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インタビュー

「ごみをたべて、まちをつくる。」――福岡・麻生セメントが担う、社会の“動脈”と“静脈”の話

「セメントの会社って、何をしている会社か知っていますか?」

そう聞かれて、すらすら答えられる学生は、きっと多くないはずです。

セメントは、コンクリートを作るための“のり”。私たちが毎日歩いている道路や、住んでいる建物の中に、当たり前のように使われている素材です。けれども、それを作っている会社が、社会のどんな仕事をしているのかは、意外と知られていません。

北九州市・苅田町と、福岡県の内陸・田川市。麻生セメント株式会社は、この2つの工場を拠点に、西日本一帯にセメントを届けてきた会社です。グループのルーツは、1872年。福岡・飯塚での石炭採掘までさかのぼり、今年で創業153年を迎えます。

そんな麻生セメントのホームページに、こんな言葉が書かれていました。

「ごみをたべて、まちをつくる工場」

セメントを作る会社が、ごみを食べる――?

会社を率いるのは、代表取締役の林田亮輔社長。麻生家以外から登用された、初の社長です。経営の信条は「IQより、EQ」。

そんな林田社長に、セメントという仕事の奥行きと、これからの経営、就活生へのメッセージまで、学生リポーター2人が迫ります。

そもそも、セメントって何?

まずセメントって、そもそも何なんでしょうか?

いい質問です。

セメントは、コンクリートの主原料です。骨材と呼ばれる砂利や砂、そこに水を混ぜて固めたものがコンクリート。セメントは、その骨材どうしをくっつける“のり”の役割をしているんですよ。

確かに、白っぽい粉のイメージがあります。

厳密に言えば、白というよりグレーなんですけどね。それでも社内ではずっと“白”と呼んでいて、これには理由があるんですよ。

麻生グループの祖業は、もともと石炭。1872年、福岡の飯塚で石炭を採掘し始めたのが始まり。今年で創業153年。エネルギー資源だった石炭という“黒”から、社会インフラを支える基礎資材であるセメントという“白”への大転換。これを社内では昔から「黒から白へ」と呼んでいるんです。

その「黒から白へ」って、社内ですごく大事にされている言葉なんですね。

そうですね。国内の石炭事業がだんだん衰退していくなかで、麻生にとっての“第二の創業”として始まったのがセメント事業でした。グループの中でも、特別な思い入れがある祖業なんです。

「ごみをたべて、まちをつくる」とは、どういうことか

ホームページにあった“ごみをたべて、まちをつくる工場”っていう言葉が、すごく印象的だったんですが、あれって、どういう意味なんでしょうか?

人間の身体に例えると分かりやすいですよ。

動脈は、身体に必要なものを送り出す血管ですよね。セメント工場でいえば、ダム、道路、橋、ビル――社会インフラを作るために必要なコンクリートの原料を、世の中に送り出している。これが“動脈”の役割。

じゃあ、静脈は何になりますか?

静脈は、身体から不要になったものを回収して戻していく血管。

セメント工場には、キルン――回転釜と呼ばれる巨大な設備があって、これが原料を1,450℃まで熱して焼成するんです。これだけの超高温で処理できる施設は、世の中にほとんどない。だから、社会から“不要”とされた廃棄物や副産物――建設汚泥、汚染土壌、火力発電所から出るフライアッシュ、ポテトチップスの袋みたいな廃プラスチック――そういったものを引き受けて、燃料や原料に変えているんです。

実際、どれくらいの割合で廃棄物を活用されているんですか?

廃プラスチックって、世の中に膨大にあるんですよ。でも処理に困る。一方で、燃やせばカロリーを持っているわけです。だったら、うちの1,450℃で燃焼させて、その分の石炭の量を減らせばいい。

ざっくり言うと、1トンのセメントを作るのに、300キロは廃棄物由来の原料なんです。燃料も3割強は産業廃棄物です。災害廃棄物や、過去にはアスベストが社会問題になったときも、うちで受け入れてきました。

もし、セメント工場がそれを受け入れなかったら、どうなるんでしょうか?

