黒い機体に、左右非対称のデザイン。
空港でひときわ目を引くスターフライヤーの飛行機は、北九州を代表する航空会社として多くの人に知られています。
でも、その一機が北九州空港から飛び立つまでには、表からは見えない大きな挑戦がありました。
今回、学生3名が取材したのは、スターフライヤーの創業期から財務・経理の立場で会社を支え、就航に向けた資金集めに尽力された取締役の湯浅さんです。
まだ飛行機がない。
本当に飛ぶかも分からない。
それでも、北九州の空に新しい航空会社の飛行機を飛ばそうとした人たちは、何を信じ、どう動いてきたのでしょうか。

資本金3億円から約80億円へ。就航までに必要だった“信頼”の積み重ね
スターフライヤーは、今では北九州を代表する航空会社ですよね!一番利用している航空会社です!
ありがとうございます。でも創業当初から、決して簡単な道のりではなかったんですよ。航空会社をつくるということは、まず飛行機を飛ばせる状態にしなければなりません。そのためには、機材の準備、運航体制の整備、国の検査や許認可など、本当に多くの準備が必要です。
創業した時には飛行機を飛ばせる状態なのかと思ってました。
いえいえ!飛行機がない状態からのスタートだったんですよ。私が入社した当時の資本金は約3億円。そこから就航に向けて、リースで機体を3機用意する必要がありました。ただ、飛行機だけあれば飛べるわけではありません。整備士や空港で働くスタッフ、整備に必要な部品、運航を支える体制づくりなど、本当にたくさんの準備が必要でした。実際に飛行機を飛ばすための資金を集めていくことが、私たち財務・経理部門の大きな役割でした。そして2006年3月の就航までに、資本金、金融機関からの借入金や自治体からの支援を合わせて、約80億円規模まで増やしていきました。
3億円から80億円ですか……。すごい金額ですね。
航空会社を立ち上げるには、それだけの資金が必要でした。TOTOさん、安川電機さん、第一交通さん、山口銀行(現在の北九州銀行)さん、など、地元を代表する企業や金融機関にご協力いただきました。また、福岡県と北九州市からも合わせて約18億円の支援をいただきました。
地元全体で支えていたような感じだったんですね。
そうですね。スターフライヤーは、会社だけでなく、地域の期待も背負っていたと思います。新しい北九州空港ができる。その空港から、北九州の航空会社が飛ぶ。その実現に向けて、多くの方が力を貸してくださいました。
でも、まだ飛行機が飛んでいない段階で出資してもらうのは、かなり大変だったのではないですか?
そこが一番難しいところでした。まだ飛行機がない。運航実績もない。本当に飛ぶのか分からない。そういう段階で「出資してください」とお願いするわけですから、簡単ではありませんでした。
確かに、応援したい気持ちはあっても、判断する側も勇気がいりますよね。
おっしゃる通りです。最初に地元のTOTOさんなど、大きな企業が協力してくださったことは非常に大きかったです。ただ、その後もすぐに順調に広がったわけではありませんでした。やはり、形が見えないものに資金を出していただくには、何度も説明し、信頼していただくしかありませんでした。なかなか思うように出資が集まらないという頃に大きく動くきっかけとなったのは、日産自動車さんのご協力でした。
日産自動車さんですか?
そうなんです。日産自動車さんが出資してくださることをきっかけに横のつながりから出資いただく輪が広がりました。
一社が動くことで、「それならうちも」と広がっていくんですね。
そうですね。資金集めというと、数字の話に聞こえるかもしれませんが、実際には信頼の積み重ねです。この人たちは本気で飛ばそうとしているのか。この会社は本当に実現できるのか。そこを信じてもらうことが何より重要でした。

絶対に遅らせられない、2006年3月16日
2006年3月16日の就航日に合わせて資金集めから飛行機の準備を進めるのは大変だったのではないですか?
本当に大変でしたね!!(笑)北九州空港の開港に合わせて飛ぶ。その日程は、非常に大きな意味を持っていました。だからこそ、資金集めも、機体の準備も、運航体制の整備も、国の定める検査や手続きも、すべて間に合わせる必要がありました。
今聞いているだけでも大変そうです……。当時の社内はどんな雰囲気だったんですか?
