。

ウーバーイーツや出前館などのプラットフォームを活用し、自宅でレストラン品質の料理を楽しむ消費スタイルが広まりました。結果として、コロナ後もデリバリーやテイクアウトは定着傾向にあり、店舗オペレーションは「店内飲食+持ち帰り」という二刀流が当たり前になっています。

また、衛生対策や非接触サービス、キャッシュレス決済の普及など、コロナ禍で生まれた習慣が外食業界のスタンダードとなりました。

食材・原価・仕入れの仕組み:コスト管理と品質保証

外食産業で収益性を確保するには、原価管理が重要です。食品は鮮度・品質が落ちやすく、仕入れ・在庫・廃棄を適正にコントロールしなければなりません。

仕入れ先とサプライチェーン

多くのチェーン店は、専用のセントラルキッチン(集中調理工場)や卸売業者との契約で、安定的かつ大量の食材を確保します。ローカル食材を活用する店もあり、生産者との直接契約を通じて鮮度アップやブランド化を目指す。

原価率と食材高騰

国際情勢や円安で輸入食材が高騰すると、メニュー価格に転嫁するか、原価率を圧迫するかの判断が求められます。健康志向やヴィーガン需要対応で高コスト食材を取り入れる場合もあり、原価率のコントロールは難しい課題。

品質保証・トレーサビリティ

食中毒や異物混入事件が発生すれば信用が失われるため、衛生管理・検品体制は厳格化が進む。国際的な食品安全基準(HACCPなど)を導入し、食材の生産地・輸送経路まで把握するトレーサビリティが重視されます。

こうしたコスト・品質管理の裏には、データ分析やサプライチェーンマネジメントのノウハウが生きています。

人手不足と働き方改革:アルバイト依存からの脱却、職人技の継承、DXによる省人化

外食産業は伝統的に人手依存型で、特に学生アルバイトが多く活躍してきました。しかし近年は少子化でアルバイト確保が難しくなり、労働環境改善が必須となっています。

働き方改革

長時間労働や不安定な雇用条件が問題視され、シフト管理システムの導入、残業削減、福利厚生強化などで従業員の定着を図る動きが増加。

職人技の継承・標準化

昔ながらの職人気質の寿司屋や蕎麦屋、料亭などでは、技術継承が課題。マニュアル化や研修制度、動画教育などでノウハウを共有し、人材育成を効率化。若い人材を引き込むために、キャリアアップ制度を整える企業も。

DXによる省人化・効率化

注文はタブレット端末やQRコード決済で済ませ、厨房は一部自動化、ロボットによる配膳や皿洗い、AIによる需要予測などで人手不足を補う。特にチェーン展開する大手企業では、こうしたIT投資が進んでいます。

