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インタビュー

“人を理解する”ことから始まる仕事――サンキュードラッグが目指す、暮らしと健康の新しい形

地域の暮らしには、ただ“便利”なだけでは届かない領域があります。
その土地で生きる人の習慣や困りごと、時間の流れに寄り添いながら、日々の生活を支える存在。

サンキュードラッグは、まさにその役割を担ってきました。
文房具から肌着まで置く店づくりの背景には、地域の声を拾い続けてきた歴史があります。
さらに、購買データと健康データを掛け合わせることで、
“暮らしと健康をどうつなぐか”という新しい挑戦にも踏み出しています。

今回の取材では、その歩みの裏にある哲学と、
一貫して流れる“人を理解する”という視点について、平野社長にお話を伺いました。

地域のライフラインを目指して

サンキュードラッグって、地域の人にとって“ただのドラッグストア以上の存在”になっている印象があります。実際に住んでいる人たちが、一番身近に頼っている場所というか…。その理由ってどこにあるんでしょうか?

うちは“生活の中で本当に困っていること”を解消できるかどうかをずっと大事にしてきたんです。たとえば、かつて地域の中で大きな商業施設がなくなった時期がありました。
周りからは『肌着が買えない』『文房具が近くで手に入らない』という声がたくさん出ました。普通に考えると、ドラッグストアに肌着や文房具は必須じゃない。でも、地域の人からしたら“近くで買えないと困るもの”なんですよ。

確かに…文房具も“どこにでもある”とは限らないですよね。僕らも小さい頃、夜になって突然『明日これがいる』っていうことがありました。

そうそう。子どもが夜に色えんぴつが必要だと言い出す。100円ショップが近くにあるとは限らない。そんな時に“歩いて行けて、買える場所がある”というのは、すごく大事なんです。
スーツなら中心部に行けば買える。でも、日常の下着や文具が買えないのは違う。だから『じゃあ、うちが置こう』と考えました。

便利というより、“生活の味方”みたいな感覚ですね。

地域の方が本当に必要としているものを揃える。それは“売れるから置く”という発想ではなく、『必要とされているなら置く』という姿勢です。
昔は学校の近くに文房具屋さんがあったり、学校内に売店があったりしたけど、今はどんどん姿を消している。そうなると、地域の暮らしの中で“代わりを務める存在”が必要になる。

確かに、今は文房具屋がない地域の方が多いかもしれません。
これって、ドラッグストアというより“地域のライフライン”という役割ですね。

そうですね。地域の生活に“穴”ができないようにする。そこにある店が生活の一部として機能できるかどうかが大切なんです。
うちは“何でも揃う場所”を目指したんじゃなくて、“ここになくて困るもの”を揃えてきた結果が今の姿なんですよ。

その考え方が、地元の人からの信頼につながっているんですね。
日常の困りごとが起きないように、先に準備してくれている…そんな店づくりだと感じました。

そう言ってもらえるのは嬉しいです。ドラッグストアって、本来は薬や日用品が中心なんですが、地域によって“本当に必要とされるもの”は違う。それを一つ一つ拾ってきた積み重ねが、今のサンキュードラッグなんです。

便利ではなく“必要”になるために

さっきのお話を聞いて、サンキュードラッグって“地域の人の生活の流れ”をすごくよく理解しているんだなと感じました。
商品を並べるというより、“困る瞬間”に寄り添っているというか。

そうなんですよ。たとえば文房具の話でいうと、子どもの“明日必要になる問題”って、ほぼ夜に発生しますよね。
だから、店が開いていて、家から歩いて行けて、必要なものが揃っている――そういう状態をつくることが大事なんです。

確かに、生活って“計画通りにいかない前提”で成り立っていますよね。

そうなんです。だから、生活というのは“個別のシーンの集合体”で、そこに介入できる店は強い。
たとえば、雨が降って子どもが急に傘を失くしたとか、ちょっとした肌着が必要になったとか、家の中で“足りないもの”が出てくる瞬間って必ずある。
そのタイミングで“そこにある”というのは、地域にとって大切なんです。

ドラッグストアって、便利な業態というイメージしか持ってなかったんですが、こういう話を聞くと“地域の暮らしを支える仕事”なんだと視点が変わります。

ドラッグストアって、実は地域の生活インフラに近いんです。医療・健康だけじゃない。生活リズムに合わせた店づくりが求められます。
たとえば高齢者の方は、夕方以降に買い物へ行くより、午前中に必要なものをまとめて買う方が多いんです。そうすると、お店としても品出しのタイミングやスタッフの配置を変えなきゃいけない。

