VAMOS

投稿のサムネイル
業界研究

2024年度版 業界研究 半導体業界

みなさんが毎日使うスマートフォンやパソコン、電気自動車、そしてAIを活用したサービス――これらには必ず「半導体」と呼ばれる小さな電子部品が使われています。半導体は、電気を通したり遮ったりできる特殊な素材を使った電子部品の総称で、その中でもコンピュータの頭脳となる「ICチップ」や「マイクロプロセッサ」、記憶装置となる「メモリ」などが有名です。

なぜ、この小さな部品が世界中から注目されているのでしょうか? それは、半導体が私たちの暮らしや産業の根底を支え、テクノロジーの進歩に欠かせない存在だからです。

本記事では、2024年時点での半導体業界を分かりやすく解説します。業界の仕組み、世界市場の動向、技術トレンド、地政学リスク(国際情勢との関係)、そして就職先としての可能性まで、1万字以上かけてじっくり紹介します。「半導体は難しそう」と感じている方にこそ読んでほしい入門編のような記事です。

半導体とは何か? 基本をおさらい

「半導体」とは、電気を通しやすい金属(導体)と、電気を通しにくいゴムなど(絶縁体)の中間くらいの性質を持つ物質を指します。主にシリコン(ケイ素)という元素が使われ、このシリコンウエーハ(円盤状の基板)の上に、極小の回路を何層にも重ねて、計算処理や記憶の役割を持つ「ICチップ」を作り上げます。

私たちが使うスマホには何十個も、このICチップが詰め込まれていて、コンピュータ制御や通信、カメラの画質補正など、あらゆる機能に半導体が関わっています。電気自動車やAIスピーカー、医療機器や工場のロボットにも、半導体は欠かせません。

要するに、半導体は「電子機器の頭脳・神経・記憶装置」をギュッと詰め込んだパッケージなのです。

半導体業界の全体像 -設計・製造・材料装置・ファウンドリなどの役割

半導体業界は大きく分けて、以下のようなプレイヤーがいます。

設計専門(ファブレス)企業

自分では工場を持たず、「こんな機能を持つICが欲しい」と回路設計を行う企業。アメリカのNVIDIAやQualcommなどが有名です。

製造受託(ファウンドリ)企業

設計された回路を実際にウエーハ上に作る工場を持つ企業。台湾のTSMCや韓国のSamsungなどが代表例。

IDM(垂直統合型メーカー)

設計から製造まで自前で行う企業。例えばIntelは長年この形でやっていました。

装置・材料メーカー

半導体を作るための高性能な装置や、超高純度の材料を供給する企業。オランダのASML(EUVリソグラフィ装置)、日本の東京エレクトロンや信越化学、SUMCOなどが活躍。

このように、それぞれが得意分野を分担しています。ファブレスはアイデア勝負、ファウンドリは超高精度の製造技術、装置・材料メーカーは機械や素材の品質で勝負しています。

世界の半導体市場規模 -なぜ拡大し続けるのか

2024年現在、世界の半導体市場は約6,000~7,000億ドルといわれ、今後も成長が見込まれています。

理由は、私たちの生活や産業がますます「デジタル化」し、「電子機器依存度」が増しているからです。コロナ禍でオンライン会議やリモートワークが普及し、クラウドデータセンターや高速通信ネットワークが拡大。電気自動車や自動運転、ドローン、スマート農業、スマート工場など、新しい分野にも半導体が必要とされています。

つまり、世界中で「もっと便利に」「もっと安全に」「もっと効率的に」と思えば思うほど、その裏側には半導体が不可欠になります。需要が増えるからこそ市場は拡大し続けているのです。

スマホから自動車、AI、IoTまで -半導体が活躍する幅広い分野

半導体は昔からパソコンや携帯電話に使われてきましたが、今は用途が爆発的に広がっています。

スマートフォン

高画質カメラ、顔認証、5G通信、ゲーム処理など、すべて高性能半導体で実現。

自動車

ガソリン車よりもEV(電気自動車)は3倍近い半導体を使うと言われます。ブレーキ・アクセルの制御、バッテリー管理、車内エンタメシステム、センサーによる安全機能など、クルマは走るコンピューターに進化しています。