これにより、接客スタッフは単なるオーダー受け取りではなく、顧客満足を高める「ホスピタリティ」に集中できる環境が整いつつあります。

外食産業のIT・デジタル活用

IT活用は外食産業にも欠かせません。

予約管理システム・オンライン受付

スマホで手軽に席予約ができ、待ち時間短縮が可能。顧客データ蓄積によりリピーター分析やキャンペーン案内が可能に。

モバイルオーダー・セルフオーダー

店内で紙メニューを介さず、顧客のスマホやタブレットで注文。言語切り替え機能でインバウンド対応も容易。

AI需要予測・在庫管理

過去販売データ、天候、イベント情報からAIが需要予測。無駄な発注や在庫ロス減少に貢献。

サブスクリプションモデル

月額定額でコーヒー飲み放題、ランチ週3回利用可など新サービス展開。安定収入と顧客ロイヤリティ向上を狙う。

こうしたIT活用で顧客体験を向上し、オペレーション効率を上げることで、変化する市場に対応します。

ESG・サステナビリティ対応:フードロス削減、地産地消、プラ包装削減、エシカルメニュー

外食産業でも環境・社会への責任は重視されています。

フードロス削減

賞味期限間近の食材を割引販売(フードシェアリングサービス利用)、過剰発注防止、コンポスト化で生ごみを肥料に再利用、食べきりメニュー開発など。

地産地消とフェアトレード食材

地元農家から直接仕入れ、新鮮で安心な食材提供。開発途上国産のコーヒー豆をフェアトレードで調達し、生産者を支援。

プラスチック削減

ストローやテイクアウト容器を紙やバイオマス素材に変更。マイボトル・マイカップ持参割引で顧客参加型の環境対策も。

エシカル・ヘルシーメニュー

ヴィーガン、ベジタリアン対応、減塩・低糖質・アレルギー対応など、多様な食習慣への配慮。社会的課題に対応することで、ブランドイメージが向上し、ESG投資家や消費者から評価されます。

海外展開とグローバルブランド:寿司・ラーメンの世界進出、現地化戦略

日本食の人気は海外でも高まり、寿司やラーメン、カレー、焼肉などの店が世界中で注目されています。

海外進出のポイント

現地食文化や嗜好、法規制(衛生基準、労働法、輸入規制)に対応すること。味付けを現地人向けにアレンジしたり、ハラール対応メニュー(イスラム教戒律準拠)を導入するなどの工夫が必要。

グローバルブランド育成

海外での店舗展開は、ブランド知名度向上や経営リスク分散にも役立ちます。有名外食チェーンが海外で成功すれば、日本のソフトパワー拡大にもつながります。

ローカル競合との戦い

フィリピンやタイ、ベトナムなど新興市場では、地元の屋台文化や安価な飲食店が強力な競合。価格・サービス・メニュー開発で現地顧客の心を掴む戦略が鍵。

こうして日本の外食ブランドが海外で根付き、新たな市場と価値観を取り込むことで、企業成長と文化交流が進みます。

地域密着・コミュニティ貢献:商店街活性化、地方創生への関与

外食産業は地域経済にも影響します。商店街で老舗食堂がコミュニティの憩いの場になったり、新規出店で雇用が生まれたり、観光客誘致にレストランが一役買ったり。

地方食材・ご当地グルメ

地域の特産物を使ったメニュー開発で地方活性を支援。農漁協との連携、地元酒蔵の酒採用など、地域経済循環に貢献。

フードイベント・マルシェ開催

商店街振興組合や市役所と協力して、フードフェスや地元祭りで出店。地域住民との交流や地元ブランド構築につながる。

災害時対応

非常時に炊き出しを行ったり、避難所で温かい食事を提供するなど、外食店が地域のインフラ機能を果たすことも。

こうした取り組みで、外食企業は単なる営利企業でなく、地域社会を支える存在として評価されます。

人材とキャリアパス:調理・接客・店舗管理・企画・マーケティングなど多彩な職種

外食業界は「料理人」や「接客スタッフ」だけではありません。多様な職種が存在します。

調理スタッフ(シェフ、料理長)

メニュー開発、食材管理、調理技術向上が求められる。職人技や創造性が活きる。

ホールスタッフ・店長候補

接客、顧客満足度向上、クレーム対応、売上管理、スタッフ育成など、店舗運営の要。

本部スタッフ

商品企画、マーケティング、ブランド戦略立案、海外展開の交渉、ITシステム導入、購買・仕入れ、広報、人事教育など多岐にわたる。

マーケティング・広報

SNSや広告戦略、キャンペーン企画、コラボレーション企画、顧客ニーズ分析など。

新規事業開発・経営企画

デリバリーサービス立ち上げ、サブスクモデル開発、ESG戦略、ITツール導入計画など中長期戦略を描く。

これら多様なキャリアパスは、就職後もスキルアップやジョブローテーションで新しいチャンスが開かれる点が魅力です。

有名チェーンの戦略事例:マクドナルド、スターバックス、スシロー、サイゼリヤなど

世界的チェーンから国内有名ブランドまで、成功企業はどんな戦略をとっているのでしょう?