時間帯や生活パターンまで読み取るんですね。

ええ。私たちは“生活者の行動データ”を蓄積していますから、地域ごとに人の生活がどう動いているかが見えるんです。
若い人の多い地域では、夜にアイスや飲料の動きが強くなるし、住宅街では朝のパンや牛乳がよく売れる。
その“地域の時間”に合わせて店づくりを変えるのが、生活者視点の徹底なんです。

聞けば聞くほど、ドラッグストアを“チェーン店”として捉えるのは違う気がしてきました。
チェーンの便利さに、ローカルの温度が加わっているというか。

その通りです。同じ商品を並べても、地域が違えば“必要とされる理由”が違う。
だからサンキュードラッグは、地域ごとに“生活の温度”を読みながら店をつくってきました。
そこに住む人たちの生活リズム、年齢構成、買い物のクセ――全部が店づくりに直結しています。

なんだか、地域の生活を一緒に観察しているような感覚になりますね。

そう言っていただけるなら嬉しいです。私たちは“便利”ではなく“必要”になりたい。
そのためには、生活者の視点を徹底的に見つめ続けなければいけないと思っています。

ドラッグ × 調剤 × 行動データの三位一体モデル

生活者視点の話をしてきましたが、実はサンキュードラッグにはもう一つ大きな特徴があります。
それが データの活用 なんです。

データ…というと?

まず挙げられるのが、会員データです。北九州・下関を合わせた商圏人口は約115万人。そのうち 33万人 がサンキュードラッグの会員です。つまり3割近い地域の購買データが蓄積されている。
さらに調剤(処方箋)の利用者は年間 25万人(実人数)。
この二つがリンクすることで、“暮らしのデータ”と“健康のデータ”の両方を見ることができるようになりました。

生活と健康の両方が見える企業って、確かに聞いたことがありません。

特に、購買データと調剤データが両方紐づいている人が 10万人 います。
ここまでの規模で生活行動と健康状態を並行して見られる企業は全国的にも希少です。

そのデータは、具体的にどう活用されているんですか?

たとえば、ある生活習慣を持つ方がどんな疾患リスクと相関があるのか。
あるいは、持病のある方が日常でどんな買い物行動をしがちなのか。
そうした“兆し”をデータが浮かび上がらせてくれます。
それをもとに、本人が気づく前に 将来の健康リスクについてアラートを届ける こともできます。

それはまさに“予防医療の入口”ですね。

処方箋をお渡しするだけではなく、生活の変化まで含めて支援できるのが、データ活用の大きな価値です。
ドラッグストアには“日常の買い物と健康の変化をつなぐ役割”がある。
そこを強化するために、データは欠かせません。

生活を変えるきっかけまで提供できるって、すごいことですね。

もう一つ重要なのが、外部企業とのデータ連携です。私が代表取締役社長を務めるSOO (Segment of One & Only)というマーケティング会社では、全国34社が参加するデータベースを運営しており、1000万人以上の購買データが集まっています。地域や年代ごとの行動傾向を比較できるため、より精度の高い分析が可能になります。

その中にはサンキュードラッグと近いエリアの企業も参加しているわけですよね?

もちろんです。
中には、サンキュードラッグと ごく近くに店舗を構えている企業 もデータを共有しています。
普通なら“競合”と考える関係ですが、お互いのデータを参照できるようにしている。
競争だけでなく、協力があってこそ地域全体を良くできると考えているからです。

企業同士で支え合う発想って、あまり聞いたことがありません。

ドラッグストアは地域の健康インフラですからね。
“データを囲い込むことで勝つ”のではなく、
“データを共有することで地域全体の生活を豊かにする”。
そのほうが長期的に見て正しい。
大学でマーケティングを教える時も、
『競争と協力をどう使い分けるか』という視点を学生に必ず伝えています。

なるほど。サンキュードラッグの本質が見えてきました。
物を売る場所ではなく、“生活と健康をつなぐプラットフォーム”なんですね。

“地域全体を良くする”発想が企業を強くする

さっきのお話にあった“競合企業ともデータを共有する”という発想がすごく印象的でした。
普通の企業だと、競争相手とは距離を置くイメージがあります。

確かに一般的にはそうかもしれませんね。
でも、ドラッグストアが担うのは“地域の生活と健康”です。
そこに対して、企業同士が情報を閉ざしてしまうのは本質的ではないと私は考えています。

競争だけに寄りすぎると、地域全体の質が上がらないということですか?

