「印刷って、もう紙の時代じゃないですよね?」
「そう思われがちですが、うちは“紙を刷る会社”ではなく、“情報を届ける会社”なんですよ。」
創業56年。父の代から続く印刷会社として歩み始めたグランド印刷は、シルクスクリーン印刷を原点に、看板や壁紙、販促物、さらには空間そのものをデザインする“街に見える印刷”を手がけてきた。
街の片隅に掲げられた看板や、商業施設の大きな壁面。
そのどれもが、生活の風景の一部として息づいている。
印刷の仕事とは、ただ色をのせることではなく、誰かの記憶を残すこと。
そんな信念を持つグランド印刷は、2000年代後半に大きな転機を迎えた。
リーマンショックを経て、印刷の価値を“再定義”するための挑戦が始まる。

印刷の原点——“街に見える仕事”
まず、グランド印刷ってどんな会社なんですか?
父の代から続く会社で、今年で創業56年になります。もともとはシルクスクリーン印刷から始まりました。
シルクスクリーンって、どんな印刷なんですか?
紙だけじゃなく、金属やプラスチック、布など、いろんな素材に刷れる印刷方法です。
具体的には、どんなものを?
駅のサイン、建設現場の仮囲い、商業施設の壁面、イベント会場のパネル。街を歩けば、どこかにうちの仕事があると思います。
“街に見える印刷”って表現、いいですね。
印刷って、意識されにくいけど、人は自然と文字や色から情報を受け取っている。街と人をつなぐ役割なんです。
印刷って、もっと“紙の仕事”だと思ってました。
素材は関係ないんです。紙でも壁でも段ボールでも、“伝わること”が一番大事。
シルクスクリーンって、職人技ですよね?
そうですね。気温や湿度、インクの伸びで仕上がりが変わる。人の感覚が必要な仕事です。
印刷って、すごく人間味のある仕事なんですね。
デザインと技術と感性の掛け算。そこが印刷の面白さだと思っています。

リーマンショックが突きつけた問い
DXに取り組むきっかけは何だったんですか?
2009年、東京に進出した直後にリーマンショックが起きました。
影響は大きかったですか?
広告や販促の仕事が一気に止まりました。売上は半分以下。正直、かなり厳しかったですね。
そのとき、何を考えたんですか?
“この仕事は本当に必要なのか”と考えました。景気が悪くなると真っ先に削られる仕事は、なくても困らない仕事かもしれない、と。
そこから、どう動いたんですか?
受け身の仕事をやめようと。自分たちで商品を作り、自分たちで届ける仕組みを考えました。
それがオンライン印刷サービス?
そうです。ネットを使えば、営業が行けない地域にも届けられる。
結果はどうでした?
1年ほどで全国から注文が入り、顧客は500社から2万社に増えました。
そんなにですか!?営業の在り方が大きく変わったんですね!
そうですね。営業に回らなくても、パソコンの向こうでは全国のお客さんが動いている。“これからは、こういう時代だ”と感じました。
印刷とデジタルは“敵”じゃない
正直、デジタルが進めば進むほど、紙に印刷する仕事は減っていくんじゃないかと思っていました。
どちらも“情報を伝える手段”ですから。
そう考えると、デジタルも同じ仕事の延長になるんですね。
そうでしょ?印刷を“紙に刷る仕事”と定義すれば、未来は狭くなる。でも“情報を届ける仕事”と考えれば、デジタルも動画も同じ領域に入ってくる。
なるほど…。
私はこれを“抽象度を上げる”と言っています。一段上から仕事を見ると、敵だと思っていたものが味方になる。
就活にも通じそうですね。
そうだね。業界を見るより、“自分は何を届けたいか”を考えた方がいいと思います。

職人技とデジタルの共創
壁紙の事業のお話、すごく印象に残っています。最初に聞いたとき、正直びっくりしました。
塗装職人さんとの出会いがきっかけでした。
どんな出会いだったんですか?
すごく美しい技術を持っているのに、それを活かせる現場が限られていたんです。
それって…せっかくの技術なのに、出番が少なくなっていた、ということですか?
そうですね。『この技術、このままでいいのかな』と不安を口にされていました。
そこから、デジタルを使おうと?
壁面を3Dスキャンしてデータ化し、継ぎ目のない壁紙として印刷しました。
それなら、同じ技術がいろんな場所で使われるようになりますね。
売れるたびにロイヤリティも還元しています。技術を奪うんじゃなく、増幅する仕組みです。
職人さんからしたら、自分の技が全国に広がっていく感覚ですよね。
ええ。とても喜んでくれました。
段ボールの家電モックも、最初は『え?』って思いました。
住宅展示場で使われる、ダミー家電です。軽くて安くて、でも見た目は本物そっくり。
ただの段ボールなのに、空間の伝わり方が全然変わるんですね。
印刷の価値は、インク代じゃなくアイデア代ですね。
“減らす×生み出す”DX
DXって、正直“効率化”のイメージが強かったです。
そう思いますよね。でも、うちは“余白を作るため”にDXを使っています。
余白、ですか?
考えたり、挑戦したりする時間です。作業を減らして、次を生み出すための。
作業を減らす、というと…?
たとえば、伝票処理や確認作業を自動化しました。すると空いた時間は『この時間、何に使おう?』って考える余裕が生まれる。
そこで、新しいアイデアが出てくるんですね。
そう。現場で『これ面倒だな』『もっと良くならないかな』そう思った瞬間が、次の事業の種になる。
だから、新事業が次々に生まれているんですね。
現場の“困った”が、次のアイデアになる。それが、うちのDXです。

女性75%のチームがつくる働き方
女性社員が多いのも特徴ですよね。
全体の約75%が女性で、半分は子育て中の社員です。
DXが関係しているんですか?
情報を共有できるようになったことで、誰かが休んでもチームでカバーできるようになりました。
“人の優しさを仕組み化する”感じですね。
まさにそれです。
短時間勤務でもリーダーになれるのはすごい。
時間じゃなく、関わり方。それを可能にしたのがDXでした。
変化を文化にする会社
ここまで話を聞いていて思ったんですけど、グランド印刷さんって、ずっと変わり続けてますよね。
そうですね。正直、最初は大変でしたよ。
やっぱり、しんどいときもありますよね…?
ありました。『また新しいことやるの?』って社員に言われたこともあります(笑)。
え、そうなんですか?
でも、少しずつ“やってみる”が当たり前になっていった。気づいたら、変化が特別じゃなくなってたんです。
失敗したら怒られたりは…?
怒りませんよ。(笑)うまくいかなかったら『じゃあ次どうする?』って聞くだけ。
それ、安心しますね。
完璧を目指すな、進化を目指せ。それが、うちの合言葉です。
まとめ
印刷のイメージが、完全に変わりました。
印刷とは、想いを形にして届けること。
紙でも、デジタルでも、段ボールでも。人に届けば、それは印刷だ。グランド印刷が大切にしているのは、技術ではなく、人の想像力と温度。
“届ける仕事”は、これからも形を変えながら続いていく。