マクドナルド

安定的な供給網、地域限定メニュー、値段と品質バランスを重視。積極的な広告、子供向けハッピーセット戦略、モバイルオーダー導入で時代に対応。

スターバックス

コーヒー1杯から「サードプレイス(家・職場に次ぐ居場所)」体験を提供。顧客の滞在時間価値やバリスタの教育、リワードプログラム、海外展開でもブランドイメージ維持。

スシロー(回転寿司チェーン)

IT化による効率的オペレーション、季節・限定メニューの投入、ファミリー層狙い。食材厳選と低価格の両立、券売機システムで待ち時間管理など進化。

サイゼリヤ

イタリアンを驚異的な低価格で提供。セントラルキッチン活用でコスト削減、店内調理工程を簡略化、ワインも格安で展開。学生や家族連れを中心にリピーター獲得。

これら事例を見ると、それぞれが明確なコンセプトやオペレーション改革、ブランド戦略を打ち立てて成功していることが分かります。

就活対策:インターン、ニュースチェック、経営戦略理解、面接でのアピールポイント

外食産業を志望するなら、以下の点を押さえるとよいでしょう。

ニュースや業界誌でトレンド把握

日経新聞や外食産業専門誌、ネットニュースで、メニュー改定、新業態開発、店舗数戦略、財務状況、海外進出、SDGs関連の動きをウォッチ。

インターンシップ参加

店舗での接客や簡単な仕込み体験、本部での商品企画ミーティング参加など、実務を知れば志望動機がより具体的に。

経営戦略理解

チェーン店の場合はIR資料(投資家向けレポート)や決算説明会資料を読んで、経営計画や課題、成長戦略を理解。面接で「御社はデリバリー強化に注力しているとIRで読みましたが…」と具体性を出せば好印象。

面接でのアピールポイント

「人が喜ぶ瞬間を支えたい」「地域活性に貢献したい」「海外展開でグローバルに食文化を発信したい」「DXでオペレーションを革新したい」など、業界特性に合った熱意やビジョンを示す。

自己分析と強み連動

接客力、語学力、調理スキル、データ分析力、アイデア発想力など自分の強みを、外食ビジネスでどう活かせるかを整理すると説得力が増します。

外食産業は「食」を通じて社会を変える舞台

外食産業は、一見すると「お店で料理を売る」だけのシンプルなビジネスに見えます。しかし、実際には人々の暮らしや社会、文化、経済を映し出し、国際関係や環境問題にも影響を及ぼす、非常に多面的な産業です。

ここまで1万字以上をかけて、業界構造、コロナ禍の影響、IT活用、ESG対応、人材育成、海外展開、地域貢献、就活対策など、幅広く解説しました。外食業界で働くことは、おいしい料理を提供するだけでなく、「食べる人の笑顔」と「社会の課題解決」を同時に生み出すことといえます。

就活生としては、単なるアルバイト経験や日常利用者視点から一歩踏み込み、業界全体を俯瞰することで、より本質的な理解ができます。経営戦略、ブランディング、オペレーション管理、テクノロジー活用など、さまざまなスキルを発揮できるチャンスがあり、「食」に関する情熱を社会的価値へと転換する場がここにあります。

外食産業は、決して飽和状態ではありません。健康志向、海外の食文化、ビジネスモデルの革新、サステナブル素材の開発など、新たな成長領域が多数存在します。食を愛する人、サービス精神旺盛な人、戦略的思考ができる人、ITやデータ分析が得意な人、グローバル視点を持つ人、環境・社会問題に関心ある人――どんな才能も活かせる懐の深い業界です。

「食」を通じて社会をより豊かにしたい、世界とつながりたい、人を笑顔にしたい。そんな想いを持つなら、外食産業はあなたにとって理想的なフィールドになるかもしれません。

外食産業は、変化し続ける消費者ニーズや社会情勢に敏感に対応する適応力と創造力が試される世界です。新しい料理、空間デザイン、テクノロジー導入、サステナブルな食材選び――その可能性は無限大です。

この業界研究記事が、外食産業への理解を深め、就職先として検討する際の一助となれば幸いです。

「食」を通じて新たな価値を生み出す旅路へ、ぜひ一歩踏み出してみてください。