そうです。
もちろん企業として競争は必要です。ただ、競争だけを追いかけると“地域全体の合理性”を失う場面が出てきます。
たとえば同じ地域に複数のドラッグストアがあると、医薬品や生活用品の需要がどう動いているか、店舗間で読み違える可能性がある。
そこでデータを共有することで、地域の実態がより正確に見えるようになるんです。

競争しながらも、地域全体の最適化を図るわけですね。

ええ。“競争か協力か”という二択ではなく、
地域の人の生活に対して責任を持つ企業同士なら、ケースによっては協力のほうが正しい という考え方が自然です。
実際に、サンキュードラッグとごく近くに店舗を構える企業でも、データを共有しているケースがあります。

近くにある店舗同士でも、ですか?

距離が近いからこそ、データの価値が高いとも言えます。
同じ地域に住む人たちが、どんな行動パターンで動いているか。
どの時間帯に来店し、どんな商品を買い合わせる傾向があるか。
これらを互いに把握することで、店舗運営の精度が上がり、地域全体の利便性も向上します。

競争のためのデータじゃなくて、地域のためのデータなんですね。

そうです。
私たちは“自社のシェアを伸ばすためのデータ”という発想より、
“地域の生活品質を上げるためのデータ”という視点を重視しています。
データは、人の暮らしを良くするために使ってこそ価値がある。

マーケティングというと、どうしても“売るための技術”みたいなイメージが強いですが、
平野社長のお話はもっと広い視野でのマーケティングですね。

マーケティングとは“人を理解する学問”ですからね。
その理解を深める手段としてデータがあるだけで、目的はあくまで“生活者の行動や価値観を読み解くこと”。

競争に勝つことより、地域の暮らしを良くすることを軸にしているんですね。

結果としてそれが企業の信頼につながります。
地域全体の健康を支える仕組みを企業同士で作れば、住む人の満足度も上がるし、地域の魅力も上がる。
“地域を良くする企業”は、最終的に支持される。
これは短期ではなく、中長期の視点で考えることが大切です。

企業が地域と共に成長していくとは、こういうことなんだと実感しました。

自分の言葉で向き合い続けるという姿勢

平野社長のお話を聞いていると、“人を深く理解する姿勢”が企業経営にもデータ活用にもつながっているように感じます。その感覚って、どこで培われたものなんでしょうか?

一番大きな経験は、若い頃に海外で生活した時ですね。文化も価値観も、日本とはまったく違う環境に自分を置いたことで、“相手が何を感じているのか”を真剣に読み取らないと生活が成り立たない、と気づかされました。

環境が違うと、コミュニケーションの難しさもありますよね。

本当にそうです。たとえば、言語も文化も違う相手と長時間話さないといけない場面がある。その時に、“どうすれば誤解が生まれないか”“どうすれば安全で安心な関係を作れるか”を、必死で考えるわけです。私はその時期に、自分の英語力やコミュニケーション力が一気に鍛えられました。

その体験は、今の仕事にもつながっていますか?

つながっていますね。コミュニケーションって、ただ言葉を交わすことじゃなくて、“相手の立場に立って考える”という行為なんです。これはサービス業にも経営にも共通しています。相手の背景や価値観を読み取らずに接すると、必ずどこかですれ違う。逆に、相手を理解しようとする姿勢さえあれば、大きな課題でも解決できる。

まさに、マーケティングの本質に近いですね。

その通り。私は大学でマーケティングを教えていますが、学生には“マーケティングとは人の理解の学問だ”と必ず伝えます。商品を売ることではなく、人を知ることから始まる。その視点は海外での経験から強く学びました。

異文化の中で自分を試されるような環境だったんですね。

そうでしたね。文化の違いに戸惑ったり、コミュニケーションの壁にぶつかったり…。でも、その一つひとつが“相手を見る力”につながった。それが今、データ活用にも、店舗運営にも、組織づくりにも活きています。データの裏には必ず“人の生活”がある。その感覚を忘れないために、あの経験は大事な基盤になっています。

データと生活者の理解が、社長の中で一本につながっている感じがします。

ええ。どれだけ技術が発展しても、基盤にあるのは人です。その“人”の行動や背景を読み解こうとする姿勢があれば、どんな事業でも道は開ける。海外で学んだのは、そのシンプルな事実だったのかもしれません。

取材で見えてきたのは、サンキュードラッグが“ドラッグストア”以上の存在だということでした。
日常の小さな困りごとに寄り添い、地域ごとの生活リズムに合わせて形を変え、
さらにデータを活用して健康の未来まで視野に入れている。
その根底には、いつも人を理解するという視点があります。

暮らしのすぐそばで当たり前のように機能し続ける場所。
それを支える静かな情熱こそ、地域に根づく理由だと感じました。

そしてこの姿勢は、進路を考える私たちにも確かな示唆を与えてくれます。
人を理解しようとする姿勢は、どんな仕事でも価値をつくり、信頼を育てていく。
今回の取材は、そのことをあらためて教えてくれました。

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