「製鉄所の中にある会社」と聞いて、どんな仕事を想像しますか?実はそこに、世界でも類を見ない独自技術を持つリサイクル企業があるのです。
福岡県北九州市に本社を構える光和精鉱は、製鉄所のダストと産業廃棄物を処理して再資源化し、資源循環の最前線を走り続けてきました。
今回は、光和精鉱の役員としてキャリアを歩む有働さんと、若手社員の宮﨑さんに、仕事のやりがいや会社の特徴、そして就活生へのメッセージまで、じっくりと語っていただきました。
製鉄所のゲートをくぐった先で出会った“想像を超える世界”とは?
「ここって何をしている会社?」意外すぎる企業の正体とは?
そもそもなんですけど……製鉄所の中にこんなにたくさん会社があるって、ちょっとびっくりしました。光和精鉱さんは、どれくらいの広さなんですか?
そうですよね。学生さんからよく驚かれます。実はここ、日本製鉄の八幡製鉄所の敷地の一角をお借りしていて、光和精鉱が使っているのは約10万平米です。
10万平米……!ちょっと想像つかないですね。会社説明会で話を聞くのと、実際に来てみるのでは、やっぱり全然印象が違います。
そうですね。私も学生時代に初めて来たときは、スケールの大きさに驚きました。でも、それ以上に「何をしている会社なんだろう?」っていうのが、最初は全然わからなかったです。
確かに、普通に生活していたら関わることってほとんどないですよね。
そうなんです。私たちはBtoBの企業なので、一般の方に名前が知られていなくても不思議じゃないと思います。ただ、実はすごく身近な「環境」や「資源」に関わっている仕事をしているんですよ。
簡単に言うと、製鉄所のダストと産業廃棄物をリサイクルして、再び価値のある原料として生まれ変わらせるのが光和精鉱の仕事です。
産業廃棄物……って、たとえばどういうものですか?
事業活動の中で出る廃棄物のことを指すんですが、私たちはその中でも18種類を処理できる許可を持っています。たとえば、工場で使い終わった薬品や金属くず、焼却灰などですね。
えっ、それってただ処理するだけじゃなくて、再利用もするんですか?
そこが私たちのポイントですね。「製鉄ダストと廃棄物を処分する」だけで終わらせずに、それを鉄原料などの再生資源にリサイクルしています。製鉄所の敷地内にあるのも、その流れが直接つながっているからなんです。
なるほど……じゃあ、光和精鉱って環境を守る仕事でもあるんですね。
まさにそうです。「廃棄物を、いかに価値ある形に変えて社会に役立てるか」。そこに私たちの社会的な意義があると思っています。
今日、ここに来るまで全然知らなかったですけど、話を聞いてるとすごく面白い仕事だなって思えてきました。
嬉しいですね。なかなか学生さんに馴染みのない業界だからこそ、こうやって直接お話できる機会って大切だと思っています。
「塩素」と「ダスト」で鉄を生み出す⁉ 驚きのリサイクル技術の裏側
さっき“鉄の原料にリサイクルしてる”ってお話があったと思うんですけど、具体的にどうやってるんですか?鉄を作るって、すごいスケールの話ですよね…。
そうですね。実際、うちでは製鉄所から出る「ダスト」っていう鉄を溶かす工程で発生する粉塵のようなものをリサイクルして、再び鉄の原料にしています。
ダストって、ただのゴミじゃなくて、鉄がまだ含まれてるんですね。
そうなんです。そこに私たちの技術が活きてくるんですよ。光和精鉱では「塩化揮発法」っていう独自の技術を使って、このダストの中に含まれる有価金属を分離・回収して、鉄分は鉄原料に再生してるんです。
……塩化揮発法?
名前だけ聞くと難しそうに聞こえるんですけど、ざっくり言うと「塩素と反応させて、分離させたい金属だけ気体にして分ける」っていう技術です。
金属を気体にするんですか!?
そう(笑)。もちろん高温での処理になりますけど、塩素と化学反応させて揮発させることで、鉄と亜鉛や鉛なんかを分けるんです。本来は鉱石からこういった金属を取り出しますが、今は廃棄物からも資源を回収できる。まさに現代版の採鉱ですね。
でも、それって他の会社でもやってるんじゃないですか?
実は、うちの塩化揮発法の技術って、他社にはあまりマネできないんです。たとえば、塩素を含んだ廃棄物って設備を痛めるので、処理できる会社自体が少ないんですよ。
うちは塩素濃度60〜70%のものも処理できます。これは、業界でもかなり高い水準です。他社さんは3〜4%くらいが限界というところが多いですね。
えっ、それ20倍くらい違うってことですよね!? すごい…。
ありがとうございます。処理できる廃棄物の幅が広いので、お客様から「他では断られたけど光和精鉱なら」とご紹介いただくことも多いです。
どうしてそんな技術を持てたんですか?