どこかで焼却施設を新しく作って、燃やすしかないですね。でもそれは、処理するためだけにコストもかかるし、処理するためだけに燃料も使わないといけない。

だったら、もともとセメントを焼成するために高温を上げているうちの工程で、まとめて活用したほうがよっぽど効率的なんです。業界全体で年間400〜500万トンの廃棄物・副産物を処理している。これは、社会から見れば代替の効かないインフラなんですよ。

動脈の側面しか知らなかったので、すごく勉強になります。これって、いまよく言われる循環型社会につながるお話ですよね。

まさにそうです。サーキュラーエコノミー――循環型社会と呼ばれている考え方ですね。セメント工場は、その“要”だと言われているんですよ。

CO₂と、正面から向き合う

ただ、セメントを作る過程ではCO₂もたくさん出る、という話も聞きました。そこは、どう向き合っていらっしゃるんですか?

そこは、業界全体が抱える大きな課題です。日本だけじゃなく、世界中のセメント業界が向き合っている話でもあります。

うちでは年間約100万トンのCO₂を排出していますが、そのうち4割は、石炭を燃やしたり、購入電力から発生したりするもの。残りの6割は、原料の石灰石――化学式でCaCO₃――が、800〜900℃で熱分解されるときに、勝手にCO₂が出てしまうんです。これは原料そのものの性質なので、燃料を変えるだけでは解決できないんですよね。

仕組み上、避けられない部分があるんですね。これに対して、業界としてはどう対応していくんでしょうか?

2026年から、日本全体でCO₂排出量取引制度というのが始まります。業界ごとに基準値が決められて、それを超えている会社は、下回っている会社からCO₂を“買わなければいけない”という仕組みです。

CO₂を、お金で買うんですか?

いわゆるカーボンプライシングですね。

当面の対応としては、1トン作るのに必要な石炭の量を減らすとか、廃プラスチックの利用率をさらに上げていくとか。長期的には、CCS・CCUSというCO₂を回収・貯留・再利用する技術が実用化されない限り、完全にゼロにはならない。それでも、調査と検討は今から始めています。

単に“環境に優しい会社です”って言うだけでは済まない世界なんですね。

済まないですよ。逃げずに向き合って、できることを一つずつやっていくしかないんです。

「IQより、EQ。」――人を動かすということ

林田社長は、麻生家以外から登用された初めての社長だと伺いました。経営をするうえで、いちばん大事にしていることって何ですか?

経営資源って、よく“人・モノ・カネ・情報”と言いますよね。でも、モノもカネも情報も、結局それを使いこなすのは“人”なんです。だから、人がいちばん大事な経営資源だと思っています。

そして、その人に気持ちよく動いてもらうために、私が社員によく言うのは「IQより、EQ」です。

EQ、ですか?

Emotional Intelligence Quotient――心の知能指数、と訳されます。IQは先天的な要素が大きいけれど、EQは後天的に高めていける、と言われている指標です。

行動経済学という学問があって、心理学と経済学を組み合わせたような考え方なんですが、経済学だけで言えば、人は“安くて品質のいいもの”を選ぶはずなんですよ。でも実際の人間って、そう合理的には動かない。ビジネスの現場でも同じで、相手の心理や状況を読めない限り、いい仕事はできないんです。

なるほど。知識や能力だけではなく、相手の気持ちを想像したり、自分の仕事にどんな意味があるのかを考えたりする力も、仕事の成果に大きく関わってくるんですね。

まさにそうです。「3人のレンガ職人」という話はご存じですか?

同じレンガを積んでいる3人のうち、1人目は「ただレンガを積んでいる」、2人目は「家族を養うために壁を作っている」、3人目は「大聖堂を作っている」と答えた、という話。

同じ仕事をしていても、モチベーションが違えば、最終的に出来上がる大聖堂の質まで変わってくる。だから社内では、仕事に対するモチベーション(ワーク・エンゲージメント)と、組織に対するモチベーション(従業員エンゲージメント)、その両方を高めるためのいろんな取り組みを続けているんです。

経営者によって、人の動かし方ってずいぶん違いますよね。社長は、ご自身ではどんなタイプだと思われていますか?

