「ITの会社」と聞いて、どんな働き方を思い浮かべますか。
パソコンに向かって、黙々とコードを書く──そんなイメージを浮かべる人もいるかもしれません。
けれど、システム開発の現場で最も多くの時間を占めているのは、人の「こうしたい」を聞き出し、まだ世の中にないカタチを考え抜く時間。コードを書くことは、その一部にすぎないと言います。
今回取材したのは、福岡市博多区に本社を構える株式会社日本ノベルティ。創業27年、ソフトウェア開発を軸に、福岡と横浜の2拠点で約50名が働く会社。銀行や大手メーカーといった堅い取引先と並んで、ゴミ焼却炉の温度管理から駐車場のシステムまで、ジャンルを問わず幅広い領域に挑み続けてきました。
お話を伺ったのは、代表取締役の高嶋明社長。技術者として現場を歩み、「人を大切にする会社をつくりたい」という思いから独立された方です。
“文系のほうが伸びていく”というIT業界の意外な真実から、就活そのものに効くヒントまで。学生リポーター2人が、高嶋社長にじっくり迫ります。

銀行から、駐車場の防犯まで──“幅広さ”がこの会社の入口
今日はよろしくお願いします。まず、日本ノベルティがどんなお仕事をされているのか、教えていただけますか?
うちは創業して27年になります。ソフトウェア開発が中心で、福岡と横浜に拠点があって、社員は約50名。銀行や大手メーカーといった、比較的堅いお客様と取引していることが多いですね。
堅いお仕事の一方で、ちょっと意外な案件もあると伺いました。
ありますね。うちは“何を作るか”を限定していないんです。お客様が困っていて、システムで解決できるなら、ジャンルは問わない。たとえば、ゴミ焼却炉の温度を管理するシステム。
最近だと、駐車場のシステムも面白い話があるんですよ。入口にカメラがあって、車のナンバーを撮っていますよね。あれを使って、不審な動きをしている車を検知できないか、という実証実験を始めようとしているんです。
駐車場のカメラから、防犯にもつながるんですね…!
そうなんです。ジャンルの壁をつくらず、面白そうなものに挑んでいく。それが、この会社の入口だと思ってもらえると近いですね。

文系のほうが、伸びていく──3年で逆転が起きる理由
ちなみに、IT業界って文系・理系のどちらが多いんですか?正直、理系の方ばかりというイメージがあります。
それ、よく言われるんですが、うちはむしろ文系のほうが多いんですよ。ふつうに開発もしますし、設計もします。理系が多いイメージを持たれがちですが、この業界はどの学部から来ても、最初は全員“未経験”なんです。情報系の学部を出ていても、学校でやることと現場でやることは別物。
たとえば学生さんがプログラムを書くと、“ちゃんと操作されたとき”を前提に書くことが多いんですね。でも実際のシステムは、誰がどう触っても止まらないように作らないといけない。たとえばATM。暗証番号を間違えたら、学生さんのプログラムだと“エラーで終了”になりがちなんです。
プロが設計するとどうなるんですか?
「もう一度入力してください」と案内が出て、「3回間違えたら窓口へ」と次の手まで用意してある。実行ボタンを連打されたらどうする?処理の途中で停電したら?──そこまで想定して、初めて“仕事”なんです。
だから最初は理系の方がスッと入っていく。でも、その差はだいたい1年で埋まります。そして不思議なもので、3年くらい経つと、文系のほうがぐっと伸びていくことが多いんです。
逆転するんですか?それは、どうしてですか?
そもそもシステムって、何のために作るか分かりますか?
えっと……誰かが「欲しい」と思っているから?
そうです。お客様の「こういうものが欲しい」を実現するために作る。だから、まず話を聞かないと始まらないんです。何が欲しいのか、どう使いたいのか、ぜんぶ引き出して、整理して、「ではこういう機能にしましょう」と形にしていく。これを要件定義といいます。
そこから、ようやくプログラミングに入る。出来上がったらテストして、全部つないで動かしてみる。実は、プログラミングそのものは、この仕事全体の1割か1割5分くらいなんですよ。
そんなに少ないんですか!?
