「工場の横にある大きなタンク、見たことあるよね。」
「薄緑の丸い巨大タンクはガスでしょ?」
取材が始まる前、学生同士でそんな話になりました。
高速道路を走っているときや工場地帯で見かける、巨大なタンクたち。
「中には何が入っているんだろう?」
「誰が造っているんだろう?」
考えたことはあっても、その答えを知っている人はほとんどいません。
今回訪れたのは、創業105年を迎えた株式会社しろみず。
巨大な球形タンクや円筒形タンク、超低温タンクなど、日本でも数社しか造ることのできない大型タンクを手掛ける会社です。水素や液化天然ガス、アンモニア、液化二酸化炭素――。
これからの日本のエネルギーを支える技術の最前線に、この会社のものづくりがありました。

そもそも、株式会社しろみずは何を造っている会社?
株式会社しろみずがどのような会社なのか教えてください。
当社は1921年、大正10年に創業した産業用タンクメーカーです。2026年4月に創業105年を迎えました。
「産業用タンク」と言っても、少しイメージしにくいですよね。身近なものでいえば、都市高速道路や工場地帯から見える、大きな丸いガスタンクがあります。あのような球形タンクや、発電所で使用する水のタンク、石油や液化天然ガスを貯蔵するタンクなどを造っています。
私たちが道路から見ているような、本当に大きなタンクを造っているんですね。
そうです。自衛隊で使用される燃料用の地下タンクも手掛けています。戦闘機や艦船を動かすためには燃料が必要なので、それを安全に貯蔵する設備が欠かせません。
そんな場所にも、しろみずの技術が使われているんですね。
日本は、石油や天然ガスなどのエネルギー資源の多くを海外から輸入しています。海外から持ってきた燃料を使うには、国内で安全に貯めておく場所が必要です。衣食住はなくならないと言われますが、エネルギーもなくなりません。私たちは非常に専門性の高い業界にいますが、日本において、なくなることのない仕事だと思っています。
タンクによって、形も造り方もまったく違う
タンクは、貯めるものによって形が変わるんですか?
変わりますよ。気体なのか液体なのか、冷やす必要があるのか、圧力をかけるのかによって、構造や材質、形状が変わります。例えば、液化天然ガスを貯めるタンクは、非常に低い温度を保たなければいけません。そのため、タンクを二重構造にして、外側と内側の間に保冷材を入れます。
縦長のタンクの場合は、薬のカプセルを縦にして、大きな容器の中に入れたような構造をしています。外から見えているタンクの中に、もう一つタンクが入っているんですね。
そうです。当社は日鉄エンジニアリングさんと一緒に、国内最大級となる5000キロリットル規模の縦型タンクも手掛けました。また、半導体工場では液化窒素が大量に必要です。熊本の半導体工場の建設でも、当社が液化窒素用のタンクを納めています。
半導体とタンクがつながるとは思っていませんでした。
半導体そのものを造っているわけではありませんが、工場を動かすために必要な設備を造っています。表には見えにくいですが、さまざまな産業を支えている仕事です。発電所にも、必ず水を貯めるタンクがあります。発電設備は熱を持つため、冷却するための水が必要です。一つの発電所に、用途の異なる水タンクを4基、5基と造ることもあります。
タンクと聞くと、ただ何かを入れる容器だと思っていました。最近よく聞く、脱炭素やカーボンニュートラルにも、タンクは関係しているんですか?
大きく関係しています。例えば、工場などから出る二酸化炭素を回収して地下に貯める計画があります。その途中で、液体にした二酸化炭素を一時的に保管するため、大型タンクが必要になります。
二酸化炭素を減らすためにも、タンクが使われるんですね。
そうです。ほかにも、水素やアンモニアといった次世代エネルギーを貯めるタンクの計画も進んでいます。ただ、大型タンクを造れる会社や技術者は全国でも限られています。材料を正確に加工し、高い品質で溶接する専門的な技術が必要だからです。
これから仕事が減る業界ではなく、造る側が足りていないんですね。
そうですね。エネルギーの種類が変わっても、安全に貯めるタンクは必要です。私たちは北九州にある会社ですが、日本のこれからのエネルギーを支える仕事をしています。

板を曲げる。その一つの工程にも、職人の技術がある
そもそもあんな巨大な丸いタンクはどのようにして造るんですか?
