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インタビュー

“正しい”を貫いて、選ばれ続けた——就活生が惹かれる、シャボン玉石けんの理由

はじめに

「いい会社」って、どんな会社だろう。

働きやすさ? 待遇? 将来性?
企業選びの軸は人それぞれだけど、そこに“理念”という視点を持つ学生は、まだ多くはないのかもしれません。

シャボン玉石けんは、肌にも環境にもやさしい無添加石けん(※)をつくっている会社です。創業100年を超える歴史の中で、どんな価値観を大切にしてきたのか。そして今、どんな人たちがその思いを受け継いでいるのか。

長く続く企業の“芯”に触れてみることで、働くことの意味や、企業を選ぶ視点が少し変わるかもしれません。

 ※香料、着色料、酸化防止剤、合成界面活性剤 不使用

「売上8,000万→78万」——それでも“無添加”に賭けた理由

御社のことを調べていて、「合成洗剤の取り扱いをすべてやめて、無添加石けんに切り替えた」という話に驚きました。大きな決断だったと思うのですが、実際にはどんな経緯があったのでしょうか?

もともと私たちの会社も、合成洗剤を扱っていました。戦後の高度成長期、アメリカから入ってきた合成洗剤が日本でも一気に普及しまして、それにいち早く乗ったのが当社でした。当時は「とにかく安くて便利」なものが求められていた時代ですから、石けんではなく、合成洗剤がどんどん売れていました。実際、売上も大きく伸びて、月に8,000万円ほどの売上がありました。

そんなに売れていた商品を…やめてしまったんですね。

そうなんです。そこに至るきっかけになったのが、父自身の体験でした。父は当時、ひどい湿疹に悩まされていて、薬を塗ってもなかなか良くならなかった。でも、まさか自分の会社で売っている合成洗剤が原因だなんて、最初は思いもしなかったと思います。

たしかに、自分の会社の商品が原因だなんて、想像しづらいです…。

ただある時、あるご縁から「無添加石けん」を試作することになり、その石けんを父が自宅に持ち帰って使ってみると、数日で湿疹が改善しました。最初は「偶然かな」と思ったそうですが、また合成洗剤に戻したら1日で再発してしまったそうです。それでようやく、「原因はこれだったのか」と。

それは衝撃ですよね…でも、そこから全部やめるって、勇気のいる決断だったのではないですか?

そうですね。父は「これはもう、売るわけにはいかない」と腹をくくりました。儲かっていても、環境や体に悪いとわかったものを売ることはできない。そこから合成洗剤の製造・販売をやめて、無添加石けんに切り替えました。

売上への影響は…大きかったですよね?

非常に大きかったです。合成洗剤をやめた翌月には、売上が78万円になりました。8,000万円からですから、ほとんどゼロみたいなものです。社員もどんどん辞めていって、最終的には100人いた社員が5人にまで減ってしまいました。

5人ですか…。でも、それでもやめなかったのは、やっぱり理念を大切にしていたからなんでしょうか?

はい。父にとっては「正しいことをする」が何より大事でした。売れるかどうかよりも、お客様の健康や環境に本当に良いものを届けることが大事だと。もちろん経営的には大きなリスクで、社内でも大反対でしたが、それでも曲げませんでした。その信念が、今のシャボン玉石けんを支えていると思います。

すごいですね…まさに「正しいことを選ぶ」って、簡単なことじゃない。言うのは簡単ですけど、会社の命運がかかっている中で実行するのは、本当に難しいことだと思います。

そうですね。でも、そういう判断があったからこそ、今こうして「理念のある会社」として多くの方に信頼していただけるようになったと思っています。

赤字17年、社員5人——それでも守り抜いた“本当に良いもの”

先ほど、社員が5人になってしまったというお話がありましたが……本当に大変な状況だったんですね。

今でこそ「理念を守った会社」と言ってもらえることもありますが、当時はただただ苦しい時代でした。赤字がずっと続いていて、合成洗剤をやめてから17年間、黒字になりませんでした。