AI・クラウド

AIを学習・実行するデータセンターには、GPUやAI専用チップが不可欠。映像分析、音声認識、言語処理などを高速に処理するために、特殊な半導体が使われています。

IoT(モノのインターネット)

センサーや通信チップが家電や産業機器、農業用ドローンなどに組み込まれ、あらゆるモノがネットにつながる時代です。

これらすべてを支えるのが半導体ですから、需要が途切れることがありません。

技術トレンド解説 -微細化、3D化、EUVリソグラフィ、パワー半導体

半導体は、より小さく、より省電力で、より高性能なチップを作るために技術革新を続けています。以下は業界の技術トレンドになっています。

微細化

回路線幅をナノメートル(1nmは1ミリの100万分の1)単位で縮め、より多くのトランジスタ(電気のスイッチ)を詰め込みます。

EUVリソグラフィ

極端紫外線を使った特殊な露光装置で、超微細な回路パターンをシリコン上に転写する技術。とても高価な装置ですが、これなしでは最先端チップは作れません。

3D化

2次元に回路を並べるだけでなく、積み重ねることで、高密度・大容量を実現します。メモリチップなどは層を何百層も重ねる時代に突入。

パワー半導体(SiC、GaN)

電気を効率良くコントロールする部品で、EVや太陽光発電、工場のモーターなど、エネルギー効率が重要な分野で活躍。

こうした技術開発によって、半導体は常に進化し、ムーアの法則(トランジスタ数が定期的に倍増する傾向)を延命させています。

地政学リスクとサプライチェーン問題 -米中対立、台湾リスク、国内回帰の流れ

半導体は「戦略物資」と言われるほど、国と国の力関係に影響します。

以下の地政学的な動きによって、半導体は単なる技術産業ではなく、国際政治や経済政策の核心に位置づけられています。

米中対立

アメリカは先端半導体技術を中国に流さないように規制を強化。中国は自国で生産できるよう必死に投資しています。

台湾リスク

世界最先端の製造を担うTSMCは台湾に本拠地があります。もし台湾海峡で緊張が高まれば、供給が止まり世界中が大打撃です。そのため、TSMCやIntel、Samsungはアメリカや日本、欧州にも工場を作り、リスク分散を進めています。

国内回帰・誘致

日本政府もTSMCを熊本に誘致するなど、各国が自国での生産能力を高めようとしています。理由は国の安全保障と経済基盤を守るためです。

半導体製造装置・材料企業が重要な理由

半導体を作るには、ものすごく精密な装置や超高純度の材料が必要です。ここに日本企業の強みがあります。装置・材料分野は、世界中の半導体メーカーが頼りにしているため、日本企業は国際的な存在感を発揮し続けています。

例1:東京エレクトロン

半導体製造装置で世界トップクラス。エッチング装置や成膜装置など、チップ作りに欠かせない機械を供給します。

例2:信越化学、SUMCO

高品質のシリコンウエーハで世界シェア上位。基礎となる素材を安定的に供給できる技術力が強みです。

例3:フォトレジストなどの化学材料

微細なパターン転写に必要な特殊な材料は、日本企業が多く供給。このような化学材料がなければ先端プロセスは実現できません。

人材争奪戦とキャリアの多様性 -理系も文系も活躍できる業界

半導体業界は技術が命。だからこそ高度な理系人材が求められます。材料工学、電気電子、物理、化学、機械、情報など幅広い理系分野が活かせます。

一方で、国際的なサプライチェーン戦略、地政学リスクへの対応、資金調達、マーケティング、知的財産管理など、文系人材の活躍領域も豊富です。国際交渉や企画立案、サプライチェーン管理など、総合的なビジネススキルが求められます。

つまり、理系なら研究開発やプロセス改善、文系ならビジネス戦略やサプライチェーン管理、営業・マーケティングなど、多種多様なキャリアパスが開かれています。

環境・社会への配慮:ESGとサステナビリティの視点

半導体工場は大量の電力や超純水を消費し、設備が高価で、環境負荷が大きいことも課題です。最近はESG(環境・社会・ガバナンス)投資が拡大し、環境に優しい生産方法、省エネルギー、廃水リサイクルなどが求められます。