残りの大半は、人と話して、考えて、設計している時間。だから“話せる・考えられる”という力が、すごく必要とされます。コミュニケーション能力は、この業界では絶対に必要な力なんです。
ITの仕事って、思っていたよりずっと“人と人”との仕事なんですね。
そこを面白がれる方にとっては、すごく豊かな世界です。
“伸びる人”は、暗記より応用で考える
では、伸びる人と、そうじゃない人の差はどこに出るんですか?
「応用が利くかどうか」ですね。システムって、まだ世の中にないものを作る仕事なんです。だから、覚えた知識をそのまま当てはめるんじゃなくて、「この場合はどうかな」「これに使えないかな」と組み替えられる人が伸びていきます。
逆に、暗記タイプは、苦労することもあります。学校の勉強って、“答えがある問題”を解く訓練でしょう。でも仕事は、“答えがまだない問題”から、答えを作っていく。頭の使い方が、逆なんです。
大学までの“正解探し”とは違うんですね。
そう。だから情報系の学部を出ていないと不利、という話にはならない。何を学んできたかよりも、どう考えるか、考えることをやめないか。そこが分かれ目です。

点数では測れないもの──“サッカー一筋”の内定者の話
採用のときって、その“応用力”や“考える力”を、どう見抜いているんですか?
正直に言うと、完璧には見抜けないんですよ(笑)。だから話題をいろいろ変えて、角度を変えて質問してみたりして、その人の考え方を探っていく感じですね。
最終的に、何が決め手になるかというと──実は今日ちょうど、内定を出したばかりの子がいるんです。女の子で、高校も大学もサッカー一筋。サッカーをやるために、福岡から千葉の大学に進んだ子なんですよ。
サッカー一筋で、IT企業に!?
そうなんですよ。能力試験の結果は、うちの基準でいくと少し足りないくらいでした。でも、ものすごいガッツがあってね。最終面談で「根性をアピールしていいですか」って言うんです。
聞けば、「中学からサッカーのために親元を離れて、鹿児島の強豪校で3年間、共同生活で踏ん張ってきた」と。コーチが厳しい環境で、それを耐え抜いてきた。それを熱く語ってくれたんですよ。
システム会社の面接とは思えない展開ですね(笑)。
そうなんですよ(笑)。でも、決めましたね。点数では測れないものがあるなと思って。“好きだから続けられる”、“しんどくても踏ん張れる”──これって、どの仕事でも、いちばん効いてくる力なんですよ。
学生時代に「何をしてきたか」よりも、どう向き合ってきたか、を見ているんですね。
そうです。だから、自分が「これは続けてきた」と言えるものを一つ持っている人は、強いですよ。
初任給の数字より、その奥を見てほしい
ちなみに、お二人は就活でいちばん優先するものって何ですか?
私は、「自分がどれだけ成長できそうか」ですね。
私は、「その仕事を好きで楽しいと思えるかどうか」です。
いいですね。じゃあ、その仕事の初任給が18万円だったら、どうしますか?
……正直、ちょっと悩みます。
ですよね(笑)。それが普通の感覚だと思います。最近、初任給ってどんどん上がってきているでしょう。30万円スタートの会社もある時代です。もちろん、本当に頑張って上げている会社もたくさんあります。
一方で、なかには“割り振り”の工夫で見せているところもある。たとえば初任給を上げたぶん、賞与の月数を少し抑えていたり、退職金の積み立てを薄くしていたり。
表面的な数字だけだと、見えない部分なんですね…。
「新人と既存社員の給与が逆転した」という話、ニュースで聞いたことありますか?あれも、採用のために新人の給料を厚くしたぶん、長く働いてきた社員の昇給を抑えるとそうなる。
つまりその会社を選ぶということは、自分も10年後、20年後に同じ立場に立つ、ということなんですよ。
自分が将来、新人に追い抜かれる側になる、ということですか…。
そう。だから、生涯で受け取る金額で考えてみてほしいんです。当たり前のことをきちんとやっている会社かどうか。その見極めができる目を、就活生のうちから育てておくといいと思います。
でも、それってどうやって見抜けばいいんですか?