17年も…。普通だったら、どこかで諦めてしまいそうです。

そうですね。実際、社内でも何度も議論になったと思います。「やっぱり合成洗剤に戻そうか」とか、「無添加と合成、両方売ってバランスを取ろう」とか、あるいは「体力のあるうちに会社を畳んだほうがよいのでは」など……そういう選択肢は常にあったはずです。

でも、結局、無添加で続ける道を選んだんですね。

ええ。それでもやめなかった理由の一つは、やっぱりお客様からの声でした。まだ知名度もなかった頃から、少しずつ「使ってみたら肌荒れが良くなりました」とか、「子どもがかゆがって眠れなかったのが、石けんを変えたら落ち着きました」といったお便りをいただいていました。

それは……心が動きますね。

はい。売上は少なくても、そういう方が確実にいらっしゃる。「この石けんしか使えない」という方のために、絶対にこの製品を届け続けなければならない。父は、そういう使命感のようなものに突き動かされていたと思います。

でも、黒字になるきっかけはどうやって生まれたんですか?

大きかったのは、父が書いた1冊の本です。「石けんとは何か」「なぜ合成洗剤が肌や環境に良くないのか」といったことをまとめて、1991年に出版したんです。それが、予想を超えてベストセラーになりまして。

ベストセラー!それはすごいですね。

その本を読んだ全国の方々から「この石けんを使ってみたい」とご注文をいただくようになりました。当時は通販というより、電話やハガキで「取り寄せたい」という感じでしたね。おかげで1992年に、ようやく黒字になることができました。

17年の赤字の末に、ようやく……。本当にすごい物語ですね。

しかも、その本の最後には、全国の無添加石けんを作っている会社の名前と住所、電話番号を一覧で載せていました。いわば、うちの“競合”になるような会社ですよ。

えっ、ライバルの情報まで?どうしてですか?

「シャボン玉石けんが近くにない方も、他の無添加石けんを選んでほしい」と。合成洗剤ではなく、石けんを使ってもらえたら、結果的に“健康な体ときれいな水を守る。”ことに近づく。それがこの書籍の目的でした。

赤字の真っ只中で、そこまで広い視野で考えていたなんて……本当にすごいですね。

あの時代、理念を優先して、利益を犠牲にしてまで踏み切るというのは、正直、並大抵のことではなかったと思います。でも、その選択が、今の会社の礎になったことは間違いないです。

30歳で社長に。「変える」のではなく、「守る」と決めた若きリーダー

お話を聞いていて、本当に“理念を貫く”という姿勢が根底にある会社だと感じました。その中で、社長ご自身は、どのように経営を引き継がれていったんですか?

私は30歳のときに社長に就任しました。無添加石けんに切り替えた父が、私の就任から半年後に急に亡くなったんです。いわば、ポンと社長になったような感じで。若いですし、まだまだ経験も足りない中でのスタートでした。

30歳というと、周囲の方も年上の社員さんが多かったのでは?

ええ、当然そうですね。当時から在籍していた社員の多くが年上でしたし、会社を引っ張ってきた経験者ばかりでしたから。プレッシャーはありましたけれど、なんとか曲がりなりにも会社が回っていったのは、やっぱり理念が全社に浸透していたおかげだと思っています。

理念があることで、方向性がぶれずにすんだということでしょうか?

そうですね。会社として「健康な体ときれいな水を守る。」という軸がしっかり根付いていましたから、仮に船長が変わっても、船全体としての進行方向は変わらなかったというか。ある意味では、それが“ルーツ”としても機能していたと感じています。

なるほど。理念が全社員の共通言語として存在していたんですね。

はい。私自身、「何かを自分の色に変えたい」という気持ちはまったくなかったです。それよりも、「先代が命をかけて守ってきたものをどう受け継いでいくか」の方が重要でした。

実際に社長になられてから、特に意識されたことってありますか?

社長になってまず思ったのは、「赤字の時から支えてくださっていたお客様を裏切るようなものづくりはしちゃいけない」ということでした。でも、それをやっていくには、やっぱり社員の力が必要だと感じました。

なるほど。その考え方が今の社風にもつながっているんですね。

そうですね。父は、5人で会社を回していた当時、さまざまな業務に精通している人でした。でも、30歳の私がそれと同じようにできるかといえば、それはもう無理だなと。

だからこそ、社員が活躍できるような体制をつくっていこうと?

