山口県下関に本社を構える食品メーカー・農水フーヅ。餃子・焼売・中華まんから棒ジュースやゼリーまで幅広いラインナップを手がけ、創業41年。その製品は沖縄から北海道、さらにはイタリアやカンボジアなど海外にまで広がっています。
2025年2月に社長に就任したのは、35歳の若き代表。命令ではなく「対話」を重ねながら組織を率い、冷凍後まで計算し尽くした商品開発から、下関の地の利を活かした物流戦略まで、会社の細部に目を光らせます。
「興味は、最強のスキル。」
そう語る武内社長に、創業の原点や食品開発へのこだわり、
そしてこれからの展望について、学生リポーター2人が迫ります。

下関発、全国に広がる食品メーカー
まず、農水フーヅさんがどんな会社なのか教えていただけますか?
創業して41年の山口県下関にある食品メーカーで、餃子や焼売、中華まん、ゼリーや棒ジュースなどを製造しています。スーパーやドラッグストアといった量販店さんとの取引が中心です。
棒ジュースって、駄菓子屋などで売られている凍らせて食べる細長いジュースですよね?
そうそう。一見シンプルな商品ですが、凍らせたときにどう味が変わるかまで計算して作っています。温度が下がると甘さを感じにくくなるので、あえて糖度を高めにしています。コストは少しかかりますけど、凍らせたときにちゃんとおいしくなるように作っています。
そんな工夫があったなんて知りませんでした!こうした商品づくりは、いつ頃から始まったんですか?
創業したのは私の祖父で、もともとは乾物問屋をしていました。「これからは問屋として仕入れて売るのではなく、自分たちで作る側に回る」と考えて、60歳前後で今の会社を立ち上げたと聞いています。その判断が、今の農水フーヅの始まりです。
60歳前後で新しく会社を立ち上げるというのは、大きな決断ですよね。そこから今まで続いているのは、すごいことだと思います。
ありがたいことです。うちの製品は沖縄から北海道まで流通しています。海外ではイタリアやカンボジアなどでも販売しています。下関って、九州にも本州にもすぐ行ける場所なんですよね。

命令ではなく、“対話”で率いる35歳社長
35歳という若さで社長に就任されたんですね。
はい。社員の多くが自分より年上ですし、現場のことは僕よりもずっと詳しい人ばかり。だから、「教えてください」っていうスタンスで毎日学ばせてもらってます。
年上の社員の方々と働く上で、意識されていることはありますか?
正直に言えば、簡単ではないんですよね。だからこそ大事にしているのが、命令より“対話”なんです。だから一方的に指示を出すのではなく、「どう思いますか?」と聞くことを大切にしています。一緒に悩んで考えることが多いですね。
若い社長だからこそのやり方なんですね。
毎日が勉強です。分からないことを分からないと言える関係のほうが、強い組織になるとも思っています。
冷凍・再加熱後まで想定する商品開発
農水フーヅといえば、餃子や焼売、中華まんなどの冷凍食品も取り扱っていますよね。開発の現場ってどんな雰囲気なんですか?
正直、泥臭いことの繰り返しですよ。試作して、またやり直して…。特に中華まんの“皮”にはこだわっていて、改良するときは100回以上試しました。途中からは「どれがどれか分からない」状態でしたね(笑)
100回以上ですか…!そこまで突き詰めるんですね。
そうなんです。実際にやってみると、食感や香りの違いは確実に出るんです。そういう小さな積み重ねが、最終的な“おいしさ”につながっていきます。
目に見えない部分の積み重ねなんですね。
そうなんです。だからうちは、冷凍食品でも再加熱したときまで想定して作ります。
食べる瞬間まで設計する、という感覚ですね。
そんなに繊細な世界なんですね…!
冷凍庫の中にある時間も、味づくりの一部なんですよ。だからこそ、設計はすごく緻密になります。

