山口第一株式会社 坂田敬次郎社長インタビュー
山口第一株式会社は、山口市・宇部市・山陽小野田市でタクシー事業を営みながら、中古住宅のリノベーション事業や、配車システムを開発するIT事業にも取り組んでいる会社です。
移動と住まいに、ITという新しいスパイスをかける。坂田敬次郎社長は、なぜ事業の幅を広げてきたのでしょうか。今回は学生リポーター2人が、事業の背景から採用で大切にしていること、就活生へのメッセージまで伺いました。

コロナで売上が半分に。タクシー会社から始まり、「住まい」に目を向けた理由
会社名からは想像できないくらい、いろいろな事業をされているんですね。社長は、ずっと山口第一さんでお仕事をされてきたんですか?
いえ、私は東京でずっとコンサル業界にいて、2018年に山口第一に入社しました。当時の社長で今の会長が私の母親で、事業承継という形で山口に戻ってきたんです。
東京から戻ってこられたんですね。色んな事業の中でも私は特に中古リノベーション事業に関心があるんですけど、どんなきっかけで始まったんですか?
はい。大きなきっかけは2020年のコロナです。4月、5月に感染が広がり始めたころ、タクシーの売り上げが半分になってしまったんですよ。
半分ですか…!
観光が減って、夜の飲食も減った。それにZoomのようなオンライン会議が爆発的に普及しましたよね。観光や夜の需要は、人間の本質的な欲求なので、パンデミックが終われば絶対に戻ってくると思ったんです。でも、出張の需要は戻らないんじゃないかと。
出張ですか?
東京の会社が山口に出張すると、飛行機代やホテル代、飲食代で1人10万円ぐらいかかります。3人なら30万円。それがオンラインならほぼ0円です。
たしかに、企業からすると大きな違いですね。
山口は工業地帯が多く、大手企業の出張がとても多かったんです。だから、コロナが落ち着いてもタクシーは100パーセントは戻らない。何か新しいことをしないといけない、というのが発想のスタートでした。
そこで不動産だったんですね。
実は、不動産事業は一部やっていたんです。このビルもうちの持ち物で、隣の会社さんなどに貸しています。北九州や福岡のタクシー会社さんも、意外とビルやマンションを持っていることが多いんですよ。
タクシー会社がビルを持っているんですか?
理由はバブルです。今はタクシーを1日運転して2万円か3万円ぐらいの売り上げですが、1980年代のバブルのころは8万円とか10万円ぐらい。すごく儲かったので、不動産を買うタクシー会社が増えたんです。
どんな不動産を買っていたんですか?
特に多かったのが飲食ビルです。飲んだらタクシーに乗るじゃないですか。飲食ビルを持っていれば「うちのタクシーを使ってください」と言える。移動の川上を押さえる、循環のビジネスをしていたんですね。
飲食ビルとタクシーに、そんなつながりがあったんですね…!
コロナでタクシーの売り上げは落ちましたが、不動産事業は本当に順調でした。国の補助などもあって、マンションも含めて皆さんずっと賃料を払い続けてくださったんです。そのときに思ったのが、パンデミックで人の移動は変わるけれど、人の住まいは変わらないだろう、ということでした。
住まいは、なくなりませんもんね。
それに、人の移動には必ず出発地点があります。住宅のユーザーが増えれば、その方々がタクシーに乗ることにもつながる。相乗効果が出るんじゃないかと考えて、住宅をやろうと決めました。
中古住宅は1割未満。「リノベア」が目指す、地域をカラフルにする仕事
住宅の中でも、なぜ中古を選んだんですか?
新築はすごくノウハウが必要ですし、0からつくらないといけないので、新規参入にはハードルが高い。中古なら、既存の物件を買ってリノベーションすれば、まずはなんとかなる。参入ハードルの低さが1つです。
ほかにも理由があるんですか?