今の感覚で言えば、かなり厳しい働き方だったと思います。定時で帰る人はほとんどいませんでした。みんなが「3月16日に飛ばす」という一つの目標に向かって、必死で動いていました。
まさに創業期という感じですね。
そうですね。もちろん大変でしたが、全員が同じ方向を見ていたと思います。自分たちがやらなければ、この飛行機は飛ばない。そういう緊張感がありました。
「軍用機に見える」と言われても、黒を貫いた理由
スターフライヤーといえば、やっぱり黒い機体のイメージが強いです。目立つしかっこいいですよね!最初から黒にしようと決まっていたんですか?
実は最初は違うデザインだったんですよ。でも就航に向けて準備している段階で、黒いデザインに変わりました。機体は、スターフライヤーらしさを表す大きな要素です。航空機は白を基調としたデザインが多いので、黒は当時かなり珍しかったと思います。
確かに、空港でもすぐに分かります。
ただ、最初は反対の声もありました。「軍用機に見えるのではないか」「国によっては縁起が悪いカラーではないか」と言われることもありました。
そんな声もあったんですね。
でも、黒だからこそ覚えてもらえる。唯一無二の存在になれる。そういう考えがありました。飛行機をつくるエアバス社も「本当に黒でいいんですか?」と驚いていたらしいです。
それぐらい珍しいカラーなんですね!デザインも左右非対称ですよね?
そうですね。左右非対称で、白と黒のコントラストにも意味があります。日中と夜、光と影のようなイメージもありますし、見る角度によって印象が変わる。そうしたデザインも、スターフライヤーの個性につながっていて、「非常識を常識にする」という考え方もあったと思います。航空会社だからこうあるべき、飛行機はこういうデザインであるべき、という固定観念だけでは、新しい価値は生まれません。もちろん安全は絶対です。そのうえで、サービスやデザイン、会社のあり方には、もっと挑戦できる部分があると考えていました。
「非常識を常識にする」って、すごくかっこいい言葉ですね。黒い機体は、ただ目立つためじゃなくて、会社の姿勢そのものなんですね。
そうだと思います。スターフライヤーは、既存の航空会社とは違う価値を届けたいという思いで生まれました。その姿勢が、機体の色やデザインにも表れているのだと思います。

お客様に合わせた、過不足のないおもてなし
スターフライヤーは、サービスの印象も強いです。お客様への接し方で大切にしていることはありますか?
私たちが大切にしているのは、お客様の期待を超えることです。ただし、何でもたくさんすればいいということではないんです。
どういうことですか?
お客様に合わせた、過不足のないおもてなしです。例えば、ご家族で利用されるお客様には、ご家族に合った気配りが必要です。一方で、ビジネスで利用されるお客様には、静かに過ごしたい方も多くいらっしゃいます。そういう方に対して、必要以上に話しかけることが良いサービスとは限りません。
確かに、相手によって嬉しい接客は違いますよね。
全員に同じサービスをするのではなく、その方にとってちょうどいい距離感を考える。それがスターフライヤーらしいホスピタリティだと思います。
「過不足のない」という言葉がすごく分かりやすいです。
足りないのもいけない。やりすぎてもいけない。お客様が何を求めているのかを感じ取り、ちょうどよい形で提供することが大切です。
ただ丁寧なだけではなく、相手を見る力が必要なんですね。
そうですね。航空会社の仕事は、安全に目的地までお運びすることが大前提です。そのうえで、移動の時間をどう心地よく過ごしていただくか。そこに私たちの工夫があります。
収入が約9割減。コロナ禍でも飛び続けた意味
コロナ禍のとき、航空業界は本当に大変だったと思います。スターフライヤーは、どのような状況だったのでしょうか。
非常に厳しい状況でした。収入が約9割減った時期もありました。
9割ですか……。ほとんど収入がなくなるような状態ですよね。
そうですね。移動そのものが制限されましたので、航空会社にとっては本当に大きな影響がありました。便数も大幅に減りました。
それでも完全には止めなかったんですよね。
はい。どうしても移動が必要な方はいらっしゃいます。政治関係者の方や企業の経営者の方など、必要な移動のために、最低限の往復便を維持するような状況でした。
航空会社として、飛び続けることにも意味があったんですね。
そう思います。もちろん、経営的には非常に苦しい判断です。しかし、社会に必要とされる移動手段として、できる限り運航を続ける。その責任は感じていました。
創業期もコロナ禍も、違う大変さがあったと思いますが、どちらも「飛ばす」という責任があったんですね。
そうですね。航空会社にとって、飛行機を飛ばすということは、単なる事業ではありません。安全を守り、移動を支え、人や地域をつなぐ責任があります。

提案が通りやすい会社。だからこそ、チャレンジする人に来てほしい
就職活動をしている学生に向けて、企業選びで大切にしてほしいことはありますか?