食品の“ハブ”下関が支える物流戦略
農水フーヅさんって下関にあるのに、全国に商品を出荷しているんですよね。
物流は大変じゃないですか?
実はそこが下関の面白いところで、本州なんだけど九州の物流網にも入るんです。
関門海峡を挟んで、本州扱いにも九州扱いにもなる。
だから配送リードタイムが短くて、九州にも本州にもすぐ出せるんですよ。
本州と九州、両方の強みを使えるんですね。
そうなんです。
陸・海・空、全部の交通が通る“ハブ”のような場所です。
食品の製造にとって、この立地はかなり有利ですね。
だから大手の工場も多いんですか?
そうなんです。この地域に大きな工場が多い。
その点でも、下関には地理的なメリットもあると思います。
立地は大きな武器ですね。
ただ、物流が良くても品質が良くなければ意味がない。
だからうちは、FSSCという国際的な食品安全認証を取得しました。
認証って、やっぱり重要なんですか?
認証は“名刺”みたいなものです。取引先から「この資格を持っていないと取引できません」と言われることもある。でも大事なのは書類ではなく、働く人の“意識”。ルールで縛るより、「これをやったら危ない」と自分で感じられるかどうかが重要なんです。
味がいいだけでは届かない。農水フーヅの海外戦略
海外輸出のお話もされていましたが、どんな国に輸出しているんですか?
今はイタリア、カンボジア、香港、中国、ドイツなどですね。
主力はゼリーやジュースです。魚や肉を使う商品は輸入規制が厳しい国が多いので、比較的通りやすい商品を中心にしています。
なるほど、戦略的にアプローチされているんですね。
でも、海外に出すには“味がいい”だけじゃダメなんです。数量、物流、コスト、全部の条件が合わないと取引にならない。だから「夢」より「現実」の世界なんですよ(笑)。
現実的に考えると簡単なことばかりではないってことなんですね。
海外の食品企業は、1つの商品を大量に作るところが多いんです。
一方で、うちの強みは複数のジャンルにまたがって製品を作っているところにあります。ひとつのカテゴリーに絞るのではなく、いくつものカテゴリーに「面」で提案できる。幅広く手がけながら、どれにもこだわる。それがうちのスタイルですね。
それが、海外でも強みになっているんですか?
そうですね。最近は円安もあって、日本の食品が「価格と品質のバランスがいい」と評価されることが増えてきました。以前は“高くて良い”と言われていましたが、今は“選びやすい価格で品質がいい”。丁寧につくる日本のスタイルは、今の市場には合っていると思います。

興味は、最強のスキル
農水フーヅに入社したら、どんな仕事に関われますか?
営業、総務、商品統括、製造、品質保証室などいろいろあります。
営業で言えば、商社と組んでスーパーに商品を出したり、業務用の新しい販路を開拓したり。数字だけじゃなくて、人と話して関係を作る仕事ですね。
食品業界に興味がある学生も多いと思うんですが、どんな人に来てほしいですか?
自分の“好き”を持っている人、ですね。スキルよりも、“興味”。「食べるのが好き」「あの味が忘れられない」──
その気持ちが一番のエネルギーになります。興味があれば、自分から勉強しますし、成長も早い。僕自身もそうでした。
もともと食品が好きで、食べ物の仕事がしたくて戻ってきたので。
学生のうちにやっておいたほうがいいことはありますか?
人とのつながりをできるだけ広げることですね。
社会人になると、どうしても関わる人が限られてきます。
学生時代はいろんなタイプの人と話して、視野を広げておくのがいいと思います。
最後に、就活生にメッセージをお願いします。
大学生は“人生の夏休み”だと思って、いろんなことに興味を持ってください。
もちろん就活も大事ですが、今やりたいと思ったことをとにかくやってみる。それがきっと皆さんの人生の糧になると思いますよ。
商品開発、物流、海外展開、そして組織づくり。
取材を通じて浮かび上がってきたのは、
どの局面でも丁寧に考え、対話を重ねながら前に進む会社の姿でした。
そのすべての根底に、武内社長が一貫して口にした「興味」という言葉がありました。
興味を持ち続けること。それが、農水フーヅを全国へ、そして海外へと押し上げてきた41年の原動力です。