少し専門的な話ですが、日本は中古住宅の流通が諸外国と比べて非常に少ないんです。確か、アメリカやイギリスは60パーセント、70パーセントぐらいが中古。日本は10パーセントもないぐらいなんですよ。
そんなに差があるんですね。
だから、そこに伸びしろがあると思いました。ちょうどメルカリなどが伸びていた時期で、日本人の中古に対する心理的なハードルが低くなっているというデータもありました。
最近、空き家が増えているという話をよく聞くので、中古のリノベーションはそういう問題にもつながるのかなと思って、すごく興味がありました。
おっしゃる通りです。私たちは「リノベア」というブランドで、今は山口店と下関店があって、来年は小倉南区にも出す予定です。事業ミッションは「リノベーションで地域をカラフルに」です。
地域をカラフルに、ですか。
空き家は維持が大変なので、管理されずにどんどん汚くなってしまうんです。空き家が増えると町の景観が悪くなって、人が住まなくなる。人口が減るとお店もなくなって、また住む人が減っていく。だから古い物件をちゃんとリノベーションする。そういう場所が増えていけば、人も増えて活性化するんです。
空き家をきれいにすることが、まちの人口にまでつながっていくんですね。

FAXと地図で配車していた会社が、IT企業「REA」をつくるまで
移動と住まいのほかに、ITの事業も別会社でされていると伺いました。ITと交通を組み合わせようと思ったきっかけは何だったんですか?
2018年に戻ってきたとき、ITやDXがめちゃくちゃ遅れていたんです。お恥ずかしい話ですが、人によってはパソコンもメールアドレスも持っていないのが当たり前。書類のやり取りもFAXが当たり前で、業務効率が悪いなと悶々としていました。
今だと想像しにくいです…。
現場に入って気づいたのが「デマンド交通」です。バスとタクシーの間をとったような交通で、簡単に言うと乗り合いタクシー。自治体から運行を任される形で、うちもいろいろな自治体さんからお仕事をいただいていました。
乗り合いだと、配車が大変そうですね。
そうなんです。たとえば10人から「明日乗りたい」と注文が来たら、どの車両で、どの順番で迎えに行くかを決めないといけない。それを当時は全部アナログで、地図を見ながらやっていたんです。業務時間がかかって、通常のタクシーの電話に出られず、クレームをいただいたこともありました。
アナログだと、そこまで影響が出てしまうんですね。
それに、タクシーってなかなか皆さん乗らないですよね。高いからだと思うんです。もう少し安くなれば、いろいろな方に乗っていただける。だから相乗りタクシーは主流になっていくんじゃないかと思って、システム化すれば面白いと考えました。
参考にした会社はあったんですか?
ベンチマークしていたのがAmazonとトライアルです。Amazonは通販サイトを運用するためのサーバーを全部自分たちで作っていて、性能が良すぎて、それ自体を外販するようになった。トライアルは順番が逆で、もともとはスーパーなど小売業向けのシステム会社だったんです。でもシステムが全然売れなくて、「じゃあ俺らがこれを使って小売業をすればいいんじゃないか」と、自分たちでスーパーを立ち上げたんですよ。
トライアルって、もともとはシステム会社だったんですか!
そうなんですよ。私も同じ発想です。グループ内にIT会社があれば、それ自体が事業の差別化になるし、できたモデルは外販すればいい。そこで自分たちで立ち上げたのが「REA」です。地域経済を活性化していく、という意味なんですけど。
当時、同じようなシステムはなかったんですか?
相乗りタクシーをシステム化しているところは、どこもありませんでした。今はかなり増えてきましたけどね。
そういう発想は、どこから来るんでしょうか?
家業に戻ろうと決めたのは2016年です。それまでは、夏休みや正月に東京から帰ってきても、山口を休む場所として見ていたんです。でも、家業を継ごうと思って帰ってくると、商売する場所として見るようになる。
見え方が変わったんですね。
東京と比べてみると、駅前の空き店舗がすごく目につくようになって、タクシーを呼んでも来ない。地方って本当に衰退しているんだと感じたんです。人口減少は構造的な問題なので、もう止められない。それを前提に商売しないといけないと考えて、すごく考えるようになりました。そこでAmazonやトライアルを見て、一気にビジネスの視野が広がった手応えがありました。
私の地元は鹿児島なんですけど、タクシーは、車を運転できなくなった高齢者の方が病院に行くために使うイメージが強いんです。地域によって、利用している層は違うんですか?