最初は平らな鉄板です。その鉄板を切断し、プレス機やベンディングロールを使って曲げていきます。当社には、3000トンの力をかけられる大型プレス機があります。これほど大きなプレス機を持つ工場は、全国でも多くありません。タンクの曲面に合わせた金型を造り、鉄板を少しずつ押して形を整えていきます。
型に合わせて押せば、同じ形になるわけではないんですか?
そこが難しいところです。鉄板は、材質や厚さによって曲がり方が違います。押した直後は形が合っていても、力を抜くと少し戻る「スプリングバック」という現象もあります。設計どおりに押すだけでは、現地で組み立てたときに部材がきれいにつながらないことがあります。そのため、材料の性質を考えて、どの順番で、どれくらいの力をかけるのかを調整します。
全部同じ鉄板に見えても、一枚ずつ違うんですね。
同じ材質でも、その日の気温や状態によって変わることがあります。当社で造った部材は、現地で組み立てる人たちから「きれいに合う」と評価していただいています。溶接する部分の隙間が均等にそろうので、仕上がりもきれいになります。
私は現場監督をしていたので、さまざまな会社の部材を見てきました。その中でも、当社の部材が悪いと言われたことはほとんどありません。それは自信を持って伝えられる強みですね。
巨大タンクは、現地で200枚以上の部材を組み立てる
あれほど大きなタンクを、どうやって現地まで運ぶんですか?
完成したタンクを、そのまま道路で運ぶことはできません。道路を走れる大きさに分割して、トレーラーで運びます。道路には幅や高さの制限があります。基本的には、横幅が3メートルを超えないように部材を造ります。
現地で組み立てるんですね。
そうです。大きなタンクでは、一基につき200枚以上の部材になることもあります。例えば球形タンクの場合、最初にタンクを支える柱を立てます。その柱に、工場で曲げた鉄板を一枚ずつ取り付けていきます。
柱の付いた板を取り付け、その間に柱のない板を入れる。それを繰り返して一周させます。帯状になったら、その上下にも部材を組み、最後に一つの球体にしていきます。
完成した姿からは、200枚以上に分かれていたとは想像できません。
きれいに溶接して塗装すると、どこで分かれていたのか分からなくなりますよ。
注文から設計、製作、設置まで一社で行う
株式会社しろみずの一番の強みは、どのようなところですか?
タンクの計画から現地での据え付けまで、一社で対応できることですね。当社では、「信頼の創造」という言葉を企業理念として大切にしています。素早く返事をして、お客様の要望に応え、「しろみずに任せておけば大丈夫」と思っていただく。お客様にとって欠かせない存在になることが、105年間続いてきた理由の一つだと思っています。
技術力だけでなく、長い時間をかけて築いてきた信頼があるんですね。
ニッチな業界だからこそ、「昔からここがやっている」「ここなら安心して任せられる」という信頼が大きいと思います。もちろん、歴史があるだけでは仕事は続きません。その信頼を次の世代に引き継いでいくことが、私たちの役割です。

完成した瞬間、地図に残る仕事になる
社長は、もともと現場監督をされていたんですよね。仕事のやりがいは、どのようなところにありましたか?
設計図だったものを、工場で造った部材を一枚ずつ溶接し、巨大なタンクとして完成させる。その瞬間は、やはり圧巻ですよね。
大型タンクは、一基を造るのに1年近くかかることもあります。私が若い頃は今ほど休日が整っていなかったので、正直に言うと、途中で「帰りたい」「辞めたい」と思うこともありました。でも、最後に足場がすべて外されて、完成した巨大なタンクが姿を現すと、やっぱり感激するんです。それを見ると、「また次もやりたい」と思ってしまう。
確かにあんな大きなタンクが完成した時は感動しますよね!