自分のタイプは正直よくわかりません(笑)。昔のプロ野球で言えば、星野監督みたいに厳しく叱って動かすタイプもいれば、褒めて動かすタイプもいる。スタイルは人それぞれでいいと思うんです。

ただ、いちばんダメなのは、人を動かすことそのものを諦めている人。「どうせ言っても変わらない」と思って、何のやり方も試さない人。経営者にはいろんなタイプがいていい。でも、人を動かす努力を放棄したら、そこから先の経営はないと思っています。

社長になられて、最初に取り組まれたのは、どんなことだったんですか?

給与と昇進・昇格の透明化です。

人のモチベーションをいちばん削ぐのって、“不公平感”と“不透明感”だと思うんですよ。昔はうちの会社でも、課長代理よりも一般社員のほうが給料が高い、なんていう逆転が起きていました。それは納得感がないですよね。だから「部長はこの範囲、課長はこの範囲」と、全社員にオープンにしました。

全社員に開示する、ということですか。そこまで踏み込まれた背景には、どんな思いがあったんでしょうか?

仕事ですから、会社に来るのが“むちゃくちゃ楽しい”という状態にはならないかもしれません。でも、ちょっとでも前向きに働ける環境を作りたい。これだけ転職が当たり前の時代になっているからこそ、最終的な居場所として選んでもらえる会社にしたいんです。

ボルダリングと、不知の自覚

少し話が変わるんですが、社長ってご趣味はあるんですか?

ボルダリングをやっています。

ボルダリングですか。意外なご趣味ですね。

ジムに行くと、私はだいたい年上から数えたほうが早いくらいの年齢なんですよ(笑)。10歳上の先輩もいれば、いちばん下は小学生まで一緒に登っている。30代、40代、20代、いろんな世代、いろんな職種の人と話す機会があるんです。

そこで得られる刺激が、仕事のアイデアに直結することもけっこうあります。社内だけにいると、どうしても視野が狭くなりますから。

いわゆる、越境学習ですよね。

そう。そして、もう一つ社員に言っているのが、「不知の自覚」――いわゆる“無知の知”、ですね。

知らないことを“知らない”と認められること。それから、知らないことに対して興味を持てること。知らないことが1つ分かれば、また知らないことが2つ、3つ出てくる。それを追いかけていけば、どんどん枝が広がるように知識が増えていく。

知らないことは、恥ずかしいことじゃないんです。むしろ、それを認められない人ほど、成長が止まる。仕事って、待っているものじゃなくて、自分で見つけにいくものですから。

福岡から、日本の未来を築く

数あるセメント会社の中で、麻生セメントの強みって、どこにあるんでしょうか?

いくつかありますが、まず一つは、田川工場の立地です。

セメント工場って、海の近くに作られることが多いんですよ。原料や製品を船で運ぶ前提で設計されているので。でも、田川工場は福岡県のほぼ中心、内陸にあります。福岡市にも近く、北九州市にも近い。需要地に近い内陸型の工場って、全国でもほとんどないんです。

立地が、そのまま強みになっているんですね。

海沿いの工場から船で運んで、サービスステーションを経由して、トラックでお客さんへ届けるというのが一般的ですが、田川工場の場合は、いきなりトラックで直送できる。

それに、もう一つ大事なのは、福岡で長年やらせていただいてきた“無形の信頼”ですね。ただ、それに甘えるんじゃなくて、品質やサービスといった“有形の価値”を磨き続けないといけない、と社内ではいつも言っています。

麻生セメントは、福岡県内のセメントシェアが28%でトップだと伺いました。これって、全国的に見てもめずらしいことなんでしょうか?

全国シェアで見ると、うちは4%ちょっとしかないんですよ。でも47都道府県のうち、業界大手3社以外がトップシェアを取っているのは、唯一、福岡県だけなんです。

これは、ある意味で社員の誇りでもあります。

それだけ地元に深く根ざしていらっしゃるんですね。社長から見て、福岡の魅力ってどんなところですか?