ええ。強力な蒸気機関車が1両で全車両を引っ張るのではなくて、各車両にモーターをつけて、それぞれが自走できるような組織にしたいと思っていました。だから、若手にもどんどん役割を渡していくし、考える余地を残しておくようにしているつもりです。

なるほど。ただ力任せに引っ張るのではなく、一人ひとりが力を発揮できる仕組みにしようとされたんですね。

そうです。そして、各自が自由に動けるからこそ、進む方向を合わせる“軸”が欠かせない。それが理念なんです。理念を守るために、変えていく部分はあります。それが今の時代に必要なことなら、躊躇せずに動きます。ただし、“理念を支えるために何をするか”という優先順位は、どんな場面でも変えないようにしていますね。

1週間かけて、石けんを焚く。釜の前で“舐めて判断”する職人技とは?

石けんって、実際どうやって作っているんですか?1週間かかるって聞いて、びっくりしたんですが……。

はい。うちの石けんは、大きな釜で約1週間かけてじっくり時間をかけて炊き込みます。一般的には4〜5時間あれば作れる中和法という製法もありますが、私たちは昔ながらの釜炊き製法を続けています。

そんなに手間をかける理由は何ですか?

使用感のいい無添加石けんを作るには、やっぱりこの製法じゃないと難しいんです。いろんな方法がありますけど、当社はこれが一番だと信じてやっています。

石けんは、油とアルカリを反応させて作るんですが、油の中にはオレイン酸、リノール酸、ラウリン酸など、いろんな脂肪酸が含まれていて、それと一緒に「グリセリン」という保湿成分が含まれます。肌に優しい石けんができるのです。

そのグリセリンって、しっとりするっていう。

そうです。でも、このグリセリンって反応を進めるには“邪魔”な存在でもあるんです。グリセリンは反応を直接遅らせるわけではありませんが、作業に時間がかかる要因にもなります。でもそれをうまくコントロールして、石けんの中にしっかり残す。これが約1週間かかるケン化法にこだわる理由です。

なるほど…。でも1週間もかけて作るって、毎日どんなふうに管理されているんですか?

季節や天候、原料の状態によっても反応の進み方が変わるので、見た目はもちろん、匂いや音も確認します。原料が沸く音だったり、香りの立ち方だったり。で、最終的には“味見”をして確認をおこないます。

えっ、味見をするんですか!?

はい(笑)。もちろん、ずっとやっているわけじゃないですが、必要なときには味をみて判断します。味そのものを見るというより、「どのくらい反応が進んでいるか」を確認するんです。

なんかすごく感覚的な世界ですね……。

そうですね。料理人が煮込み具合を見ながら味を調整するようなものかもしれません。数値だけじゃない“感覚の積み重ね”で、いい製品ができる。そういう部分が、うちの石けんの品質を支えていると思っています。

シャボン玉は“風通し”もすごかった——月1飲み会で社長と語り合う文化

シャボン玉石けんさんって、社内の雰囲気もすごく良い印象があります。実際に、社員の方とはどんなコミュニケーションを取られているんですか?

うちは結構、飲み会とかも多いですよ。1年かけて、全社員と飲みに行くようにしています。もう15〜16年は続けてますね。

1年で全社員と…!どんな形でですか?

月に1回、10人くらいずつ集めてやってます。1対1じゃないですけど、部署も年齢もバラバラにして。シャッフルでやるので、普段関わりが少ない人とも交流が生まれますし、私自身もいろんな社員と話ができるいい機会になっています。

そういう場では、どんな話をされるんですか?やっぱり仕事の話が中心ですか?

自分からは仕事の話はあまり振らないようにしています。もちろん、相手が聞いてきたら答えますけど、基本的には「どう?」とか「最近なにか困ってることある?」みたいに、会社の空気とか働き方に関する話をすることが多いですね。

社長からも声かけてくれるので、すごく話しやすいです。「最近職場どう?」とか「会社に思うことある?」って聞いてくださって。若手でも自然に話せる雰囲気を作ってくれてます。

それ、めちゃくちゃありがたいですね……。そういう雰囲気、意識してやられてるんですか?