そうですね。しかも、一度造ったタンクは、定期的に検査や補修をしながら40年、50年と使われていきます。地図や航空写真を見ると、丸いタンクがはっきり映っていて。自分が造ったものが地図に残り、長い間社会で使われ続ける。大変な仕事ですが、それ以上に面白さがありました。
自分の仕事を、何十年後も見ることができるんですね。
そうですね。今は現場を離れていますが、受注した現場には社員の慰労も兼ねて見に行きます。現場に行くと、いまだにテンションが上がりますよ。
偶然入った会社で社長になるまで
社長が株式会社しろみずに入社したきっかけは何だったんですか?
正直に言うと、大学生活は遊ぶことを優先していました。大学4年生になり、同じクラスの友人から「就職が決まった」と聞いて、「みんな、もう動いているんだ」と焦ったんです。地元の北九州でものづくりをしている会社を探し、最初に見つけたのが当社でした。工場を見学して、「北九州に、こんなに巨大なものを造る会社があるんだ。面白そうだな」と思い、その場で選考を受けることを決めました。
最初からタンク業界を目指していたわけではなかったんですね。
まったく知りませんでした。北九州にタンクメーカーがあることすら知らなかったです。
そのとき、将来社長になるとは考えていましたか?
まさかまさか!考えるわけがないですよ(笑)。当時はオーナー企業でしたし、自分が社長になる可能性があるとは一度も思っていませんでした。その後、現場監督を経験し、営業に移り、東京支店でも働きました。2025年に、社員として入社した人間では初めて社長を引き継ぎました。
社長になると聞いたときは、どのような気持ちでしたか?
かなりプレッシャーを感じましたね。社員は約100人ですが、その家族まで考えると、何百人もの生活に関わります。「会社を潰すわけにはいかない」と考えると、眠れなくなることもありました。でも、あるときから気持ちを切り替えました。会社を次の世代に残すために、若い人を採用して育てる。どうせやるなら、自分も社員も楽しく働ける会社にしようと。社員に「楽しく仕事をしよう」と言うなら、まず自分が楽しまないといけません。今は、できることを全部やってみようと思っています。
年間休日121日。老舗企業が次々と始めた新しい挑戦
社長になってから、会社をどのように変えているんですか?
採用のための発信や、働きやすい環境づくりを進めています。学生が会社を探すとき、「年間休日120日以上」で検索することが多いと聞きました。当社は以前、年間休日が115日だったので、まず120日に増やそうと考えました。ただ、他社と同じでは面白くないので、現在は年間休日121日にしています。
1日多くしたんですね。
そうです(笑)。また、奨学金の返済支援制度も始めました。対象となる社員には、毎月2万円を最長10年間、会社が支援します。採用活動ではInstagramやTikTokも始めました。若い社員から「学生はTikTokを見ます」と言われたので、「それならやってみよう」と。他にも社内マスコットを作ったり、作業着でポロシャツを作って支給したりしています。
105年の歴史がある会社ですが、かなり新しいことに挑戦しているんですね。
老舗だからこそ、変えないものと変えるものを分けなければいけません。「信頼の創造」という考え方は変えません。一方で、採用方法や働き方、会社の見せ方は時代に合わせて変えていきます。良いと聞いたことは、まずやってみる。今は、そのくらいの気持ちで進めています。

文系でも、女性でも。興味があれば挑戦できる
大型タンクを造る会社と聞くと、工学部など理系出身者が多いイメージがあります。文系でも働けますか?
もちろん働けますよ。仕事の内容に工学の知識が生きる場面はありますが、文系出身の社員もいます。管理部門だけでなく、工場や現場に関わる部署で活躍している人もいます。数字を見ることを極端に嫌いでなければ、大丈夫です。今は計算を助けてくれる道具もありますし、必要な知識や法規は入社後に学べます。
入社前に資格を取っておく必要もないんですか?
ありません。面接で「入社までに勉強しておくことはありますか」と聞かれることがありますが、私は「残りの学生生活を楽しんでください」と答えています。仕事で必要な資格は、入社後に会社が支援して取得してもらいます。最初から知識をすべて持っていなければ仕事ができない会社ではありませんよ。
一人前になるまで10年。それでも若い人を採用する理由
仕事の依頼が多いのであれば、採用人数を増やせば、もっと多くのタンクを造れるのでしょうか?