実は64年前に、鉱山からの不要物を使って硫酸や鉄原料を作っていました。64年前に、リサイクルのために会社を作ったんです。その時の技術を、産業廃棄物の処理に応用していったんですよ。昔の技術が今のリサイクルに活かされてるというか、歴史の蓄積が大きいですね。
その発想がすごいですね。普通、捨てられるものから新しく鉄を作るって、誰でも思いつくことじゃないですよね…。
だからこそ、私たちは“処理する”だけじゃなく“資源に変える”ことにこだわってるんです。これが、光和精鉱のものづくりのスタイルですね。

“現場仕事”のイメージが変わる。光和精鉱が本気で取り組む“働きやすさ”
今日来てみて思ったんですけど、もっと“ゴツい”職場を想像してました。暑そうで、体力勝負で…みたいな。
正直、働きやすい環境ってあまり想像してなかったかも…。
よく言われます(笑)。でも実は、うちはかなり“働きやすさ”に力を入れてるんです。最近では健康経営優良法人の認定も受けました。
健康経営優良法人?それって何ですか?
社員の健康に配慮した取り組みをしっかり行っている企業に対して、国が認定を出す制度なんです。健康診断や産業医との連携はもちろんですが、食生活の改善や、メンタルケアの仕組みまで整えています。
へえ!でも、現場の作業ってやっぱり体力的にきついイメージが…。
たしかに体を使う仕事はあります。ただ、昔に比べて機械化が進んでいるので、重労働を軽減する設備投資もどんどんしています。
それ、ありがたいかも(笑)。
あと、旅行手当もあります。社員3人以上で旅行に行ったら補助が出る制度なんです。最近は、旅行じゃなくて食事会にも使えるようになって、使いやすさもアップしました。
めっちゃいいですね。社員同士の交流にもなりそう。
それが狙いです。心身ともに健康で、いい人間関係が築けてこそ、安全で質の高い仕事ができる。うちの会社は、会社全体で“ウェルビーイング”を支える仕組みを作ってるんですよ。
ウェルビーイングって言葉、最近よく聞きますよね。
そう。意味としては「心も体も社会的にも満たされている状態」ということなんですが、うちでは「働いている人もその家族も幸せであること」だと捉えています。だから、休みもしっかり取ってもらう。
有給の取得率は9割超えてます。私は普通に旅行で使ってます(笑)。
えっ、9割?本当にみんな取ってるんですね。
はい。むしろ「ちゃんと取ってね」と上司に言われるくらいです(笑)。
こういう製造の現場ってもっと堅い職場かと思ってたけど……全然イメージ変わりました。
ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです。
働く人の“生活”を大事にできない会社に、いい仕事はできませんからね。
転職・異業種からでも活躍できる!キャリアの可能性と成長環境
有働さんって、もともとは別の会社で働いてらっしゃったんですよね?
そうなんです。実は私は、新卒では東京の大手オーディオメーカーに入社して経理をやっていました。
えっ、オーディオメーカー?まったく違う業界ですよね。
全然違いましたね(笑)。でも地元が北九州で、父が早くに亡くなったこともあり、母を支えるためにUターンして、当時の八幡製鉄所、いまの日本製鉄に転職したんです。
すごい決断ですね……。製鉄に関する知識とか、最初は全然なかったんじゃないですか?
全くなかったです。経理として入ったので、最初は「数字を見てればいい」と思ってたんですが、実際は工場のことを理解しないと話にならなくて(笑)。そこから少しずつ興味を持って学び始めました。
じゃあ、製造の現場にも行ってみたり?
はい、現場に足を運んで、実際にどう動いてるか見たり、作業してる人に話を聞いたりしてました。それがすごく面白くて。やっぱり、経理の数字って“現場のリアル”とつながってるんですよね。
異業種からでも、ちゃんと知識を深めていける環境なんですね。
そうです。光和精鉱には、私のように製鉄グループから来た人もいれば、最初からこの会社で育った人もいますし、多様な経歴の人がいます。でも共通しているのは「知ろうとする姿勢」と「やってみようとする意欲」ですね。
たとえば、文系の人でも活躍できるチャンスってありますか?
私も文系出身ですよ!専門的なことは入ってから学べばいいですし、特に総務や人事、営業なんかは、むしろコミュニケーション力や柔軟な発想が求められる場面が多いと思います。
現場の技術職でも、最初からすごい知識を持ってる人なんて少ないです。工業高校や理系の学生さんでも、入社してから数年かけてじっくり育てていきます。
じゃあ、今知識がなくても“興味を持つこと”がスタートラインになるんですね。
まさにそうです。興味を持って、少しずつでも知ろうとすれば、どんどん面白くなってきますし、自分の中に軸ができてきます。
有働さんのキャリアって、転職を重ねながら広がっていったんですね。
そうですね。私はこれまでに複数の会社で経験を積みましたが、どこでも「まずやってみる」が自分の成長につながってきたと思っています。環境が変わるたびに新しい視点が得られたし、それが今の自分を支えてくれていると感じます。

「失敗」から学んだ、後輩への接し方とマネジメントの本質
有働さんって、いろんな仕事を経験されてきたと思うんですけど、「あの時、これは失敗だったな」って感じたことってありますか?
ありますよ。いま振り返ると、結構大きな反省として残っている出来事があります。
どんなことがあったんですか?