ほどよく都市機能があって、ちょっと行けば自然もある。これってなかなかない街ですよ。

私自身、出張で東京に行くと、なんだか息苦しいんですよね。あれだけ人が多いと、ちょっと怖いというか(笑)。

ただ、よく“福岡は東京より20年遅れている”みたいな言い方をする人もいますが、私はちょっと違うと思っているんです。福岡は、東京の縮小版を目指す土地じゃない。アジアにこれだけ近くて、最近は熊本の半導体産業の発展をきっかけに九州全体に活気が戻ってきている。グローバルに見れば、独自のポジションを取れる土地なんですよ。

麻生セメントは、工場機能も本社機能も営業機能も、すべて福岡県内にあります。だからこそ、“九州から日本の未来を築く”という思いは、ここで生きる会社としての誇りなんです。

就活生へ。「将来」を見て、会社を選んでほしい

最後に、就活中の私たちに企業選びのコツなど教えていただけますか?

正直に言うと、偉そうなことは何も言えないんですよ。私自身、大学4回生になって、ようやく真面目に大学に通ったような学生だったので(笑)。

バンドをやって、少人数で行動して、協調性があるほうでもなかった。だから後年、同級生に「部長になった」と話したときも、「お前、人の前で喋れるのか」と驚かれたくらい(笑)。社長になるなんて、自分でも想像していませんでした。

学生時代から、今のキャリアが見えていたわけではなかったんですね。麻生セメントを選ばれたのは、どんなきっかけだったんですか?

正直、ほぼ偶然です(笑)。当時のリクルートから段ボールいっぱいに会社案内が送られてきて、「麻生」が“あ”で始まるから一番上にあった。それで気になって見たら、セメント会社なのに専門学校や情報システム会社、人材派遣会社をどんどん立ち上げていて、その“多角化”に興味が湧いて入った。本当にそれだけです。

でも、配属されたのが企画室で、いろんなことをやっているうちに、気がつけば36年間セメント一筋。知らず知らずのうちに、セメントという仕事に誇りを持てるようになって、好きになっていたんです。

ではそんなご自身の経験を踏まえて、私たち就活生にアドバイスをお願いします!

一つだけ言えるのは、初任給の額みたいな“目先の数字”だけで会社を決めないでほしいということです。初任給が高くても、その先で給与が上がらなければ意味がない。会社が伸びていきそうか、昇進のチャンスがあるか、社風はどうか。「今」じゃなくて「これから」を見て決めたほうがいいと思います。

入社前に、その会社で必要なスキルを準備しておくべき、というのはどうでしょうか?

技術系の仕事に就きたいなら、専門的な勉強は確かに大事です。それは就職にも有利ですしね。

ただ、それ以外の職種なら、ビジネスの知識やスキルは入社後にいくらでもつきます。だから入社前から“この会社用”に身構えなくていい。それより、学生のうちにいろんな人と接して、視野を広げておくこと。バイトでも、遊びでも、何でもいいんです。

入社のきっかけは、何でもいいんですよ。問題は、入った先で、自分なりの“やりがい”を見つけられるかどうか。最初から正解を選ぼうとしすぎなくていい、と私は思います。

ごみをたべて、まちをつくる。

社会から“不要”とされたものを引き受け、私たちの暮らしを支える基礎資材へと変えていく。それが、セメント工場のもうひとつの顔でした。

動脈と、静脈。

1,450℃のキルンが、その両方を担いながら、福岡の地から日本中に“安心”を送り出していきます。

そんな会社を、麻生家以外から登用された初の社長として率いる林田社長が、取材の中で繰り返し口にされていたのは、

「IQより、EQ。」

そして、

「知らないことを、知らないと認められること。」

という、人と向き合う仕事のあり方についての言葉でした。

セメントというグレーの粉の向こうにあるもの。それは、石炭から白へと姿を変えた153年の歴史と、これからの社会を“現状打破”で支えていく人たちの姿です。

「あなたの街の安心をカタチに、九州から、日本の未来を築く」――。

麻生セメントの挑戦は、これからも続いていきます。

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