また、紛争鉱物(特定地域で争いの原因になる鉱物)の使用回避や、労働環境改善など、社会面での配慮も必要。企業は持続可能な開発目標(SDGs)を意識し、長期的に信頼される存在にならなければなりません。

こうした取り組みは、企業のブランド価値や投資家評価にも直結するため、とても重要視されています。

就活対策 -どんな準備が必要? インターン、ニュースチェック、専門知識

「半導体は難しい」と感じる方もいるかもしれませんが、ポイントを押さえれば理解が進みます。

ニュースチェック

日経新聞や専門メディアで「半導体」や「TSMC」「EUV」「パワー半導体」などのキーワードで検索して最新動向を追う。

インターンシップ参加

大手半導体メーカーや装置メーカー、材料メーカーがインターンを行っています。現場を体験し、具体的な業務イメージを得ることが有益です。

基礎知識の習得

理系なら大学の授業や研究テーマを応用し、文系ならサプライチェーンや地政学、国際ビジネス関連の書籍・記事を読むとよいでしょう。

大切なのは、「なぜ半導体業界が注目されているのか」を自分なりに整理することです。

業界で活躍する職種例 -研究開発、プロセス技術、営業、戦略企画、知財など

半導体業界にはさまざまな職種があります。

研究開発(R&D)

新しい回路や材料を探求する。技術オタクにはたまらない世界。

プロセス技術エンジニア

工場の生産工程を改善し、歩留まり(良品率)を上げる役割。現場での問題解決力が求められる。

営業・マーケティング

顧客(他社)に自社の製品やサービスを提案。技術知識を分かりやすく伝え、市場分析も行う。

戦略企画・経営企画

市場動向や地政学リスクを踏まえ、どこで工場を作るか、どこに投資するか、長期戦略を練る。

知的財産(知財)・法務

特許管理やライセンス交渉、国際規制対応など。技術と法律がクロスする面白い領域。

自分の得意分野や興味に合わせて、適した職種を見つけやすいのも半導体業界の魅力です。

面接やESでアピールするポイント -なぜ半導体が面白い? 自分の強みとの結びつけ方

就活では「なぜこの業界を選んだのか?」が問われます。半導体業界なら、以下のような切り口があります。

社会貢献・未来志向

半導体はAIや自動運転、再生可能エネルギー、医療機器など、未来社会を支える。

グローバル性

サプライチェーンが世界中に広がり、国際協力や交渉が欠かせないため、グローバルな活躍ができる。

技術の最先端

常に最新技術に触れられ、技術革新の最前線にいられる刺激的な環境。

自分の強みとの関連

理系なら研究経験を回路微細化や材料開発に活かせる。文系なら海外留学経験や経済学の知見で戦略企画やマーケティングに役立てる、など自分の背景と半導体業界の要素を結びつける。

具体的な数字やニュースを引用しながら話すと、説得力が増します。

半導体業界は未来をつくる舞台

半導体業界は「難しい」「専門的」と思われがちですが、実は私たちの生活を支える要の存在です。スマホ、EV、AI、IoT、再生可能エネルギー――どれも半導体なしには語れません。

2024年時点では、世界的な需要増、技術革新、地政学的緊張、環境配慮など、課題とチャンスが入り混じるダイナミックな市場になっています。だからこそ、若い人材には活躍の余地が大きく、理系・文系問わずに挑戦できるフィールドが広がっています。

興味を持ったら、ぜひニュースや企業HP、インターンシップを通じて理解を深めてみてください。半導体業界で働くことは、「未来の世界を創る」ことに直結するといっても過言ではありません。


半導体は、目に見えない小さなチップの中に世界を詰め込んだ、夢と可能性のかたまりです。就活で業界選びに迷う方は、ぜひこの半導体の世界を覗いてみてください。
あなたが描くキャリアが、未来を支える基盤づくりにつながるかもしれません。

おすすめの記事

この記事を読んで半導体業界に興味を持った方は、こちらの記事もぜひご覧ください。福岡から世界へ挑戦する日本ファインテック株式会社に、Vamos学生リポーターがインタビューしました。