地方はほぼ一緒です。午前中は高齢者の方の買い物や病院が中心。決定的に違うのは都市部、特に東京です。都市部は通勤に電車やバスを使うので、移動手段としてタクシーを使うビジネスユーザーが多いんです。
地方だと、通勤は車ですもんね。
そうなんです。だからタクシーに乗るのは、正直お酒が入っているときくらい。地方は生活構造が一緒で、高齢者が多く、免許返納もある。どこもほぼ同じなんですよ。
同じ構造があるから、そのシステムがほかの地域でも使えるんですね。
そうです。おっしゃる通りです。
事業は、現場に入らないと立ち上がらない。社長が今、就活するなら
前職のコンサルのお仕事をされていたと伺いました。前職での知識も、今のお仕事に生きているんですか?
これ、皆さんに言われるんですけど正直にいうとあまり役に立っていないんです。
えっ、そうなんですか?
もちろん、どのマーケットを攻めるか、市場規模はどれくらいかといった教科書的なことは使います。でも、それだけでは事業は立ち上がらない。しっかりユーザーを理解して、どんなニーズがあるのかを知る。そこはコンサルではなかなか経験できないんです。
強い武器になりそうだと思っていたので、意外です。社長は就活のとき、コンサル業界が第一志望だったんですか?
コンサルと総合商社を受けました。いずれ自分で事業を立ち上げたかったので、それができるのはどういう業界かを逆算して考えたんです。先に内定が出たのがコンサルだったので、そちらに行きました。ただ、今思えばもっと幅広く見ておけばよかったなと思います。
将来起業したいからコンサルに行きたい、という友達も多いです。今、新卒で就活するなら、どんな分野を見ますか?
まずはスタートアップやベンチャーを見た方がいいと思います。売り上げが何十億ではなく、何億ぐらいの会社です。スピード感がすごく早いし、経営に近いメンバーと仕事ができるんです。
大手企業とは、何が違うんでしょうか?
大手企業が悪いわけではありません。分業制ができているので、仕事の一部を担うことになる。スタートアップやベンチャーは人数が少ないので、否応なく経営のことがわからないと仕事ができない環境なんです。起業家を目指すならそういうところがいいと思います。
失敗だらけだった。社長が今まで後悔していることとは?
あえてお聞きしたいのですが、これまでのお仕事の中で、失敗したエピソードや「あのときこうしておけばよかった」と感じることはありますか?
もう失敗だらけですよ。コンサル時代にデータを間違えて、とんでもない資料を出してしまったこともあります。山口に戻ってからはタクシー運転手も経験したんですが、お客様に言われた場所と全然違うところに行ってしまったり、途中でガス欠したり。
社長も、タクシーを運転されていたんですね。
ただ、私がよく若手やメンバーに言っているのは、「失敗しないような仕事をするんじゃなくて、成功する仕事をしろ」ということです。失敗しないようにしようと思うと、チャレンジしなくなる。100点を目指そうとすると、めちゃくちゃ努力しないといけないし、尖ったこともしないといけないんです。
失敗しないことと、成功することは違うんですね。
たとえば研修で「質問がある人?」と聞いても、なかなか手が挙がらないじゃないですか。変な質問をしたらどうしようと思う。でも時々、社長にアピールしようとする人がいる。そういう人は、成功しようと思っているから行動するんです。
たしかに、手を挙げるのって勇気がいります…。
経営的な失敗で1つ言うと、コロナのとき、新卒採用を止めたんです。売り上げが半分になって、どうなるかわからない不透明さがあったので。それを今はすごく後悔しています。
どうして後悔されているんですか?
新卒は1年、2年ではなかなか一人前にならなくて、3年、4年かかる。会社がやばくても2020年、2021年に採用していれば、2024年、2025年には若手が一人前のメンバーになっていた。組織の厚みがまったく違っていたはずなんです。未来を支える人間には、ちゃんと投資をしないといけない。コロナでびびって若手への投資をできなかった自分が、めちゃくちゃ情けないなと思いました。

欲しいのは「素直でいいやつ」。面接で見ているのは、失敗の話し方
今、採用ではどんな人に来てほしいと考えていますか?