うーん、自然と、ですかね(笑)。でもやっぱり、社員が気持ちよく働いてくれることが大事なので。飲み会のときも、あくまでカジュアルに。仕事以外の話もどんどんしてくれたらいいなと思っています。

この前はMBTI(無料性格診断テスト)の話で盛り上がりましたよね(笑)。

社長もMBTIやるんですか?

え?ああ、やったことはありますよ。みんながやってたんで、「自分もやってみるか」と。

そうそう、去年の交流会のときですね。若手社員が好きで、「社長は何タイプだろう?」って話しかけて、そこからいろんな人のタイプを話し合って盛り上がったんです。

それ、いいですね。そういう雑談が、会社の雰囲気をつくっているんですね。

はい。SNSやショート動画にも社員が登場したりしていますけど、あれも若手社員が中心になって動いてくれてるんです。楽しそうにやってるのを見ると、こちらも嬉しくなりますね。

環境も肌も守る、その先へ——無添加を“世界語”に変える挑戦

シャボン玉石けんさんって、環境や肌に優しいというイメージが強いですが、海外でもそういう価値観って伝わるものなんでしょうか?

はい。現在、海外にも輸出していて、だいたい9〜10カ国くらいになります。主にアジアが中心ですね。中国、韓国、台湾、それからフィリピンは昨年から、ベトナムは今年から本格的に始まりました。

そうなんですね!アジアの国が多いんですね。

そうですね。それ以外にも、アメリカやロシアにも輸出しています。ただ、うちのような無添加石けんって、置いたらすぐ売れるというわけではなくて、「これはこういう成分で、こういうふうに違うんです」という説明が必要なんです。

たしかに、成分の違いってパッと見ただけじゃ分からないですもんね。

そうなんです。どの商品にも「肌に優しい」「環境に良い」と書いてありますよね。でも実際はそうでないものもある。だから、いかに本質を伝えていくかが難しい。成分の意味が分かる人なら見ただけで判断できるけど、そうじゃないことが多いので。

伝えるって、本当に難しいですよね。海外ではどうやって販売しているんですか?

うちは現地パートナーとの連携でやっています。直接売り込むというよりは、マッチングイベントや支援機関を通じて、信頼できる現地の方と組んでいます。必要があれば、こちらから営業同行することもありますよ。

どうして海外展開を始めようと思ったんですか?

もちろん、日本の市場が縮小傾向にあるという背景もありますが、それだけではないです。肌荒れに悩んでいるのは日本人だけじゃないし、「子どもには安全なものを使いたい」と思うのは世界中の親御さん共通だと思っています。

環境問題もそうです。水質や大気の問題って、国境がないじゃないですか。だからこそ、無添加の石けんを使ってもらうことが、少しでも“きれいな水”を守ることにつながると考えています。

なるほど……。理念がしっかりしているからこそ、世界にも広げられるんですね。

はい。「健康な体ときれいな水を守る。」というのは、日本に限った話じゃない。だからこそ、今後もその思いを持って、世界に向けて届けていきたいですね。

おわりに

取材を通して感じたのは、「正しいことを続ける」ことの難しさと強さでした。

売れていた合成洗剤をやめ、無添加石けんに絞るという決断。その結果、売上が激減し、社員が5人にまで減った時期もあったそうです。それでも、理念を曲げることなく続けてきたというお話には、強い意志と覚悟を感じました。

また、それを受け継いだ現社長が、「変える」のではなく「守る」ことを大切にされているという姿勢にも、会社としての一貫性を感じました。社員との距離の近さや、手間のかかる製法をあえて守り続けていること、SNSを若手が自由に動かしていることなど、すべてが“人を信じる”姿勢に裏打ちされているように思えました。

石けんという一見シンプルなものの裏に、ここまで深い哲学があることは、取材をしなければきっと気づけなかったと思います。

「理念で選ぶ就職」という言葉が、少しだけ現実味を帯びた気がしました。

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