難しいですよね。
ただ、僕がずっと見てきて思うのは、給料を理由に動いている人より、“好きだから続けている人”のほうが、結局はちゃんと伸びていくということ。
軸が「自分の好き」にあれば、初任給の数字だけで会社を選ばずに済みます。それが、長い目で見たら、いちばん得をする選び方になることが多いんですよ。
楽しいところに、人は集まる
事務所を拝見して、すごく素敵だなと思ったんですが、こだわりがあるんですか?
そうですね、事務所はかなりこだわっています。家賃は安くはないですよ(笑)。
でも、社員が家族や友人を「ここで働いてるよ」と連れてきたときに、ちゃんと胸を張れる場所にしたかったんです。
ホームページにも「人がすべて」と書かれていました。
これからの時代、人を大切にしない会社は続いていけないと思っているんです。だから福利厚生も、できることは全部やろうと。年末には大抽選会をやって、社員旅行は2年に一度、最近は海外まで行きますし。
大抽選会、楽しそうですね!
去年か一昨年は、75インチのテレビを景品に入れたんですよ。当たった社員が「持って帰れない」って言って、配送業者にも「サイズオーバーです」って断られて(笑)。結局、売っちゃったみたいです(笑)。
半分ネタなんですけど、そういう仕掛けって意外と大事で。僕の基本的な考え方は「楽しいところに人は集まる」なんです。
オフィスを見せていただいた感じも、すごく賑やかでした。
静かに見える時間ももちろんあります。設計をしているときは、モニターをじっと見て、何時間も手が止まる。傍から見たら、寝てるみたいなんですよ(笑)。
でも頭はフル回転している。実は、黙っている時間こそ、いちばん仕事をしている時間。集中する時間と、笑い合う時間、その両方が大事なんです。
実際に働いている方からも、雰囲気のお話を聞きたいです。
自分も完全に文系で、入社前はITはほぼ趣味レベルでした。決め手は“雰囲気”ですね。会社見学で実際の業務を見せてもらったら、社員同士が雑談しながら和やかに仕事をしていて、「ここなら自分も成長できそうだ」と思えたんです。
理系の方に追いつけない、と感じることは特にないですね。技術で理系が強い場面もあれば、お客様との打ち合わせで文系が活きる場面もあって、足し合わせるとだいたい同じになる。それが現場の感覚です。
本当に社内の雰囲気がいいんですよ。社長があの人柄ですから(笑)。時には黙々と仕事しすぎている社員にちょっかいをかけてます(笑)
社長だけでなくみんな個性は強いかもしれません。でも僕も最終は雰囲気で選びましたが、入社して正解でしたね。

―――――――――――――――――――――――――――――
取材を終えて、いちばん印象に残ったのは、「学部や経歴は、その人の限界ではない」という感覚でした。
システム開発という仕事の中心にあるのは、人の「こうしたい」を聞き出し、まだ世の中にない答えをかたちにしていくこと。そこで効いてくるのは、覚えた知識ではなく、応用して考える力。そして、好きだからこそ続けられる熱量です。3年経てば、文系も理系も関係なくなる──その言葉は、入口の不安に立ち止まっている就活生にこそ届いてほしいものでした。
そして高嶋社長が繰り返し語ってくれたのは、目の前の数字ではなく、その奥にあるものを見る目を持ってほしい、ということ。初任給の金額も、賑やかなオフィスも、「なぜそうなっているのか」まで考えられたとき、会社選びはきっと、自分の手のなかに収まるはずです。
「楽しいところに、人は集まる」──。その言葉どおり、笑い声の絶えない取材でした。
学部やこれまでの経験を理由に、ある業界を選択肢から外しかけている人がいたら、まずその思い込みのほうを、いちばん最初に疑ってみてください。その先に、思いがけない景色が広がっているはずです。