以前、グループ会社に出向していた時のことなんですが、「3年間で立て直してくれ」というミッションを背負って行ったんですね。もう、とにかく必死でした。でも、その分、自分に余裕がなくなってしまって。
周りが見えなくなってしまった、みたいな…?
そう。一緒に働いていた若い部下に対して、すごく厳しく接してしまったんです。仕事だけじゃなくて、家庭の事情もあって大変だったようなんですが、それに気づいてあげられなかった。結果的に、彼は一時的にメンタルを崩してしまって。
それは……有働さん自身も、すごく苦しかったんじゃないですか?
はい。当時は気づけなかったけど、あとから「自分にも余裕がなかったな」と思いました。そこからは、人を指導する時はまず“自分が落ち着いているか”を確認するようになりました。
つい感情的になってしまうこと、ありますよね…。
人って、余裕がない時にきつい言い方をしてしまいがちです。だから、何かを伝えるときは、相手の状態も、自分の状態も冷静に見ることが大切だと実感しました。
部下のプライベートにも気を配るって、なかなかできることじゃないですよね。
でも、実際プライベートでうまくいってないと、仕事にも影響するんですよね。人ってそんなに分けられるものじゃないから。
私も、直属の上司がちゃんと話を聞いてくれる人で助かってます。何かあった時に相談できる雰囲気って、すごくありがたいです。
そんな先輩がいてくれるって心強いですよね。
そうですね。やっぱり自分がしてもらって嬉しかったことって、自然と自分もやりたいって思うようになりますよね。
うん。マネジメントって、結局「人とどう向き合うか」なんですよ。技術や制度だけじゃなくて、その人の気持ちや背景をちゃんと理解する姿勢がないと、信頼は得られない。今もそれを忘れないようにしています。
厳しくするだけじゃなくて、ちゃんと向き合うことが大事なんですね。
そう。厳しくするのは簡単。でも、一緒に考え、寄り添いながら伸ばしていく。それが一番難しくて、一番やりがいのあるところだと思っています。
人生を豊かにする働き方―趣味や人間関係が仕事にも活きる
さっきの話を聞いてて思ったんですけど、有働さんってめちゃくちゃ真面目な印象です。でも、オフの時間とかってどう過ごしてるんですか?
真面目ってよく言われます(笑)。でも、ちゃんと遊んでますよ。最近ハマってるのはスキューバダイビングです。年に2〜3回、沖縄まで潜りに行ってます。
スキューバダイビング!意外です…!沖縄の海って、やっぱり他の海と比べても綺麗なんですか?
全然違いますよ。北九州の海もいいけど、沖縄は別世界。サンゴ礁の上を泳ぐと、まるで宇宙にいるみたいで。現実からスッと切り離されたような時間ですね。
いいですね……そういう趣味って、やっぱり仕事にもいい影響ありますか?
ありますよ。リフレッシュできるのはもちろんだけど、趣味があると人との会話のきっかけにもなるし、考え方にも柔らかさが出る気がします。
たしかに。スキューバダイビングって特に印象に残りやすいですよね(笑)。
そう、それも狙いです(笑)。人に覚えてもらうには、仕事の話だけじゃなくて、「その人自身の話」がある方がいいと思うんですよね。
学生時代って時間だけはあるんですよね。でも、どう過ごせばいいのかよくわからなくて…。
私が言えるとしたら、「今しかできないことを、全力でやる」ってことですね。旅行でも、友達との時間でも、ちょっとしたチャレンジでもいい。あとになってから、その経験が効いてくることって、本当に多いんですよ。
たとえば、どんな経験が印象に残ってますか?
私は大学時代に簿記の資格を取るためにずっと勉強してたんですけど、振り返ると「もっといろんな人と関わっておけばよかったな」と思います。だから、ぜひ人とのつながりを大事にしてほしいですね。社会人になってからも、そのネットワークって財産になりますから。
なるほど。じゃあ、“今の時間をどう使うか”が大事なんですね。
そう。無駄なことなんて一つもないですよ。いろんなことに興味を持って、思い切って飛び込んでみてください。そうすれば、自分の「軸」が自然にできてくると思います。
今日は本当にありがとうございました!廃棄物から鉄を生み出す技術や、それを支える働き方の工夫を知って、ものづくりや環境の見え方が変わった気がします。
こちらこそ、ありがとうございました。私たちの仕事は、資源や環境、そして人の暮らしを支える根っこの部分。そこに興味を持ってもらえたなら、それが一番嬉しいことですね。
一見すると縁遠く感じるかもしれない産業廃棄物処理の世界。しかし、光和精鉱の取り組みを通じて見えてきたのは、限られた資源を無駄なく活かし、次の世代へつなぐ「未来志向のものづくり」でした。 最前線で活躍する有働さんの言葉からは、技術だけでなく「人を大切にする姿勢」や「働きがいを育てる職場づくり」への本気度も伝わってきます。 就職活動を通じて、自分にとっての「やりがい」や「誇れる仕事とは何か」を考える上で、きっとヒントになるはずです。