学生に限らず採用でよく言っているのは、能力やスキルが高い人ではなく、「素直でいいやつ」が欲しいということです。
素直でいいやつ、ですか。
うちには素直であること、勉強好きであること、やりきることなど、5つのコアバリューがあります。特に重要視しているのが、素直で勉強好きであること。スキルは後からついてくるものだと思っているので、それさえあればなんとかなるんです。
スキルより、姿勢が大事なんですね。
極端なことを言うと、頭が良くて仕事ができそうでも、上司の意見に「なんでやらないといけないんですか」と返す人ではなく、「じゃあ、まずやってみます」と前向きに仕事を捉えられるかどうか。その方が絶対に重要です。私の周りで成功している方も、圧倒的にそういう人が多いんですよ。
素直でいいやつかどうかは、どういうところで見るんですか?
いい質問ですね。難しいですよ。1つ例を挙げると、失敗した話を聞くことがあります。「なぜ結果が出なかったんですか?」と聞いたときに、市場環境が悪かった、同僚に恵まれなかった、と答える人は、他責の癖があるなと感じます。
自分以外に理由を求めてしまう、ということですね。
そうです。他責にすると、そこで考えがストップするんです。「コロナがあったので」で終わったら、それ以上の話はない。でも「コロナはあったけれど、自分がもう少しこう努力すればできたと思う」と言えれば、未来の話ができる。それで、その人の人生の豊かさは絶対に変わると思っています。
自分の失敗を、どう言葉にできるかなんですね。
就活生へ。「逃げられない環境」と「逆算思考」
私は挑戦心はあるけど、続けるのが苦手で…。勉強したい気持ちはあっても続けられないとき、社長はどうしていますか?
私がよくやるのは、「それをやる」とあえて人に言うことです。自分が逃げられない環境をつくる。
逃げられない環境、ですか。
昨日も社員30人ぐらいに研修をしたんですが、採用や人材に5倍、10倍投資するとわざと言いました。30人の前で言ったので、絶対にやらないといけないじゃないですか。人間って絶対に弱いんですよ。私は自分が弱いとわかっているから、あえて人前で言うんです。
自分だけのことだと、言わなければやめてもいいって思っちゃいますもんね。
目標を立てるとき、社長は何年後くらいを考えているんですか? 先すぎると難しそうだなと思って。
いろいろな時間軸の計画があります。大きいところでは、2035年に100億。5年ぐらい先は、あくまで数字だけの規模感です。具体的に詰めるのは1年から3年ぐらいですね。
具体的には、どうやって詰めていくんですか?
全部逆算です。7月1日までに達成するなら、6月1日までに何をしないといけないか、そのために5月までに何をしないといけないか。そして実際の結果と比べて、どこで乖離があったのか、原因は何かを深掘って、次にどうするかを考える。その繰り返しです。
3年先から逆算するなんて、想像できないです…。
仕事をすればすぐできるようになりますよ。「これをやるために、いつまでに何をしないといけないか」という思考プロセスを癖づけておけば、社会に出たときにめちゃくちゃ仕事がしやすいと思います。
このままだと間に合わないかもしれない、と気づくのはいつなんですか?
結構早い段階でわかりますよ。重要なのそれをちゃんと見るか見ないか。でも、みんな見たがらないんです。それで直前になって「ごめんなさい」となる。だから、嫌なことほど先に見るんです。
アルバイトでも思います。「できます」と言ったけど間に合わないかもしれない、でも今は言えない、みたいな…。
それは、すぐ言った方がいいですよね。これが習慣になれば、きっと強い社会人になれますよ。
おわりに
タクシーの売り上げが半分になったとき、坂田社長は「人の移動は変わっても、住まいは変わらない」と考え、住宅の事業を始めました。アナログだった配車業務はシステムにし、その仕組みを外販するIT会社までつくった。地方の人口減少を前提に、移動と住まいとITを組み合わせて事業を広げているのが、山口第一という会社です。
取材の中で印象に残ったのは、「素直さ」と「逆算」という言葉でした。失敗を人のせいにせず、自分の言葉で語れるか。目標から逆算して、嫌なことほど先に見られるか。坂田社長自身も、コロナで新卒採用を止めた判断を「後悔している」と率直に話してくれました。
就活では、つい自分のスキルや会社の知名度に目が向きがちです。けれど坂田社長は、スキルは後からついてくると言います。人の意見を素直に聞けているか。いつまでに何をするか、逆算できているか。その2つを見直すことが、どんな会社に進んでも通用する、社会に出る前のいちばんの準備になるはずです。