単純には増やせない難しさがあります。大型タンクの現場を一人で管理できるようになるには、資格と経験の両方が必要です。一級施工管理技士などの資格を受験するにも、一定の実務経験が必要になります。早い人でも、一つの現場を任せられるまで7年から10年ほどかかります。
かなり長いですね。
タンクにはたくさんの種類があります。一基を造るのに1年近くかかるため、すべての種類を経験しようとすると、10年でも足りないかもしれません。現在、当社が同じ時期に動かせる現場は、およそ4から5か所です。現場を管理できる人が全員出てしまうと、それ以上の仕事は受けられません。だからこそ、今すぐ仕事を増やすためだけではなく、10年後、20年後を考えて若い人を採用し、育てなければいけません。
長い時間をかけて技術を引き継ぐ仕事なんですね。
そうです。ただ、昔のように「仕事は見て盗め」という時代ではありません。工場では、先輩社員のもとで実際の仕事をしながら覚えるOJTが中心です。最初は補助作業から始め、機械の使い方や材料の特徴、加工の順番を少しずつ覚えていきます。溶接は人気がありますが、技術には向き不向きもあります。本人の希望や適性を見ながら配属を考えます。長い時間はかかりますが、身に付けた技術は簡単にはなくなりません。自分にしかできない仕事を持てることは、大きな強みになると思います。
若い人には、老舗企業を変える視点を持ってほしい
若い世代に期待していることはありますか?
新しいことに気づく力ですね。私も入社した頃は、「タンクの造り方は昔から決まっているから、新しく変えることはない」と思っていました。でも、実際には現場ごとに条件が違います。新しい機械を使ったり、作業方法を変えたりすることで、安全性や効率を高められることがあります。長く働いていると、「今までこのやり方でうまくいっていたから」と考えてしまいがちです。でも、昔と今では、技術も働き方も変わっています。その違いに敏感なのは、若い人だと思います。
若い人が意見を言っても大丈夫ですか?
むしろどんどん言ってほしいですね。昔から守ってきた技術はベテランから学びながら、「なぜ今も同じやり方なのか」「もっと良い方法はないのか」と考えてほしいと思っています。
就活生へ。入社前にできなくても、当たり前
私たちもこれから就職します。仕事のプレッシャーや壁にぶつかったとき、どのように乗り越えればいいでしょうか?
仕事を始めれば、プレッシャーもありますし、いろいろな壁にぶつかります。でも、先輩たちも同じ壁を乗り越えてきています。だから、きっと乗り越えられます。入社したばかりの人は、何も知らなくて当たり前です。その中で、まず大切にしてほしいのは、特別な能力ではなく、基本的なことです。相手の目を見て挨拶する。大きな声で返事をする。時間を守る。嘘をつかない。学校の先生や家族から小さい頃に教わったことが、社会に出てからも大切になります。
専門知識よりも、まず基本なんですね。
そうです。そして、先輩から「教えてあげたい」と思ってもらえる人になってほしいですね。見た目の話ではなく、「可愛げ」がある人です。分からないことを分からないと言える。教えてもらったら素直にお礼を言う。失敗したときに嘘をつかない。「分かりません。教えてください」と来てくれれば、先輩も教えたくなります。媚びる必要はありません。基本的なことをきちんと守り、素直に人と向き合えば、困ったときには周りが助けてくれると思います。
ありがとうございます!全く未知の世界の話もたくさん聞けてすごく面白かったです!
一枚の鉄板から造られ、長い年月にわたって社会を支え続ける巨大タンク。
取材を通して見えてきたのは、高度な技術だけではありません。
105年受け継がれてきた信頼と、これからの時代に合わせて変わろうとする姿勢でした。
そして社長が就活生に伝えたのは、入社前から何でもできる必要はないということ。
「分からないことは、素直に聞けばいい」
「若い人には、新しい視点を持ってきてほしい」
巨大なタンクを見かけたとき、その向こうで北九州のものづくりを支える人たちがいることを、少し思い出してみてください。