企業理念に共感できるかどうかは大切にしてほしいです。
企業理念ですか。
人生の多くの時間を、人は会社で過ごします。だからこそ、その会社が何を大切にしているのか、自分がそこに共感できるのかはとても重要です。会社の事業内容や理念の中に、自分が共感できるものが一つでもあると、働く意味を見つけやすいと思います。
条件だけで選ぶのではなく、価値観が合うかどうかも大事なんですね。
そうですね。もちろん待遇や働き方も大切です。ただ、それだけではなく、その会社が社会に何を届けようとしているのか、自分はそこに関わりたいと思えるのか。そこを見てほしいです。
スターフライヤーでは、どんな人が活躍しやすいですか?
チャレンジ精神を持っている人ですね。スターフライヤーは、提案が比較的通りやすい会社だと思います。「こういうことをやってみたい」「こうしたらもっと良くなるのではないか」と考え、声を上げられる人には向いていると思います。
若手でも提案できる雰囲気があるんですか?
ありますよ!もちろん、すべてがすぐに実現するわけではありません。ただ、現場からの提案や新しい発想を大切にする会社ではあります。世の中は常に変化しています。お客様の価値観も、社会の状況も、働く人の考え方も変わっていきます。その中で、同じことを続けているだけでは、実際には少しずつ遅れていく。私は、現状維持は後退でしかないと思っています。だからこそ、変わり続ける姿勢が必要なんです。
「現状維持は後退でしかない」って、すごく印象に残る言葉ですね。
スターフライヤーは、創業期からずっと挑戦を続けてきた会社です。黒い機体もそうですし、サービスの考え方もそうです。常識にとらわれず、新しい価値をつくろうとする姿勢は、今も大切にしています。
創業期からずっと、挑戦する会社なんですね。
大学4年間で、いろいろな環境に身を置いてほしい
学生のうちにやっておいた方がいいことはありますか?
いろいろな経験を積むことです。大学4年間は、自分の行動次第で多くの経験ができます。留学でも、アルバイトでも、課外活動でも、地域での活動でもいい。できるだけいろいろな環境に身を置いてほしいと思います。
環境を変えることが大事なんですね。
自分が慣れている場所だけにいると、考え方も狭くなりがちです。違う価値観を持つ人と関わることで、自分の強みや弱みも見えてきます。
就活にもつながりそうですね。
つながると思います。いろいろな経験をしている人は、自分の言葉で話せることが増えます。面接のためだけではなく、自分が何を大切にしているのかを知るためにも、経験は大切です。
女性の活躍についてもお話がありました。スターフライヤーは女性が多い会社なんですか?
航空業界自体、女性が多く活躍している業界です。スターフライヤーでも、多くの女性がさまざまな職種で活躍しています。
航空会社というと客室乗務員のイメージが強いですが、それ以外にもいろいろな仕事がありますよね。
そうですね。航空会社には、運航を支える仕事、整備、空港での仕事、営業、企画、管理部門など、本当に多くの職種があります。表に見える仕事だけでなく、裏側で支える仕事も含めて、一つの便が飛んでいます。
今回の取材で印象的だったのは、スターフライヤーの黒い機体の奥にある、強い覚悟でした。
まだ飛行機がない。
本当に飛ぶかも分からない。
それでも、2006年3月16日に北九州空港から飛ぶために、資金を集め、人を動かし、地域を巻き込みながら準備を進めてきた創業期の話には、会社をつくることの重みを感じました。
特に、「資金集めは信頼の積み重ね」というお話が印象に残りました。数字だけではなく、この会社は本当に実現できるのか、この人たちは本気なのかを信じてもらうこと。その積み重ねが、スターフライヤーの就航につながっていたのだと思います。
また、黒い機体や左右非対称のデザインには、ただ目立つためではなく、「非常識を常識にする」という挑戦の姿勢が込められていました。反対の声があっても、自分たちらしさを貫いたからこそ、今のスターフライヤーの印象がつくられているのだと感じました。
「現状維持は後退でしかない」
その言葉の通り、スターフライヤーは創業期から今まで、挑戦を続けてきた会社でした。
北九州の空から、新しい航空会社を飛ばす。
その大きな挑戦の裏側には、地域を信じ、仲間を信じ、未来を信じて動き続けた人たちの姿がありました。